10話.[分からないわね]

「ね、悟……」

「え、どうしたの?」


 洗い物をしているところを邪魔するのは悪いけど言わせてもらう。


「最近さ、……抱きしめてくれないのはなんで?」

「ああ、それは我慢しているからだよ、抑えないと嫌われちゃうから」

「嫌わないから……抱きしめなさいよ」


 いや違う、相手にしてもらってばかりでは駄目だ。

 こう言っても継続したままだったから後ろに移動して抱きしめてみた。


「……いや駄目でしょそういうのは」

「だって……甘えたいから」

「と、とりあえず離れて、終わらせるからさ」


 そもそも好きだって言ってもらえたっけ?

 それ的なことを言っていたけど、好きだとは直接告白されていない気が。

 いまさら言うのは違うけどさ、どうせならなんかもっと恋人らしいことがしたい。


「終わったよ、立っていないで座ってよ」

「キスしたいわ」

「も、もう?」

「あたしは中学1年生の頃から好きでいま付き合えているのよ? したいわよ、そういうことだってあたしも」


 執拗にこっちに住むように言ってきたのもつまりそういうことではないだろうか。

 母はあまり急襲してくるタイプではないけど、万が一があってはならないからと。


「分かった」

「じゃ、お願い」

「え、目……閉じてくれないの?」

「悟はどうかは分からないけど初めてだから」

「初めてだよ、それこそ莉月が僕を好きになるより前にあれだったんだから」


 じゃ、余計なことをしないでおこうか。

 結局できませんでした、その後に兄の側に女の人がいるようになって嫉妬して喧嘩して別れたとかになったらそれこそ終わるから。


「……ど、どう?」

「……よく分からないわね」


 むず痒い感じがするのは確かだけど。

 ま、まあ、初めては大体こんなものだろう。

 いつかあたしの方から頑張ってしてみようと決めた。

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28作品目 Rinora @rianora_

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