第54話 いつもの朝
「ふふふ~ん♪」
朝食後、蒼乃はいつもの日課で、部屋の掃除を始める。それは美しい朝日の差し込むいつもの朝だった。
「あれっ、どうしたの?」
蒼乃が愛美を見る。愛美はなぜか荷造りをしている。
「私は消えるわ」
愛美が言った。
「えっ」
蒼乃が驚いて愛美の顔を見る。
「き、消える?」
「助けてくれてありがと」
「う、うん」
「ちひろにもよろしくね」
「う、うん」
蒼乃は戸惑うばかりだった。
「料理おいしかったわ」
「消えるって出て行くってこと?」
戸惑う蒼乃は、分かり切ったことを訊いてしまう。
「そう」
「そんなに急いで出ていかなくても・・」
蒼乃は慌てて言う。
「・・・」
しかし、愛美はそれには何も答えなかった。そして、元々少ない荷物をまとめた愛美は、その荷物の入ったバックを持ち立ち上がると、そのまま玄関まですたすたと歩いて行く。
「まだいてもいいんだよ」
それを追いかけながら蒼乃が言う。
「私はあんたたちを邪魔するほど野暮じゃないわ」
「えっ」
その答えに蒼乃は困惑する。
「私はそういう存在にはなりたくないの」
そして、玄関までたどり着くと靴を履きながら、愛美が言った。
「えっ」
「それにあたしはやっぱり野良猫体質なのよ。こういう安定した生活はなんか居心地悪いの」
「・・・」
蒼乃はそう言われては何も言えなかった。
「これからどうするの?」
蒼乃が心配そうに愛美の背中に訊く。
「大丈夫よ、そんなに心配しないで。小さい頃から私はずっとこの街で一人で生きてきたんだから」
愛美は笑顔で蒼乃を振り返った。
「・・・」
「お幸せにね。あなたたちきっとうまくいくわ」
愛美は、最後にそう言って右目をつぶりかわいくウィンクすると、右手を上げてそのまま出て行った。
「・・・」
蒼乃はその背中を見送ることしかできなかった。
愛美は、小鳥がちょっと枝に休んでから飛び立って行くように、季節の変わり目にその土地を吹き抜けていく風のように、蒼乃たちの前からふいっといなくなった。
「・・・」
蒼乃は一人ダイニングのテーブルに腰掛ける。愛美のいない部屋はなんだか少し寂しかった。
「愛美出てっちゃったよ」
その日の夕方、包帯を取り替えている時、蒼乃がちひろに言った。
「ふ~ん」
だが、ちひろはそう言っただけだった。全然気にする風もなかった。
「・・・」
私がいなくなってもこんな感じなのかなと、蒼乃はそんなちひろの反応に少し不安になった。
ちひろ ロッドユール @rod0yuuru
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