第12話 白猫王子
目の前にいる、猫耳のイケメン。白銀の髪の毛は肩ぐらいまでの長さでサラサラ、身長は185cmくらい。
猫耳と、尻尾つき。
「……」
驚きすぎて声が出ない。目の前の人をもう一度まじまじと見る。心配そうにへニョンとしている耳、不安そうに揺れる尻尾。
つい、尻尾を掴んでしまう。
「この尻尾はニャン吉と同じ……」
尻尾をギュウッと握りしめながら、問いかけるようにしてイケメンを見る。
すると、
「こっこら! 獣人の尻尾をそう簡単につかむな!」
と焦った声がした。
ニャン吉の声で。
「じゅうじん……?」
「そうだっ、だから尻尾を離せ!」
更にギュッと尻尾を掴んでしまう。
顔を真っ赤にしている猫耳イケメン。
「しっぽは……っ。簡単に触っちゃいけないところなんだ……っ」
息がとぎれとぎれだ。パッと手を話す。
「ご、ごめん、痛かった!? 尻尾は弱点かなにかなの!?」
「弱点……。弱点と言えば、弱点だ……」
「ねえ、あなたは、もしかしなくても、やっぱりニャン吉なの?」
「……そうだ」
「本当の姿は人なの?」
「いや、人にもなれる、と言ったところか。どっちも本当の姿だからな」
……!なんてこったーーーーー!
喋る猫だと思っていたニャン吉は、イケメンの姿も持っていたのだ!
走馬灯のように、ニャン吉の前でやらかしていたことを思い出す。ニャン吉といつも寝てたし、お風呂まで入ってしまった……! ガーン。
そう言われてみれば、いつもニャン吉はお風呂のときとか、わたしが着替える時とか、目をそらしていた……。
色々と思い出して、羞恥心で悶ていると。
「言わなくてごめんな。怒ったか……?」
とシュンとしてオロオロしているニャン吉がいた。
「いや……ビックリしたのと、色々思い出して恥ずかしいだけだよ……」
「だ、大丈夫だ! 風呂とか着替えとか見てないからな! 日本にいたときは、人型になって冷凍庫からアイスを取り出して食べたりはしていたけど、覗きはしてないぞ!」
「あーーー! だから冷凍庫のアイスが減ってたんだ!おかしいなあって思ってたんだよ!」
「あのー……。それで? 街には入りますか?」
そうだ、門番さんを放置していた。
「そうですね、じゅうじん?なら入れるんですよね?」
「ええ、大丈夫です。」
「よかった~! これで図書館に行けるよ!」
「では身分証明書をお願いします」
「みぶんしょうめいしょ……?」
「俺のはこれだ」
ニャン吉が何もない空間から銀色のカードを出す。どうやらニャン吉も、魔法のポケットみたいな技が使えるみたいだ。
「ハイ、確認しました」
「こっちのアミは、まだ身分証明書を持ってないから、これから冒険者ギルドで作る」
「なるほど。では、こちらでは保証金を支払い下さい。あとでギルドカードをお持ち頂ければお返しします。銀貨五枚です。」
お……おかね!街に入るのにお金がいるんだ。どうしよう。
あ、アイス! アイスクリームで買収できないだろうか……!?
あれこれ考えているうちに、ニャン吉が支払っていた。
「ニャン吉、いいの?」
「冷凍庫から勝手に食べたアイス代を返さなくちゃいけないからな」
ふふっと笑いながら、頭をポンポンされた。……!
このイケメン、気をつけなくては危ないかもしれない。ヤツは天然の女たらしかも……。
無事に門を通って街に入ることができた。
「とりあえず、まずは冒険者ギルドに行って身分証明書を作るぞ」
「冒険者? わたし冒険するよりスローライフを送りたいんだけど」
「一応登録しておくと、あれこれ買い取りもしてくれるし便利なんだ」
「そっかー。分かった!」
ニャン吉みたいなイケメンと、奇妙な白猫カンガルーの私達は非常に目立つ。
「見てあのイケメン!」
「あの腕に抱かれたい!」
「お腹のあれは何?」
「もしかしてスラにゃんじゃないかしら? 可愛い~ぽよぽよしたい~」
「しろねこのお嬢ちゃんも可愛いな」
「あの服装で分かりづらいが、あの嬢ちゃんなかなかの巨乳だぞ」
「脱がせてみたいな」
「そうだな」
おっと……なんか聞こえてきたぞ。
こんにゃろー! と思ってそっちをチラリと見ると、怯えた顔をしていた。
「??」
どうしたんだ? と思って斜め上を見上げると、ニャン吉がギロリと睨みつけていた。
「人が多いから、はぐれないように手を繋いでおくぞ」
そう言って、わたしの手を握るニャン吉。尻尾は腰に巻き付いている。
わたしは幼児か、迷子紐か!
その瞬間、「キャーッ」っという黄色い悲鳴が上がったような気がするけれど、ずんずん歩いて行くニャン吉に遅れないように、頑張って歩いた。こんな初めての場所で迷子になってはいけない。
わたしの尻尾も巻きつけておこう。二重で安心だ。
ニャン吉に尻尾を巻きつけると、ニャン吉が一瞬ビクッとしたけど、腰の尻尾を見て、微笑んだ。
また、「キャーッ」っていう声が聞こえた気もする。
迷子紐二重で、手を繋いだままの私達は、無事にはぐれることなく冒険者ギルドに到着した。
ニャン吉は迷うことなく、ドアを開けて入っていく。ちょっとお~心の準備が必要なのに……!
ずんずん進んでいくニャン吉。受付のお姉さんが、ニャン吉の顔を見て一瞬かたまった。分かる分かる。イケメンすぎて一瞬言葉が出ない感じ。
そして一歩後ろを歩いていたわたしを見て、「か、かわいいーーーーーー!」と興奮しだした。あ、ありがとうお姉さん……。嬉しいけど仕事中なのでは?
どうどう……。
「こっちのアミの新規登録を頼む」
「はっ、はい! 分かりました! アミさんですね! では、こちらに記入をお願いします!」
こっちの文字、読めるのかな?って何気に疑問だったけれど、ちゃんと日本語に見える。大丈夫みたいだ。
日本語で書いても、こっちの文字に見えるみたい。ホッ。
書いている途中も、
「イケメンだわ」
「しろねこだわ」
「抱かれたい」
「可愛い」
「巨乳……」
とまわりがザワザワしている。
カリカリと申込用紙に記入していると、突然静かになった。ん? と顔を上げると、目の前には2mくらいの大きなマッチョがいた。
そして彼は言った。
「おおーーーーー! 白猫王子じゃねぇか! 久しぶりだな! 十年ぶりか!?」
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