第42話
さて、瀕死と火による魔術の復活。
それが後に大きな発見に繋がるなどリクは予想だにもしていなかった。
ある日魔術の練習をしようと腕輪を外すと、裏側が何だか光の加減で凹凸しているのが気になった。
どこかで傷でも付けたのかと思ったが、よく見ると彫った様に削れているのが分かる。
拡大鏡で見ると、何かの図形だった。
「…ん?」
試しに他の魔導士の腕輪も見させてもらったが、同じ様に図形が彫られている。
腕輪の製造元が誰かなんて分からない。けれども素材は隔離所の一部を加工して作成されている筈である。
マリアにある隔離所へと向かい、その内側を拡大鏡で見ると衝撃が走った。
何と壁の端から端までびっしりとその図形が刻まれているではないか。
どう考えても何か意図がある。
「こんなのどっかで…。」
それに何となくだがこの図形をどこかで目にした気がする。
ブルグ教会だ。
シードル達と教会の地下に降りた時、確かに階段でこんな図形を見た。
普段見ないブルグ教の分厚い教典を見ると、やはりその図形が記されていた。
そこには地下にあった武器に刻まれていた図形もある。
疑念がどんどん現実味を帯びて確信に変わった瞬間だった。
間違いなくブルグ教と魔術は何らかの形で密接に関係している。
そしてこの図形は各々魔術に対して何らかの干渉をもたらすのではないか。
なるほど、それであれば信仰者の黒髪の人間ばかりが魔力を持つのも納得できる。
そして死と火が連想させる答えにも辿り着いた。
ブルグ教は火葬だ。
『火葬』された者は死者として扱われ、一部の図形の効力が消え去ったものと考えられるのではないだろうか。
教典の中にはまだいくつもの図形が記されている。
一体これらがどういった影響を及ぼすのかは未知だ。
「何かのきっかけで図形から動力が得られる。腕輪は着けてりゃいいが、武器は怪我する必要があるみたいだしな。」
「影響が少ないものは身につけるだけでいいのかな?」
「かもな。」
「はあ…。」
リクとシードルの会話に目を宙に浮かせたレイは、気の抜けた声で相槌をうつしかない。
リクが呆れた顔で見てくるので、恥ずかしくて目を逸らした。
「すみません…。私どうも小難しい話ってあんまり…。あなた案外頭良かっ…だっ!」
「余計だろ。」
「ああ…夢じゃないんだわ…。」
頬をつねってくる感触で、目の前のリクの存在が更に確かになって感動する。
気味の悪そうな顔でリクが退いた。
「変態に拍車かかってんじゃねえか。」
「ねえ。話の続き。」
うんざりした顔のシードルは先を促している。
「少なくともお前が魔力手に入れたのはここ2年。」
「何で分かるんです?」
ゼインズの話で自分が後天的に魔力を得た事は分かったが、何故そこまで期間を限定できるのか。
「2年前は魔力なかったんだよ。オレが毎回確認してた。」
「え?何でそんな事を…?」
「お前が書斎で公式やら文字やら見てみろ。寝ながら家破壊されたらたまったもんじゃないからな。」
なるほどそれは身に染みて理解している。
「で?心当たりは?」
爛々と光るリクの期待する目に、記憶力の悪い自分はとても応えられない。
「そりゃ意識してブルグ教の図形なんか関わらないでしょ。レイだって分かんないよ。」
「ゼインズが魔力さえ取り戻せば脱出なんか楽勝だろが。頭捻って思い出せ。」
一旦助け舟を出したシードルまでもがこちらに期待の眼差しを向け始める。
「すみません…。全く覚えがないんですもの。」
諦めたリクが質問をぶつける。
「さっきの光は?どうやった?」
「あれが後天的な魔力を持った人間の特徴だそうです。攻撃に攻撃を重ねたらああなるんです。」
「えっ?でも何でこいつら倒れてんの?」
「それは体術と短剣で…。」
だが長話を悠長にはできなかった。
帰って来ない魔道士を心配したのだろうか。
こちらに向かう足音が聞こえて来る。
「…シードル。お前覚悟出来てんのか。ここで立ち向かえば家族と手振って終わりなだけじゃないからな。」
この盛大な音は10人、いや30人程度か。
攻撃されたら終わりだというのに、そう言ってリクは扉の前のど真ん中に立った。
「あ…あなた!!隠れないんです!?」
さっきと同じ様な作戦をとるのかと思っていたが、えらく正々堂々としている。
「?覚悟って…?そんなの今更…。」
シードルはこの場に不似合いなポカンとした表情で呟いた。
「オレはこの国壊す気概で行くぞ。」
扉が開かれた。
押し掛けてきた魔道士が側近が倒れているのを見ると、中心にいるリクに集中する。
「あなた!!」
こちらの心配など他所に、リクが防御を張る。
魔道士の放った魔術が一気にリクの防御壁へと向かって来た。
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