第4話地獄を見た運転手(証言者・三沢琢磨)
私は
これはかつての同僚A(仮名)の身に起きた話である。
Aははっきり言って、酷い同僚だった。
乗客に対する態度が悪く、仕事をサボる癖が酷い。車内で喫煙もする。
あの時私はドライバーではなく、事務所の仕事をしていた。
事務所の仕事は主に無線でタクシーに、乗客の予約などの連絡をするのだ。
夜中の十一時、私は乗客からの予約を受け、乗客の場所から一番近いところにいるAに連絡を入れた。
「こちら事務所。客からの予約だ、至急向かってくれ。どうぞ」
「ああ~?何だよ、せっかくいいとこなのに・・・。」
その声を聞いて嫌な予感がした。
「おい、お前まさか酒飲んでいないよな?」
その時無線は既に切れていた、私は何度も連絡したがAが応答することは無かった。
あれがAとの最後の無線連絡だった・・・。
しばらく仕事を続けていると、警察から電話が来た。
Aの運転するタクシーが、軽トラックと事故を起こしたというのだ。
タクシーに取り付けられているZPSの位置をパソコンで見ると、Aの運転していたタクシーは例の十字路のところにあった。
この十字路の噂が私の頭をよぎった、でもすぐに忘れた。
それからAとは音信不通になった。
他のドライバーにもAの所在を尋ねてみたが、Aの姿を見た人は一人もいなかった。
Aの家にも電話したが、Aは電話に出なかった。
警察からもAの事をたくさん訊かれた。
警察にAが見つかったか質問したところ、まだ見つかっていないということだ。
Aは普段の評判の悪さで、他の同僚や上司からさほど心配されることは無かったが、私は同期でもあるAのことが心配だった。
音信不通になってから三日後、Aが警察に保護されたと連絡が来た。パトロール中の警察官が十字路の電灯のない角のところで、蒼ざめた顔で気を失っているところを見つけた。警察官がAから聞いた話によると、軽トラックと衝突した時に、どこかわからない空間に自分はいた。そして目の前から、自分の運転していたタクシーを運転しながら、顔に大怪我を負った女子高生がケラケラ笑いながら突っ込んできたという。
Aは逃げまわったが、やがて逃げ切れずに轢かれることを覚悟した・・・。
そこからAの記憶は無い。
その後Aはやはり飲酒運転をしていたことがばれて、会社を解雇された。
会社を去る時のAの言葉は、「二度とタクシーには乗れない・・・。」だった。
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