第3話 ここは、にゃんジョン。にゃんこの、ダンジョン。

「さて、ニャン吉。いや、シロ?」

「いや、猫神様は白いからシロって呼んでただけで名前じゃないんだ」

「じゃあニャン吉?」

「……。なんかすごく複雑な気分だけど、慣れたからニャン吉でいいぞ」

 悔しそうな顔のニャン吉だ。

 猫なのに表情が分かるぞ。


「よし、ニャン吉くん。全て説明してもらうよー!?」

 無言で手を出すニャン吉。

 お腹のポケットを探って、一番安いアイスを手渡す。

 一番安いって言ったって、猫神様が食べたのが一番安いやつだから、これは二番めだ。


 アイスの銘柄を見て、ちょっぴり嫌そうな顔をしたけど、素直に受け取ったニャン吉。

 草の上に、ぽすっとおじさん座りをして、アイスを抱えてちょっと嬉しそう。

 いつの間にか、ニャン吉の手には銀色のスプーンが握られている。


「あ!わたし、スプーン無いよ?」

「魔力で作ればいいだろ?」

「どうやって?」

「頭の中でイメージすればすぐ出来るぞ」


 イメージね、イメージ、イメージ。むむ~呪文もいるかな。

「スプーン!」

 右手を掲げて、決めポーズ。呆れるニャン吉。

 右手には、銀色のスプーンが握られていた。……なぜか柄のところに、猫マーク付き。


 わたしは一番高い濃厚クリーミーなアイスをポケットから取り出して、食べ始める。

 ニャン吉がこっちをチラチラ見ているけど無視だ!

 おお……この魔力のスプーンすごい。アイスにすううっとスプーンが通る…!


「は~しあわせ~」

「アミは突然、こんなところに来ても焦ってないのな」

「だって焦ってもしょうがないしね~。ところで、わたしって元の世界に帰れるの?」


目をそらすニャン吉。

アイスに集中するフリをしている…!


「お~い。ニャン吉く~ん」

「俺がお前の世界に行けたのは、このダンジョンの宝箱で見つけた、魔法の”界渡りの指輪”のお陰なんだ。で、その指輪を使って行き来していたんだけど……。無くしちゃった☆」

 てへっ☆と可愛い顔で言ってくるニャン吉。


「ええ~!?そんな大切な指輪、どうして無くすのよ!」

「だってな。アミんちで昼寝してたら、無くなってたんだよ~。黒い指輪。見てないだろ?」

「そんなの見たはずな……」

 あれ? 黒い指輪ね~。

 ああ~黒い指輪ってあれ? なんか床に落ちてて、なんじゃこれ? ってゴミ箱に入れた記憶が……あるような……。

 目をそらすわたし。


「おい、アミ……。お前、もしかして……」

「だってー! なんか汚いなーって思って捨てちゃったよ! もうとっくにゴミ収集所で燃え尽きて埋め立てられてるよ!」

「あの指輪はな! 世界にひとつしかないレアアイテムなんだぞ!」

「知らないわよ! あれ、それじゃあ、その指輪がないと帰れないってこと?」

「まあ、そういうことになるな」

「でも、猫神様は、あなたのこと召喚できたじゃない」

「それは俺が猫神様の眷属だからだ。それに、送還はできないはずだ。召喚だけだ」


 そっか~。帰れないんだ~。

 冷蔵庫の中身大丈夫かな?

 残してきた大量の仕事と、慌てふためくむかつく同僚の顔も目に浮かぶな~。


 ぼーっと考えている私に同情したのか、ニャン吉は、わたしが悲しんでいると思ったのか、

「その…巻き込んでしまって悪かったな…」

と、わたしの膝にポスっと手を置いた。


「いや、別に、未練ないしな~。こっちも楽しそうだから、とりあえずこっちで生活してみるよ。まあ選択肢もないし」

「そ、そうか! ならば、ここに住めばよいぞ! にゃんジョンの百階層は、俺の縄張りだしな!」

ニャン吉の尻尾がピーン! と立って、喜びをアピール中。


「ところで、そのにゃんジョンってなんなの?」

「にゃんジョンはな……。その……。にゃんこの、ダンジョンだ」

「へえ~。ふうーん。んんん? にゃんこのダンジョン。にゃんこの。ダンジョンって普通、なんか罠とかモンスターとかいっぱいあるやつじゃないの?」

「まあ普通はそうなんだが、猫神様の趣味で作ったダンジョンなんだ。

罠は色々あるが危ない罠じゃないし、ここに出てくるモンスターは倒すんではなくて、愛でるのが攻略法なのだ」

「愛でる…?」

「撫でたり、餌付けしたりだな! その階層のボスを手なづけられると、下に降りれる仕組みになっている!」

「なんなのその素敵な、ダンジョン~!!!!!」

「とは言っても猫は気まぐれだからな。冒険者いわく、普通のダンジョンより攻略が難しいらしいぞ。だから、ハッキリ言って、あんまり人気ないんだ、にゃんジョン」


「あっ! つまり、わたしは、ニャン吉を手なづけたから、なんかダンジョン攻略のご褒美があるんじゃないの~!?」

「………!?」

「もしかして……そのご褒美が、あの黒い指輪だったって言うのー!?」

「……。しかも、さっきの話だと、一度、アミが手に取ってるから、正式にアミが手に入れたことになる」

「ええーーーーー!? じゃあ、わたしにはお宝無し!?」

「そういうことになるな」


 ぐすん……。

 まあ、いっか~。


「ま、しょうがないね! とりあえず、しばらくここに住むから宜しく、相棒!」

 ニコッとニャン吉に微笑む。ニャン吉が、目をパチパチさせている。

 は~可愛い。


「よし。わたしは昼寝するよ。ニャン吉、枕!」

 ニャン吉を枕にして、草原に寝転んだ。

 猫神様の加護がついているからか、身体が、猫みたいにたくさん寝なくちゃいけない感じなのだ。

 空が青くて、風がそよそよ拭いていて、気持ちいい枕~。


 これからのダンジョン生活に思いを馳せて、夢の世界へと旅立ったのであった。



「よろしくな、相棒」


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