第12話 真っ白いアイスとコーラ
「ここで、この子は生活しているのかな・・」
蒼乃は、改めて部屋の中を見回した。やはりそこには人が生活することに大切な何かが根本的に欠落している。しかし、なんとなく少女が生活している感じがあった。
「多分、この子はここに住んでいる・・」
やっとそれだけが、おぼろげに蒼乃に分かりかけてきた。
「この子はここに一人で暮らしているのだろうか」
他に同居している人の気配はなさそうだった。
その時、少女の見ていたアニメ番組が終わった。そして、そのアニメのちょっとアップテンポでコミカルな曲調のエンディングテーマが流れ出した。
「ふ~、ふふふ~ん」
それに合わせ、少女が鼻歌を歌っている。蒼乃が見ると、少女はミーコーを顔の前に持ち上げ鼻歌に合わせながら、ゆらゆらとチークダンスを踊るみたいに、ミーコ―と一緒にソファの上でリズムに合わせて揺れていた。
突然、少女が蒼乃を見た。そして、首を傾げた。蒼乃のことを完全に忘れているといった表情だ。なぜあなたはここにいるのと、その表情は語っている。
しかし、蒼乃も困る。そんな表情で見られても、少女がいいよと言ったから付いて来たのだ。
「なんでそんなとこ座ってんの」
少女が言った。
「えっ」
少女はそのまま蒼乃をずっと見続けている。
なんとなく、少女の隣りに座れということらしいと分かり、蒼乃はおずおずと立ち上がり、そのまま少女の隣りに緊張しながら座った。
そういえば、初めて会った時も公園のベンチで、同じように横に並んで座っていた。
「・・・」
蒼乃は緊張して、体が強張った。
「これ、あんたの猫?」
少女が喜代乃を見た。
「えっ、私のっていうんじゃないけど・・」
蒼乃は説明に困った。
「アイス食べるかな」
「えっ!」
「あたしアイス好きなんだ」
蒼乃は、冷蔵庫の上の段にずらっと並んでいたカップアイスを思い出した。
「お前もアイス食べる?」
少女はミーコーの顔を覗き込むように話しかけた。ミーコーは少女の手の中で、かまってもらって嬉しいのか、クネクネと楽しそうにしている。
「アイス食べるかな」
少女はもう一度蒼乃を見た。
「いや・・、多分、食べないと思う・・」
「そうか・・」
少女はがっかりした表情をした。
「あ、でも、解けたアイスなら舐めるかも」
蒼乃がそう言うと、少女は急にパッと明るい表情になり、すぐに冷蔵庫の前まですっ飛んで行くと、カップアイスを一つ持ってまたすっ飛んで戻って来た。
「あたしがおいしいんだから絶対おいしいよ」
よく分からない理屈を呟きながら、少女はミーコーに蓋を取ったアイスを近づけた。それは真っ白い、煙るような冷気を出すバニラアイスだった。
「あっ、そのままじゃ」
「ダメなの?」
「うん・・」
蒼乃は、カップアイスに付属の木の小さなスプーンでカップアイスの蓋に、少しアイスを落とした。そして、蒼乃と少女の間のソファの上にそれを置いた。その前に、少女がミーコーを置く。
「少し解けたら舐めるかも」
「そうか」
少女は、小さな子供みたいにワクワクと嬉しそうにミーコーを見つめる。蒼乃と少女はしばらく、ミーコーの動きをみつめた。ミーコーは解けかけのアイスにゆっくりと近づき、小さく解けたアイスを舐めた。
「あっ、舐めた」
少女が、大きな声を出した。そして、嬉しそうに蒼乃を見た。そして、またミーコ―を見た。その興奮する姿はまさに小さな子どものそれだった。でも、ミーコーはすぐに顔をそむけ、舐めるのをやめてしまった。
「やっぱ甘過ぎるんだ」
蒼乃が呟いた。
「ダメなの?」
少女が蒼乃を見た。
「うん」
「じゃあ、コーラ飲むかな」
「いや・・💧 多分・・、飲まないと思う。というか飲ませちゃいけないんじゃないかな・・」
「なんで?」
「なんでって・・、言われても・・、そういうものだから・・」
「そうか。つまんないな。コーラおいしいのに」
少女は不満そうにそう言って、ミーコーを再び手に取り、両手で高々と掲げるように持ち上げると、蒼乃に足を向ける格好でソファに深々と横になった。
少女は再び蒼乃のことなど忘れたがごとく、ミーコーに高い高いをして楽しそうに遊び始めた。
「・・・」
蒼乃はそんな少女をおずおずと見つめる。
少女を見ていると蒼乃はなんとなく、この子は悪い子ではないのではないかと思えてきた。むしろ、無邪気な子どものよう。しかし・・。この子は殺し屋・・。確かに蒼乃は見たのだ。あの公園で、あの男性が力なく人形のように倒れるところを・・。
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