第14話
今日も魔術の訓練である。
記憶力の悪いレイにしてはここまでよくやった方だ。何とか覚えて少しは魔術を使える様になった。
しかしコントロール方法は分かったが、これではあまりにも頼りない。ゼインズの推測からすると、かなり危険な魔導士が相手の可能性が高いのだ。
「集中してないな。どうした。」
ふとその事に気付き、これ以上迷惑をかけてはならないと思ったレイだが、打ち明けるべきか悩む。
「いいから。言ってみろ。」
集中していない時点で迷惑をかけている。ゼインズを誤魔化した所で何もならない。
「いえ…今更ですが、これからどうすべきか考えてます。魔導士相手にこのままじゃ…。」
「ふむ。そろそろだろうな。」
「え?」
「君の身体能力を駆使しようじゃないか。
動きやすい服装の方がいいのだが…。持ってるか?」
「それは…エステルは歩きですから。」
本当に自分の話を聞いてくれていたのだろうか。トンチンカンなやり取りにレイは不安を覚えながら、軽装に着替えた。
「さて、レイ。ここからは防御を君に適したやり方で学ぼう。君の素晴らしい能力を活かしてな。」
そういえば魔術には衝撃と防御があったのをレイはすっかり忘れていた。
けれど防御が自分に適したやり方とはどういう事なのか。
「防御?…防御だって公式が必要ではないのですか?」
「そりゃあそれが一般的だ。」
ゼインズはからかった顔で続ける。
「けれど君にはそれは向いてないだろう?何かの攻撃ができれば防御はできる。」
「どうやって防御するんです?」
「こればかりは実戦で覚えてもらおうじゃないか。」
そう言ってゼインズは正装の上着を脱いで近くの木に引っ掛けた。
「面倒だ。打撃も同時に鍛えよう。列車の時みたいに体術で攻撃して来い。」
「?防御と関係あるんですか?」
「それを攻撃とするんだ。それと同時に魔術を使いこなせ。」
レイはゼインズが何を言っているのか分からずに首を傾げる。
それに相手の魔導士が強ければ、防御したって意味はない気もするのだが…。
「かかって来なさい。」
「えっ?でも…。」
「いいから。」
レイは何をすればいいのか分からず、ゼインズの周りをグルグル回る。
「全く。進まないじゃないか。」
ゼインズが溜息をつくと、レイの頭に視線を注ぐ。
「へっ?」
レイの声と同時に、魔術の岩が放たれた。
岩はレイの首の横を通り、背後の遠い木にめり込んで穴を開けている。
レイの額から大量の汗が流れ落ちる。
「ちょっ!!ゼインズ!?」
一言も発する事なく、彼はレイに集中して次の攻撃を仕掛けようとしている。
「きゃっ!!」
火の玉が放たれ、レイの方へ向かって来る。
レイはそれを屈んでかわし、火は頭の上スレスレを駆け抜けて行った。
「攻撃と一緒だ。やってみろ。」
ゼインズは本気だ。
さっきの様に木に登ったりして相手の集中を削ぎたいが、近くには何もない。
「…もう!」
高齢の人間に、いや恩人に手を出すなんて有り得ないが、仕方がない。
次は岩が体目掛けてやって来ている。
レイはそれをスッと横へかわして、集中し始めたばかりのゼインズに駆け寄った。
「ゼインズ!少し乱暴じゃなくて?」
「これは訓練だそ。別に危害を加えてるわけじゃない。」
至近距離である。
仕方なくゼインズの顔目掛けて、レイは蹴りを入れる。だが腕でガードされ、足を掴まれ地面に叩きつけられた。
「うん。それが攻撃だな。いいぞ。」
「っ!」
これが高齢の人間の力だろうか。
だてに体を鍛えていない。
その上魔術では絶対に勝てない相手なのだ。
本気で挑まなければまずい。
「…もう一度!」
攻撃をかわしてはゼインズに詰め寄り、打撃を与えてと何度も同じ事を繰り返す。
「レイ。魔術はどこへ行った?」
ゼインズはそう言って余裕の表情で笑う。
そもそもレイには集中する余裕もなくて魔術が使えない。
しかしいつのタイミングで魔術を放つか。
ゼインズが集中している時くらいしか時間はない。
「…やってみましょうか。」
魔術を繰り出そうと集中しているゼインズにレイは集中した。
するとゼインズが放った雷と、レイの放った風が互いに融合する。
「まぁ…!」
そこにあるのは雷と風ではなかった。
魔術を構成する何かとしか説明の仕様がない物体だ。
光を放ちながら、何かの物質が合わさって消滅して行く。
実に不思議な現象だったが、瞬く間に光も消え元に戻った。
「そう。相手が魔術を放つと同時に、魔術を放つだけだ。」
ゼインズがそう言って、レイを背負い投げた。
「きゃあ!」
「ハハッ。最後まで油断するなよ。」
投げられたレイが不服そうにゼインズを睨む。ゼインズは何だか楽しそうだ。
「もう…!本当にこれが私に適しているんですか?」
「ああ。相手が集中しているのを見計らって君も同時に魔術を放つ。絶対にタイミングは間違えるな。そしてすぐに打撃を加えてやれ。」
「なら単純に先手攻撃すれば…。」
名案というばかりにそう言ったが、ゼインズは鼻で笑う。
「理論が早いもの勝ちなんだから、相手の攻撃や防御が早い可能性もある。現に君先手打てなかったじゃないか。」
「…そうでした。」
「列車での動きを見て判断した。これなら通用する。」
「…本当ですか?」
「ああ。嘘じゃない。魔術が消せたら怖くないだろう?」
「…はい!」
希望が持てたレイは明るい顔になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます