とばっちりだ

「……ちなみに地竜は今、何してんの?」

「分かりません。千年以上も前から地竜は姿を見せていないので。なので他国からは竜の守護を失った国と言われていましたね」

「だよね。そうじゃなかったら両国の戦争を止めに入ってそうだし、グラングレスも滅んでもいないだろうし」


 どうして地竜が守護するのをやめたのか分からないが、今はいないものと考えていいだろう。

 もしも居たなら、ちょっと会ってみたかったと思ったリアンだった。

 自分以外の竜の存在は気になるのだ。

 今のところ存在を知っているのは死んだ火龍と姿を消した地竜なので、望みが薄すぎるが。


「この数年は休戦協定を結んでいたようですが、十五年前に公国側が王国に侵略を開始したことで開戦。両国共に力は拮抗しており、また決着の付かない戦争になるかと思われていたようです。ですがその戦時中にバルミア公国は水竜レヴァリスにグラングレスとの戦争に勝たせてほしいと願ったようです」


「……その結果がグラングレス王国の滅亡か」


 五百年と続く継承戦争。

 一度はバルミア公国が聖地を奪還したこともあったが、グラングレス王国が取り戻したりとそんな歴史を繰り返していた。

 この両国の終わらない戦争は十五年前に呆気なく幕を下ろすこととなった。


 皇帝がレヴァリスに願いを言ったのだ。

 ――この戦争に勝たせて欲しいと。


 かつて地竜の守護を受けていた大国の末裔だ。

 竜の力というものを理解し、そして欲していたのだろう。

 水竜の力を借りられれば、戦争に勝てるという想いを抱いたとして不思議ではない。

 きっと藁にも縋る思いでレヴァリスに頼んだことだろう。


 水を司る竜レヴァリスは邪竜とも呼ばれるが、気まぐれに人の願いも聞き入れる竜として有名である。

 その結果は善し悪しがあるが……今回の結果は悪い方であった。


 バルミア公国の願いを聞き届けたレヴァリスは、一夜にしてグラングレス王国の首都デンダインを陥落させた。

 その際に当時の王と王妃、そして首都にいた人々が犠牲になったのだ。


 首都にはレヴァリスがその時に起こしたという豪雨がそのままであり、人が近づける場所ではない。

 当時、ロアードも本来ならその首都にいたが、首都をなんとか脱出したことで一命を取り留めていた。


「しかしまぁ……戦争で勝たせるために首都陥落かぁ。間違ってはいないんだろうけど」


 敵国の首脳を潰すというのは人にとっては簡単な話ではない。

 しかし竜にとっては容易く行えてしまうことだった。


「公国側もこの結果は予想外だったようですよ。なにせ公国が欲していた聖地ごと陥落させ、今では立ち入ることができない土地にしてしまったのですから。当時の皇帝があまりにやりすぎだとレヴァリスに対して怒ったそうですが、それで機嫌を損ねて殺され、帝都の一部にも被害があったそうです」


「……うん、まぁ分からないでもない。願いを叶えてあげたのに怒られたようなものだもんね」


 エルフの村の一件といい、レヴァリスは大体やりすぎている。

 いや、人にとっての常識がそうなのであって、竜たるレヴァリスの常識ではやりすぎたとも感じないのかもしれない。


「ちなみにこの一件のせいでバルミア公国はレヴァリスを邪竜とし、冒険者ギルドを通して討伐対象にしたようです」

「…………半分くらい公国の自業自得でもあるじゃん。八つ当たりですか? というかそのとばっちりが飛んでくるのは私なんですけど!!」


 声を大にして言ったところで信じてもらえるか怪しいものだ。

 いやむしろ一度試してみるべきか?

 多少は混乱を招くだろうがレヴァリスが死に、新しくリアンが二代目になったのだと言いふらすか。


(そうするなら、やっぱりロアードの誤解を解いて、協力してもらった方がいいかもしれないな)


 リアンが言ったところで邪竜の戯言だと言われてしまう。

 だが第三者がその発言に同意したなら、他の人々も信用しやすいだろう。

 ロアードほどその適任者はいない。何せ邪竜に祖国を滅ぼされた、一級冒険者だ。

 彼ほどの者の言葉なら、人々は信用してくれる可能性が高い。


(となると、ロアードの信用を得ないといけないわけだけど)


「ガァァルルー……」


 その時、街に獣の咆哮が響いた。

 恐ろしい咆哮を聞き、通りのほうが騒めき出す。


「大変だ! 西門の方に三級の魔物出た!」

「すぐに行く!」


 兵士の声を聞き、すぐにロアードが西門へ向かっていく姿が見えた。


「三級の魔物程度なら、ロアードに任せればいいでしょう。リアン様は出なくてもよろしいですが……」

「…………」

「リアンお姉様、どうされましたか?」


 二人の言葉に返事をせず、リアンはぴたりと目を閉じて止まったままだ。

 まるで耳を澄まし、何かを聞き取ろうとしていた。


「……西門に行ってくる」

「リアン様!?」


 飛べば早いがここは狭い路地だ。元の姿に戻れば周囲の建物を巻き込む。

 そう思ったリアンは体を水に変化させ、地面を這うように移動した。

 そのスピードは急な流れの川で素早い。


「お兄様、わたしたちも!」

「ええ、そうですね」


 リュシエンが妹を抱え、リアンの後を追いかけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る