第18話
「腕力減った気がするな…。」
日々この状況だと体が鈍る。
体は鍛えていた方だが、やはり筋力は落ちてきている様だ。
「動くか。」
リクは少し体を鍛えた後、部屋の隅々に何か突破口がないか探し当てる。
窓がいくつかあるので、飛び跳ねて確認するが、どれも小窓で自分の体は通らない。
監禁されて2年になるが、抜け出す気持ちだけはいつまでも忘れなかった。
この状態に抵抗もしなくなると、それこそ一族の思うツボである。
「何遍見ても無理だな。」
3ヶ月前だったか。これまではエラリィ家のどこかの一室にかわるがわる閉じ込められていたのだが、隙を見て逃げ出そうとしたのがまずかった。
今ではこの通り隔離所送りになった。風呂も1週間おきになってしまうという最悪のおまけ付きである。
エラリィ家に監禁されていた時は魔術を封じる手錠をかけられていたが、今度は普通の物に変わった。しかし場所が悪い。
「何してる?」
また最悪な結果になりそうで顔をしかめた。
ドルマンがやって来たのだ。
リクはまた無言で睨み付ける。
「脱出口はないぞ。」
「…。」
「まただんまりか。進歩がないな。」
ドルマンはカサカサと何かの紙を取り出した。
「さて、もうすぐ私が次期頭首となる。めでたくな。」
「…エラリィもお先真っ暗だな。」
リクがまた悪態を吐くが、ドルマンは今日は応じなかった。
むしろ何だか機嫌がいい。
「着任したらすぐにやりたい事がある。何度も聞くが、君の頭にある研究をもらえないか?」
「…しつこい。」
「図々しいかな。けれど君には当然相応の取り計らいをするよ。」
そう言いながらドルマンが笑う。
様子がおかしい。いつもなら毎度尋ねては不機嫌になるというのに。
「リカルド・エラリィ。君は7年前に追い出されたんだな。いや、もっと早くエステルで起こった事件を把握しておくべきだった。」
リクの眉が不愉快そうに上がる。
嫌な予感がする。
「ああ彼だ。リーゼルグ・エラリィ。実に不幸な人生だった。同情するよ。」
リクの頭に青筋が立つ。
「…あ?」
涼しい顔をしていたリクの鼻を明かした気分になったのだろう。
ドルマンはニヤニヤとして一人の男の紙をリクに見せた。
「一緒に暮らしてたシードル・エラリィは今もエステルに居るみたいだね。腕を失って不自由な生活みたいだ。」
どこまでエラリィの一族は自分の大事なものに手出しすれば気が済むのだろうか。
リクの怒りは頂点に達した。
「ふざけんなよ…!」
「君の返答次第でどうとでもなるという事を覚えておいてくれ。」
ドルマンはそう言って去って行った。
「クソっ!」
どうすればいいのか。
シードルは未だエステルで暮らしている。
こんな近くにいるのに危機を伝えられないとは。
2年近く監禁されて、恐らく自分は死んだ者として扱われているだろう。
目撃者もいないし、誰がこの状況を好転させてくれるというのか。
「ここじゃ無けりゃ…!」
リクは壁を手当たり次第に蹴るが、当然ビクともしない。手枷足枷も頑丈にできている。
ほんの少しのきっかけでいいのだ。
何か状況が変わってくれれば。
「…シードル。」
最後に見たあの切なそうな彼の表情が脳裏に浮かぶ。
「…本当にどんだけ運が悪いんだよ。」
リクが呟いたその一言は隔離所の闇にこだまして消えていった。
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