第34話 遊園地
「着いた」
蒼乃が大きく息を吐きながら呟く。二人の乗ったインパラは、自宅マンションから本来なら三時間半は掛かるところを、二時間ほどぶっ飛ばし、遊園地の駐車場に着いた。
「ふぅ~」
もう十分、ここまでのドライブでスリル満点の楽しい乗り物には乗った気がしたが、蒼乃は車から降りる。
「わっ、あれ何?」
車から降りたとたん、ちひろが遊園地の敷地内から見える観覧車の巨大な建造物を指さし叫んだ。
「観覧車だよ」
「あれ乗る」
ちひろは園内に入る前からすでに、駐車場で子どものようにぴょんぴょん飛び跳ね大興奮だった。
「早く行こ」
そして、蒼乃を置いてさっさと行ってしまう。その背中には、黒光りした大型自動拳銃が大きく突き刺さっている。
「せめて、もう少し小さい拳銃だったら・・」
それを見つめる蒼乃はそう思うのだが、ちひろはそのまま行ってしまう。
「大丈夫だろうか・・」
蒼乃は一人呟く。蒼乃はちひろの後を追った。
しかし、園内に入ると蒼乃の心配をよそに、周囲は全くそんなちひろを気にする気配はない。多分、あまりに露骨に見えるので、周囲はそれをファッションか何かだと思うのだろう。確かに少女が背中に突き刺している拳銃を本物と思う日本人はいない。
「早く行こう」
ちひろが振り返って、ちひろの背中をぼーっと見ている蒼乃を見た。
「う、うん」
蒼乃はちひろの背を追って、小走りに走り出した。
「あれ乗ろう」
ちひろは、大興奮で観覧車を指さし子どもみたいに飛び跳ねる。
「う~ん、あれは最後に乗ろうよ」
「なんで?」
「え?なんかそういうもんじゃないの」
蒼乃にもよく分からない。でもなんとなく観覧車は最後のような気がした。とにかく最初ではない気がした。
「他にもっとおもしろいのあるよ」
「じゃあ、あれ乗る」
ちひろが指差したのは、巨大にそびえ立つジェットコースターのレールの束だった。
「えっ」
蒼乃は驚く。蒼乃はジェットコースターが大の苦手だった。小学生の時に、無理矢理地域のおばさんに勧められ所属していた鼓笛隊の小旅行で遊園地に行き、そこでジェットコースターに乗ったのだが、あまりの恐怖にそこで蒼乃は泣いてしまった思い出があった。それに、すでにジェットコースターのようなちひろの運転で、もうかなり参っている。
「私はちょっと・・」
「いこ」
しかし、そんな蒼乃の反応など全く気にすることもなく、ちひろは蒼乃の手を取り、ジェットコースターの乗り場まで走り出した。蒼乃はもうついていくしかない。遊園地に行こうと言い出したのは蒼乃の方なわけだし。
平日の昼過ぎでも、ジェットコースターの乗り口では少し列が出来ていた。二人はそれに並ぶ。蒼乃はその時点で顔が青くなっていた。
「・・・」
蒼乃は高々とそびえ立つジェットコースターのレールを、恐る恐る見上げた。その高さに、その顔はますます青くなった。
そして、二人の順番はやって来た。
「・・・」
二人は一番怖いとされる一番前の二列だった。蒼乃は、その現実に目の前がくらくらした。
カタンカタン
ゆっくり、ゆっくり、恐怖を煽るように、コースターはレールの頂点へと引き上げられてゆく。蒼乃は生きた心地がしなかった。
そして、ほどなくして二人の乗るコースターは一番高い頂上に到達した。と思った瞬間、落ちた。
「わああああっ」
蒼乃は大絶叫した。コースターは落ちるようにレールの上を滑ってゆく。ものすごい勢いでジェットコースターは突き進んでゆく。そして、曲がりうねり、回る。
「わああああっ」
蒼乃は叫ぶ。
「きゃははははっ」
しかし、ちひろは、まったく怖がる様子なく、その隣りで楽しそうに両手を上げ笑っている。
「わぁ~、わぁ~、もう無理無理~」
一方蒼乃は、怖くて目も開けていられなかった。あまりにも怖くて、蒼乃は隣りのちひろにしがみつき固く目をつぶった。
「ふーっ」
やっと、しかし、あっという間に二人の乗ったコースターは終点に戻ってきた。
「終わった・・」
蒼乃は放心状態だった。
「もうダメ・・」
ジェットコースターから降りた蒼乃は、足がもつれていた。
「もう一回乗ろう」
しかし、そこへちひろが元気いっぱい言った。
「ええっ」
蒼乃はのけぞる。しかし、ちひろの勢いには逆らえず、結局また乗る羽目になった。
結局、その後、ちひろの強い要望で二人は三回乗った。
「もう一回乗ろ」
しかし、三回目が終わった後、ちひろはまだ乗ろうとする。
「もうダメ、もう無理・・」
しかし、三回目のコースターから降りた蒼乃はもうその場に倒れそうなほどふらふらだった。蒼乃は、もう完全に精も根も枯れ果てていた。
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