第46話

 刃の交差する音の度にレイが後ずさる。

 どれだけ身軽でも、男と女の差はある。アルディアなら尚のこと危険だ。


 「クソ…!!」


 ぼやく暇もなく、ドルマンの攻撃が2人へと向かって来る。防御壁で耐えながらも、攻撃する隙を狙うが難しい。


 やっぱり1人の方が良かった。


 そんな気持ちが押し寄せて、次第に苛立ちに変わる。手数があっても自分にはやりにくくて仕方ない。

 感情から防御にも乱れが生じている。


 「リカルド。」


 「喋んな!」


 「聞けって!イライラすんの少しやめろ!」


 当たり散らすのをシードルが強い口調で止めた。その声に話が真面目なものだと分かり、口をつぐむ。


 「ドルマンの上見て。そっとだよ。」


 「は?上?」


 防御しながら壇上の方の天井を見ると、一部分だけ円形上に大きく割れ目ができている。

 この階の天井は高い。

 魔術の損傷にしては少し不自然な感じがすると思っていると、何かが姿を覗かせる。


 人間の頭が数名で覗いている様だ。


 「見える?さっきの最下層の人達。」


 恐らく穴を開けたのは彼等だろう。

 見れば移動しては何かを運び、亀裂の近くに持って来ている。

 そして何故かこちらに向かって少し小さく手を振った。


 「いや、あれ何して…。」


 えらく悠長な引っ越し作業かと思ったが、やっと理解が追いついた。

 ドルマン目掛けて物を落とそうとしているのだ。


 「タイミング見て攻撃してよ。」


 そう言うと、シードルが防御壁を一層厚くした。

 気をつけなければ協力している最下層達に火の粉がかかる。


 彼等の頭が引っ込み、腕が見える。すると何かの塊が天井から姿を出した。


 「うわ…痛そ…。」


 シードルが同情する。

 塊はドルマンが使っていたのと同じ様な立派な大きな机だった。

 机が姿を見せると、間もなく最下層達はさっと手を引っ込めた。

 彼等に躊躇いはなかった。

 落とした机が真っ直ぐドルマンに向かって吸い付く。


 「何だ!?」


 頭上の大きな影に気付いたドルマンが頭ごと目線を動かし、自分達からそちらへと攻撃の対象を変えた。


 火か雷か。いや水か…。


 頭の中でどの攻撃がいいのか必死で考える。

 だがそういったものより、身体を壊す位の物理的なものの方が確実に仕留められる気がする。

 となると岩が効果的か。


 即座にイメージしたものがドルマンの頭上に現れる。


 机を火で破壊するのに必死で、ようやくこちらを向いたドルマンは頭上に気付いていない。

 

 緊張で喉が鳴る。


 リクは岩を一気に叩き落とした。






 レイが魔術に長けていない事が察知されているのをアルディアは理解している様だ。

 それでなければこんなに近距離で近付く筈がない。

 剣を重ねては体を引くが、女の力ではいかんせん劣勢である。

 手も汗ばみ、剣を持つと滑ってコントロールがままならない。

 得意の戦法も今のアルディアには無意味な上に、攻撃するにしても集中するのが難しい。


 「レイさん!!」


 ジェーンがゼインズの元を離れ、壇上にあった椅子を見つけると、アルディアの頭に一撃喰らわせた。

 だがアルディアは少し体を震わせただけで、体勢が変わらない。


 「女…!」


 続け様にジェーンが殴ろうとしたが、アルディアがそれを一睨みして横腹を蹴りつけた。

 鈍い音がするとジェーンがパタリと倒れて苦しむ。


 「ジェーン!!」

 

 苦しむ様を見ると、明らかに骨か内臓がやられている。


 「どうやって魔力を手に入れた?」


 「…!」


 ジェーンの事など意にも介さず、アルディアが質問をぶつけてきた。

 レイの防御を目にしていたアルディアは、あらかじめ壇上に狙いをつけていたのかもしれないと今になって気付く。

 

 「答えるのならば処遇は配慮する。」


 なるほど魔力を渇望しているアルディアにとって、何よりもその情報が重要なのだ。


 だが残念ながらその答えは自分にもまだ分からない。


 「答えろ。」


 「…分かりません。本当です。」


 アルディアが更に剣に力を込めて来る。

 これ以上の力が来れば押し負けてしまう。

 そう思い焦っていると、アルディアがいきなり驚愕する様な表情を見せて後退した。


 「…え?」


 その視線は何故か短剣に注がれている。


 「レイ油断するな!!」


 ジェーンの側から声が聞こえて来る。

 ようやく意識を取り戻したゼインズがジェーンを介抱していた。


 「ゼインズ!!気がついて…!!」


 「剣を使え!!恐らくその剣は…!!」


 ゼインズとアルディアが両者睨み合う。


 「まだ口を聞く余裕があるか!ゼインズ!」


 「最後の魔術だ。有り難く受け取れ!」


 ゼインズがそう言うと、アルディアの顔面にか細い一筋の雷が直撃する。


 「ぐっ!!」


 アルディアが目を押さえ、足をふらつかせる。

 ゼインズの最後の魔力を無駄にする訳にいかない。


 レイは急いで走り込んだ。


 苦しんでいるアルディアの間合いに入り込むのは容易だった。

 短剣を両手で持ち、相手の腹目掛けて突進する。

 だがほんの少し横腹を掠めた程度でアルディアに致命傷を負わせる事など不可能だった。


 「貴様…!」


 些細な傷を付けられた事に立腹したのか、アルディアの顔色が変わる。

 その顔は人間でなく、もはや動物的な印象さえ与えた。


 長い剣は身体と一体となり、こちらへと向かって来る。

 息も吐けぬ程の速さに目が追い付かない。


 「レイ!!」


 ゼインズの声が響く。


 アルディアの長い刀はレイの肩を貫き、床へと刺さった。

 



 

 

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