一級冒険者
大陸中央に位置する街、サントヴィレ。
その立地から大陸を股にかけて交易を行う商人たちの中継地として出来た街だ。
商人たちが集う街らしく人だけでなく、様々な物品や噂や情報すら集まる。
まるで大陸を縮小して詰め込んだような場所だと言われ、サントヴィレに行けば欲しいものが必ず見つかると言われる程だった。
長い歴史の中でこの街を巡って幾つかの国が争っていたが、現在は公国の一部として落ち着いていた。
その街の石造りの古めかしい通りに人垣ができていた。
商人たちの馬車が通りやすいように大きめに作られた城門近くだ。
野次馬に囲まれた中心には黒髪の青年と複数の兵士の姿があった。
「またロアードが手柄を立てたか」
「流石は一級冒険者だな」
「ねぇおじさんたち! あのお兄さんってそんなにすごいの?」
野次馬に混じって会話をしていた商人らしき二人の男。
その二人に少女が声をかけた。
淡い水色の髪は本当に人間が持つに相応しいものなのだろうか?
そう思えるほどに透き通った美しい髪だ。
外套から覗く手足は陶器のような白い肌に、あどけなさが残る可愛らしい顔立ち。
著名な彫刻家が作った彫像のように思えたが、その美しい少女はくりくりとした琥珀の目を瞬かせている。
「おじさん?」
「あぁ、なんでもないよ」
一瞬少女の見た目に我を失っていた男たちが声をかけられて意識を戻す。
「えっとお嬢ちゃん、ロアードを知らないのかい?」
「彼は一級冒険者ロアードだよ。数々の難題とも言える依頼を解決したらしい」
「一級冒険者?」
なにそれ?と言ったふうにこてんと首を傾げる少女。
その姿は可愛らしく、商人たちは微笑ましいものを見るようにして教えてくれた。
「一級は冒険者ギルドで最高ランクだよ。まぁすごく強いってことだな」
「しかもあの若さで一級なんて、オレは聞いた事がない。前代未聞じゃないか?」
「へぇ~そんなに強いんだ! 何か理由があったりするのかな?」
「たぶん、祖国を邪竜に滅ぼされたからだろうな」
「邪竜を討伐するために冒険者になったらしいからな。邪竜を探しているから、受ける依頼も邪竜に関係するものでないと受けてくれないらしいぞ」
「邪竜の使徒がいるって聞いてこの街に来たくらいだしな」
ロアードは邪竜を追って大陸中を駆け回っている。
サントヴィレにも何回か立ち寄っていたが、今回は近隣の村々に邪竜の使徒が現れたという噂を聞きつけてやってきたようだ。
「その使徒は偽物だったようだがな」
「まっそのおかげで盗賊を捕まえてくれたから、オレたちは安心できるってもんだ」
拘束された盗賊たちが兵士たちに連行されていく。
邪竜に繋がる手がかりを探して、ロアードは様々な依頼をこなしてきた。
中には今回のようにハズレを引くこともあっただろう。
だがその積み重ねがロアードの評価を上げ、一級冒険者と認められることに繋がった。
「すごく邪竜に復讐したいんだね。でも、なんで邪竜は彼の国を滅ぼしたの?」
「あーそれは……」
「公国人としてちょっと言いづらいかな……」
二人の男は気まずそうに顔をしかめた。
少女がなんで? と首をかしげながらもう一度口を開こうとしたその時だった。
「やだ! 今ロアード様と目が合っちゃったかも!」
「はぁ……いつ見てもかっこいい」
野次馬の女性たちから黄色い声が上がった。
どうやらロアードは女性に人気があるようだ。
確かに闇夜の艶やかな漆黒の髪に、キリリと目尻が上がった目付きを持つ精悍な顔付きだ。
背にした両手剣の存在感もあり、勇敢な戦士のように見える。
亡国の王子として漂わせる哀愁も彼の魅力の一つだろう。
「ほら、お嬢ちゃんも気になるならロアードをもっと近くで見に行ったらどうだい?」
「ってあれ? お嬢ちゃんどこ行った?」
――気づいた時には少女の姿は消えていた。
どこか不思議な雰囲気のある少女だったため、白昼夢でも見たのだろうかと二人は顔を見合わせた。
「…………」
「ロアードさん、どうしましたか?」
その人集りの中心で、ロアードはとある一点を見ていた。
きゃあきゃあと手をふる女性たちから目を反らし、何かを探すように人々を見る。
「いや、なんでもない」
――人影の向こうから視線を感じた。
一瞬、人影の間に見えた少女――その琥珀の瞳はどこか見覚えがあった気がした。
「しかし、ロアードさんすごいですね。これだけの人数を一度に捕まえてくるなんて」
「……いいや、俺が捕まえたアジトにいた者だけだ。そっちの奴らは違う」
邪竜の捜索を諦め、盗賊たちのアジトに戻った時だった。
入口近くに縛られて置かれていた盗賊たちが居たのだ。
ロアードがアジトに入る前に縛られた彼らを見ていないし、ロアードがやったものではない。
「盗賊を捕まえるなど……一体なんのつもりだ、邪竜め」
彼らはエルフの村で使徒を騙って供物をもらおうとしていたところを、邪竜に捕らえられたと言うのだ。
怯えて話す彼らはとても嘘をついているようには思えなかった。
しかしロアードにはなぜそんなことを邪竜がしたのか、理解ができなかった。
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