帰る場所
(参ったな……まさかここまでとは)
自分の体が飛び散って地面に落ちていくのを感じながらリアンは思う。
先程、クロムバルムの一撃を受けたが、その一撃は予想以上の威力だった。おかげで体が衝撃に耐えられず、元素が飛び散ってしまった。
(しかも、この土壇場でロアードの力が覚醒するなんてね。いや土壇場だからこそか)
戦闘中にロアードの魔力が爆発したかのように活性化し、白い闘気を纏い始めた。それからの動きは見違えるほどに早く、また攻撃も強くなっていた。
あれを覚醒と言わずしてなんというのか。
実際、リアンは知らないがそういうものだ。
負の感情ではなく、正の感情を高め、その力に飲まれることなく、制御できたものを覚醒者という。
1000年に一人現れるか現れないか、というほどに貴重な存在だ。
(彼が暴走化しない程度に、この機会にその感情を吐き出させればと思ったんだけど、想像以上だったね)
リアンがロアードを巻き込んだのはこの為だ。行き場のない感情の矛先を自分に向けさせ、全てを吐き出してもらう。
負の感情なんて溜め込むものではない。発散させなくてはならないのだ。
その発散方法に今回の件はちょうど良かったため、リアンはロアードに事情を告げなかった。
その結果が、まさか覚醒に繋がるとは思わなかったが。
(まずい……適当なところで逃げるはずが……これじゃあ本当に死にそうだよ)
その力に加え、竜の力を持つ大剣クロムバルムを彼は持っていた。
この二つが揃ったならば、竜神をも倒すのも、不可能ではない。
さっきの一撃でかなり瀕死のところまで持っていかれてしまった。
今の自分はどういう感じになっているのか分からない。体の殆どは飛び散り、意思だけはそこにあるから、魂が消えたわけではなさそうだが。
(戻らなきゃ……でも、)
――このまま消えてしまったほうがよいのではないか?
結局、自分もまた水竜だ。レヴァリスのようにはならないと気を付けても、いずれそうなってしまうかもしれない。
ならばこの力ごと、消えてしまったほうが世界の為になるのでは?
(まぁ、私は一回死んで転生したようなものだし……何にも覚えてないけど……)
自分の名前はなんだっただろうか?
薄れゆく意識の中で思い出そうとした時だった。
「……様! ……リアン様!」
「ガウウ!」
必死な声が遠くから聞こえてくる。
幼い声と獣の鳴き声。
「リアン様、まさか、本当に死んだというのですか? レヴァリスが残したことを解決すると言っていたではありませんか……!」
「……頼むから出てきてくれ、お前は邪竜じゃないだろ、リアン」
こちらも必死な声だ。どちらも聞き覚えがある。
(……何やってるだろうね。そうだよ、今の私はリアンだ。やらなきゃいけないことが残ってる……まだ死んではいけなかった)
声がする方に向かって行く。
真っ暗闇の中、光に向かっていくように。
その意思に応えるように散らばっていた元素が集まり出す。
水滴は水溜まりへ。
やがて水塊となって少女の体を作り出した。
「リアン様!!」
「ガウ!」
「うわっ!」
目を開けた瞬間に、抱きついてくるファリンとミレットの姿があった。
「リアン様〜〜〜!! 本当に、ぐすっ、死んでしまわれたかと思ってしまいました……」
「ガウ、ガウウ!」
「心配かけてごめんね。でもほら、私はもう大丈夫だから」
大声で泣き出すファリンとミレットを慰めるように、リアンは頭を撫でてあげた。
「全く……あのまま消えて居なくなってしまうかと思いましたよ」
「リュシエンも心配してくれたんだね? 君ならそのまま消えていたほうが都合がよかったんじゃないの?」
「ま、まぁそうですが……あなたにはまだやってもらわないといけないものが沢山ありますから……」
「素直じゃないなぁ、リュシエンお兄ちゃんは〜」
「だからお兄ちゃんとは呼ばないでください!」
そう怒るものの、リュシエンはホッとしたような表情をしていた。
「リアン……無事だったか」
「うん、なんとかね。……ロアード、いつから気付いていたの?」
リュシエンの隣にはロアードまでいた。
彼はリアンから視線を逸らしながら、話す。
「急に力が溢れてからだ。お前の動きがよく見えるようになって、被害が出ないようにしていると気付いた。……それからは、お前の考えに乗ろうと思ってやっていたが、自分でもまさかここまでの力が出るとは思っていなかった。本当にすまない」
「まぁ、急に覚醒したような感じだったもんね。その力を制御できなくて当然だよ。だから気にしないで」
リアンだって最初に水竜の力を使ったときはうまく制御ができなかった。
急に得た力をすぐ使いこなすなど難しい。
「俺を巻き込んだのも俺を暴走化させない為だろ?」
「あっ、それもバレてた?」
「リアン、お前というやつは全く邪竜ではないな。……心から感謝を伝えておく」
ロアードがリアンに向かって跪く。
深く頭を下げたその姿から、本当に心から感謝をしていることが分かる。
「言ったでしょ? 私は邪竜じゃないって。これが有言実行になっていればよかったよ。それにこれでロアードはもう、大丈夫だよね?」
「あぁ、魔力を派手に使いながら感情を出したからか、色々とスッキリした。お前のおかげだ、リアン」
「そっか! 本当によかったよ! だから、もう顔あげなよ。十分分かったから」
ロアードは顔を上げ立ち上がる。
しかしリアンからは目線を逸らしたままだ。
「ねぇ、なんでこっち向いてくれないの?」
「……そういうなら、まずは服を着てくれ」
「…………へ?」
慌てて自分の体を見ると、何もなかった。
まっさらさらの、真っ裸。
「あっあれ??? 私の服!?」
どうやら先程飛び散った時に体内にしまっていた服も散り散りになってしまったようだ。
「お姉様、とりあえず私の外套をお貸しします!」
「ありがとう、ファリン」
ファリンから外套を受け取って巻きつける。ないよりはマシになった。
ミレットは何をそんなに慌てているんだろう? と言ったように首を傾げていた。
「リュシエンごめん、また作ってくれる?」
「それくらいなら、お安い御用ですよ。ふふ、腕が鳴りますね」
「俺のせいだな……。それまでの仮の服は用意する。服の材料費も出そう」
「二人ともありがとう!」
リアンは今、心から嬉しかった。
邪竜が生まれ出る問題が解決し、そして自分のことをきちんと信じてくれる者たちに出会えたのだから。
(私は邪竜じゃない。だから、善良な竜としてこれからも頑張らないと! そのためにまずは……)
目の前にある崩れた城壁や、建物がある首都の復旧の手伝いからか。自分でやったものでもある。
そう思いながら、リアンは首都に向かって仲間たちと歩き始めた。
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