第9話 星見の尖塔・48階・上
48階から49階に上がる階段の間で遠くから音が聞こえた気がした。
足を止めて耳を澄ます。クロエが俺の方をいぶかしげに見た。
「どうかしましたか?」
何の音かと思ったが……魔法の爆発音と何かがぶつかり合う音。これは戦闘音だ。
「誰かいる」
「誰か、とは?」
クロエが不思議そうに首を傾げる。
モンスターはモンスター同士では戦わない。この理由はなぜなのか、解明されていない。
モンスター同士で共食いでもしてもらえると楽だ、というのは全冒険者の共通認識だと思うんだが、モンスターが戦ってるのを誰も見たことはない。
戦闘音がする、と言うのはつまり別のパーティが戦ってるってことだ。
他のパーティがいるのか。こんなダンジョンに俺達以外が来るとも思えないんだが。
「他のパーティが近くに居ます。戦っている」
そういうとクロエが一瞬何とも言えない表情を浮かべた。
驚いたと……いうより、とんでもない敵と遭遇したかのような不安そうな表情だ。
中ボスすらこともなげに一蹴してきたクロエが初めて見せる表情だ。
その表情も一瞬で消えて、普段の顔に戻った。
クロエが音の方を見る。
「見に……行きましょう」
◆
マップを確認して戦っている場所のあたりを付ける。
狭い通路を走ると、反響する魔法の爆発音とモンスターの獣のような叫び声と恐らく戦士の気合の声が近づいてきた
もう少しだ。
回廊の少し開けたところで、冒険者パーティが戦っていた。
敵はライオンとヤギの頭、蛇の尾を持つモンスター、キマイラだ。
牙や爪、蛇の毒に加えて魔法も使う難敵。普通に戦っていても厄介な奴なのに、それに前後を挟まれている。
「援護する!」
村雨でキマイラを後ろから切る。キマイラが叫び声を上げて倒れた。
震天雷の爆風がもう一体を捉える。
キマイラがこっちを見た。態勢が崩れたところを冒険者たちが薙ぎ倒していく。
キマイラが次々と切り倒されて、あとにはドロップアイテムが残された。
暗闇の毒滴、鋼の爪あたりか……殆どがRクラスの素材だ。持ち帰れば金になるが、今は大して役には立たないな。
冒険者の方を見てみると、4人全員が立っているからとりあえず犠牲者はいないらしい。それぞれがアイテムで回復したりしている。
その内の一人、白い鎧を着た男が大股で近づいてきた。
何かと思ったが……近くに来たら分かった。トールギルだ。
◆
戦っていたのはトールギルのパーティだ。
改めて見ると見覚えがある顔ぶれだ。
「なにしてるんだ?こんなところで」
「口の利き方に気を付けろ、トリスタン」
敵意丸出しの口調でトールギルが言う。
「お前如きが俺より評価されて、騎士クロエ殿のお供をするというのが許せん」
そう言って、トールギルが俺と村雨を値踏みするように見る。
「身に合わない装備を頂いたか……それに少しは強くなったようだが……今のレベルはいくつだ?」
「38」
答えると、トールギルがぎょっとしたような表情を浮かべた。
「38だと……嘘をつくな!」
「ステータス見ますか?」
これに関しては嘘をついても全く意味がない。
ステータスを見せるとトールギルの表情が歪んだ。
「なぜだ……信じられない。いったい何をした」
「何もしてませんよ」
正確には経験点を融通してもらっている形ではあるが。
いずれにしてもステータスを誤魔化すことはできない。これは国王でも平民でも共通だ。
「貴方の供に相応しいのは私だと思います。こんなやつではない。騎士クロエ殿。それを申し上げに来ました」
トールギルがクロエの前に跪いて言った。
クロエが困ったように首を傾げて俺を見る。
「私が彼を選んだのですが」
「私は
「彼の案内の能力が役に立っています……それに、私の方が貴方よりかなりレベルは高い。私の言うことが聞けませんか?」
諭すような口調でクロエが言うが、トールギルが拒むように首を振った。
「無礼は百も承知です。しかし、男として、戦士としてそのお言葉には承服できかねます!」
そういってトールギルが立ち上がって俺を睨んだ。
「では、私の方が貴方のお供に相応しいと証明してご覧に入れます。トリスタン!お前に決闘を申し込む!」
決闘か。
冒険者同士は戦うことを禁じられている。ギルドからすれば貴重な
ただ、冒険者同士の諍いは起こるわけで、決闘はそれの決着をつけるための一対一の勝負だ。
立会人を付けての一対一、HPの半分を超えるダメージを受けた方が負けだ。殺した場合は殺した側もギルドから重い罰を課される。
まさか自分がその当事者になるとは思わなかった。
「騎士殿!立会人になっていただきたい」
クロエが首を傾げてトールギルを見た。何を言われているのか分からないって感じだ。
「立ち合いをお願いしたい。私とトリスタンの決闘の」
「ああ……そういうことですか、わかりました」
クロエが頷いて俺を見た。
「どうしますか?」
「……やります、やらせてください」
今まで散々好き放題言われてきた。レベル差があって何も言い返すことも出来なかった。
だが、決闘ならそんなものは関係ない。それに今なら勝負になる
クロエが俺の方を見る。
その目が、やるなら絶対に負けるなと言っていた。頷いて返す
「ただし、貴方が勝っても私は貴方を彼の代わりにするつもりはありませんよ」
「なら……私をパーティに加えていただきたい!こいつに劣るなどあり得ない!」
トールギルが強い口調で言って腰からすらりと白く輝く剣を抜いた。
あいつの自慢のSR装備、護法の白帝剣だ。
普通に使えばステータスの一部を引き上げてくれるだけだが、
トールギルが構えを撮った。
こっちも村雨を構えて間合いを取る。クロエがため息をついた。
「これでいいか分かりませんが……双方、堂々と戦って下さい」
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