第11話 街へ行きたい

 コケコッコーコケコッコー!

 やっぱり今日も、鶏の鳴き声で目が覚める。

 スライムベッドの上で、もふもふニャン吉から抜け出して、んん~っ! と伸びをする。

 ニャン吉も、んにゃ~っと伸びる。猫はよく伸びる。


「おはよ~ニャン吉。マリン」

「おはよう、アミ」

「おはようにゃ、アミちゃん!」


頭の上からニャン吉の声。

テラスからマリンの声。


 ん? テラス?

「ま、ま、マリン! あれ? スライムベッド? あれ? でもマリンはあっちに!?」

「スラにゃんは分裂出来るんだにゃー。核のあるほうが本体なの。ベッドの方は、そっちに残しておくから、マリンがいなくても、いつでもお昼寝できるにゃ!」


 なんて便利なスラにゃん。ブラボー!!!


 朝ごはんも、ニャン吉が、どこからか仕入れてきた食糧で軽く済ませる。


 さて。

 しばらくゴロゴロしていたのだけれど、本が読みたい。


 ずっと本を読む時間なんて無かった。読んでも、仕事に関するものばかり。

 もっと、小説とか物語とか、たくさん読んで、たくさん妄想して、ボーッとしたい!


「ねぇニャン吉。本が読みたいんだけれど、どうしたらいいかな?」

「本か……。うーん。街の図書館に行くしかないな」

「街? 街があるの?」

「そうだ。まあ、最後に行ったのは十年前くらいだが、図書館はあったはずだぞ」


 おおー! 街かー!

 ここが、どんな世界か気になる。行ってみたい。


「ニャン吉? 街に行きたいな~! 連れてって欲しいな~!」

「むむ……。しょうがないな……」

「やったー! ありがとうーーーー!」

「マリンも一緒に行くのー! まだにゃんジョンから出たことないにゃ!」

「うんうん、3人で行こうねぇ~」


「しょうがない。そろそろ言うべき時か……」

 なんだかニャン吉が小さく呟いている。

 なんだろね?


 さて! お出かけだー!

 家の戸締まり……なし! どうせ誰も来ません、盗まれて困るもの、ありません!

 持ち物! 全部ポケットに入ってます!

 着替え! 白猫服しか、ありません!

 化粧! 若さあふれるピチピチ肌なので、いりません!


 よし! 準備完了! いつでも出れるぞー! 女子にあるまじき、準備の速さだ……。


「よし!ニャン吉、マリン!そうと決まったらレッツゴー!」

マリンはいそいそと、お腹のポケットに入った。

生物は入れられない魔法のポケットなんだけれど、

どうやら、スラにゃんの場合、核の部分が「生物」扱いになるらしく、核がポケットからはみ出ていればいいらしい。

つまり、白猫着ぐるみを着たわたしのお腹に青いスラにゃんがぴょこんと出てる図で。

カンガルー親子みたいで可愛いのだー!!!!!


「さてニャン吉。ここからどうやって出ればいいの?」

「とりあえず今日のところは、俺に捕まってろ。外に転移する」

「おおっ。さすがファンタジーの世界だね!」


 転移中に迷子になったら嫌なので、ニャン吉の首にぐるりと手をまわして抱きつく。

 手を回したら、ニャン吉は「……にゃっ」って言ってた。猫だなぁ。


「よし、それじゃあ行くぞ! 捕まってろよ~! 3・2・1!」


 ぐんっ! と引っ張られる感じがして、おおっと思った時には、既ににゃんジョンの入り口らしきところに立っていた。

「おお~!」

「外にゃ~!」


 まわりを見渡す。人がいる! 人が!

 みんな赤とかピンクとか青とか水色とかカラフルな髪の毛! これぞ異世界だ!


 突然現れた私達を見て目を丸くしている。

「ねこだ」

「しろねこだ」

「大きなねこだ」

「幻のスラニャンまでいるぞ」

「ねこだな」

「ねこだ」

「しろねこの子可愛いな」

「あの大きな猫ってもしかして…」

「まさか、こんなところにいるはずないだろ」

「いやでも……」


 みんな口々に「ねこだ」と言う。

 そして、ニャン吉について何か言っている。


 ニャン吉を見ると、目が泳いでいた。何か隠しているみたいだ。


「とりあえず、今日は街に行くんだろ! ここから歩いたら30分くらいかかるから、乗れ」

「えっ! ニャン吉に乗るの!? わたし重いよ!?」

「大丈夫だ、アミぐらいなら問題ない」

「うーん。大丈夫かなー」

「アミに合わせて歩いていると、道草ばかりして門までつかなさそうだしな」

「そう言われてみればそうだねぇ。それでは、乗らせて頂きます……!」


 背中によじよじ登ってみる。

 結構不安定なので、首に手を回して、ぴったりとくっつく。


「ちゃんと捕まってろよ!」

 そう言うか言わないかのうちに、走り出したニャン吉は、それはもう速くて速くて。あっ! という間に、街の門らしきものが見えてきた。


 門番が警戒しているのが見える。それはそうだ。

 こんな大きな猫が一直線に走ってきたら警戒すると思う。


「ニャン吉、みんな驚いてるよ。この辺からゆっくり行こうよ」

「ん? ああ、そうだな。」


ニャン吉から降りて、門まで行く。

「止まれ! この大きな猫と、ポケットのスライムもどきはお嬢さんの従魔か?」


 ”お嬢さん”の響きにニヤけそうになりつつ答える。

「こっちのスラニャンは私の従魔だけど、こっちは友達だよ」

 ニャン吉をぽんぽんしながら言う。


「街の中に入れる魔物は、従魔だけだ」

「えええー! そんな! ニャン吉は良い猫なのに……」

「ごめんな、そういう決まりなんだ」


「ニャン吉が入れないなら、しょうがないな……。とりあえず、今日のところは帰ろうか?」

「アミ、その必要はないぞ」

「でも従魔じゃなきゃ入れないって。……あれ? ニャン吉、十年前に来たって言ってたけど、どうやって入ったの?」

「こうして、だ」


その瞬間、そこには、猫耳のイケメンがいた。




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