第10話 ラタトゥイユと、スライムベッド

「マリン~っ!」

 大きなマリンにダイブする。ぽよーん。ぽよよよよよーん。はあ。可愛い。ぽよよよよーん。


 うっとりマリンに寄りかかっていたら、

「もふもふより、ぽよよんがいいのか……」

 と寂しそうな声が聞こえてきた気がしたけれど、わたしはそのまま寝てしまったようだった。


 夕方、マリンという名の「人を駄目にするクッション」の上で目が覚めた。なにこれ……寝心地良すぎ。

 しかもヨダレがマリンに吸収されてるっぽい…。


 ふと見ると、ニャン吉が、またどこからかバスケットを持って帰ってきていた。……本当にどこから持ってきてるんだろう?


「アミが調理器具や調味料が欲しいと言ってたからな。色々持ってきたぞ」

 と、尻尾をゆらゆらさせている。


「ありがとう! さすがニャン吉だね!」とモフモフを堪能していると、嬉しそうに尻尾をピン! ってしていた。

 ぽよよんも、もふもふも可愛いんだから!


 ところで、ニャン吉が持ち帰ってきたもののひとつに、厚手の重い鍋があった。これ! こういう鍋、ずっと欲しかったんだ~。


 よし! 今日は、ラタトゥイユにしよう!

 南仏料理のラタトゥイユ。「ごった煮」や「かき混ぜる」という言葉が組み合わされた名前だそうです。

 いろんな野菜があるから、ごった煮にしようー!


 トマト、ズッキーニ、玉ねぎ、パプリカ、にんじん。

 全部ザクザク切って。にんにくは半分に切って芯をとる。


「あっ! そういえばニャン吉は、玉ねぎとかにんにく食べていいの? 猫には毒だよね?」

「俺は猫じゃな……。……。大丈夫だ! 人間が食べられるものは何でも食べられるぞ!」

「マリンは何でも食べられるよね? スライムだし」

「もちろんにゃー! アミちゃんのごはん楽しみにゃー!」

「よしっ! 二人とも楽しみにしててね!」


 わたしだって昔は料理、たくさんしてたんだから。最近はずっと、外食と中食ばっかりだったけど。

 本当はこうして、ゆっくり料理するのが好きなのだ。


 鍋にたっぷりのオイルとにんにくを入れて、香りが出てきたらト玉ねぎ、パプリカ、にんじんを投入!

 本当は野菜は別々に炒めたほうが美味しいけど、まあ、そこは手抜きで! 塩をして炒めて。

 油が回ったら、にゃんジョン・ウォーターを100mlくらい加えて、蒸し煮。


 その間に黒パンとチーズも切って。テーブルの準備。テラスのテーブルに、パンやカトラリーを並べる。

 ちなみに、ニャン吉とマリンは、テラスで日光浴中です。二人共、でろーんと伸び切ってます。


 あっそうだ!ハーブのタイムも欲しいな~。なんか湖畔にそれっぽいのが生えてた気がするんだよね。


 テラスから降りてチェックしてみると、やっぱりあった。タイム。せっかくなので、30本くらい摘んでおく。


 よし、鍋の中はいい感じ。茄子とズッキーニは別のフライパンでオイルたっぷりで炒めておいたのを投入して。

 トマトとタイムを3本くらいのせて、塩をふって。更に蓋をして蒸し煮。


 さーて! 完成! ひゃ~いい香り!


「二人共ごはんだよ~!!」

 声をかけると、伸び切っていた二人は、シャキッ! として、テラスの席についた。


 マリンもちゃんと椅子にのっている。尻尾は既にスプーンに変形済みみたいです。


 鍋ごとテーブルに持っていく。

 お代わりは自分で食べたい分だけよそう形式なのです。最初だけ、わたしが皆のプレートによそってあげるけど。


「うわあ~いい香りにゃ~」

「うまそうだ」


「マリン、食べる前は、みんなで『いただきます』って言ってからね」

「は~い!」


「それではみなさんっ!」

「「「いただきま~す!」」」


 むしゃむしゃ。

「「「!!!!!!!」」」


 美味しすぎて、逆に無言になってしまう。なにこれ、わたしが作ったんだよね? 異世界の材料が美味しいから?

 確かに、トマトとか野菜とか、ちょっぴり味見してみたけど、本当に濃くて、ハウス栽培の野菜とは比べ物にならなかったけど。


 美味しい~!


「アミ、お前料理できたんだな……! いつもコンビニばっかりだったから、知らなかったぞ。これ美味しすぎる。」

「アミちゃん天才だにゃ~!」

「わたしもビックリしたけど、これ、ニャン吉が持ってきてくれた食材が美味しいんじゃないかな? すっごく味が濃いもの」

「まあ、たしかにこっちの世界の食材は、魔力を少し含んでいるから美味しいっていうのはあるけど……。それにしても美味しいぞ!」

「喜んでもらえて良かった~。これからも、こっちの素材の味が引き立つ料理をたくさん作りたいなあ!」


 みんなでワイワイ食べていたら、鍋が空になっていた。余ったら、色々リメイクしようと思っていたのに……。

 どうやら。この大食いの人たちと一緒だとリメイク料理まではたどり着かなさそうだ。


 ちなみに鍋は、スラにゃんのマリンが、ピカピカに綺麗にしてくれた。

「最後の一滴まで余すところなく!!!」

 と、油汚れまで吸収してくれました。やっぱり、一家に一匹、スラにゃん!


 皆で満腹になって、ゴロゴロして。月明かりの下お風呂に入って。就寝時間。


 ……。

「あ! 大変! ベッドの枠組みは作ったけど、布団がない! また原っぱ野宿か……!? せっかく家作ったのに!」

「アミちゃん、問題ないにゃ! せいや!」

 マリンがベッド一面に広がった。大きいベッドなのに、全部カバーしてくれて、しかも20cmくらいの厚みがある!


「え?この上で寝ていいの?重くない?」

「全然だいじょうぶにゃ」

「マリンの顔はどこにいったの?」

「顔は、あるようなないような、なんだにゃ。まあ、あえていうなら、この辺にゃ!」


 ピコッとベッドの端から猫耳が出てきて、耳をパタパタさせている。

「スラにゃんは核のあるところが一応、頭というか顔というか心臓というか……。まあ、そんな感じにゃ」


確かに、耳がパタパタしているところの奥に、宝石みたいなものが埋まっている。


「オッケー。じゃあ、お言葉に甘えて寝かせてもらうよ! ニャン吉! おいで~!」

「え? お前の家で俺も寝ていいのか?」

「もちろんでしょう! せっかく大きいベッド作ったんだもん!(それにニャン吉のもふもふ布団がなくちゃ寒いし)」

「しょうがないな……一緒に寝てやるぞ!」

 尻尾をピンとさせて嬉しそうなニャン吉。


 おそるおそる。二人でスライムベッドに寝転がってみる。

「「うわぁ~! 気持ちいいーーーー!」」

 ちょうどいい沈み具合のスライムベッドは最高だった。人を駄目にするクッションに続き、ベッドにもなっちゃうなんて……。


「えっへん! なのにゃー!」


 マリンのスライムベッドに、ニャン吉のもふもふ抱きまくら掛け布団。


 今日も幸せな1日でした。おやすみなさ~い。

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