Ⅴ「星の眠りを守るもの」
ジリリリリリリリリリ――――
流星の如き激しい光の
歌姫ごと視界を包んだ白の中で、
左胸を
次に感じたのは初夏の風。
自らの
おそるおそる瞼を開けば、ビルの
「歌わないのかい?」
耳元で
腰を
「……助けてくれたの?」
「結果的にはね」
「どういうこと?」
少年の不可解な言い方は、一日で慣れそうにない。
ほんの少し近づいた少年の顔。
「君の歌声が届いた」
「……」
「人だけではない。星の
「竜?」
少し
「
少年の腰にはベルトで固定された拳銃のような道具。
リボルバーの代わりに
「星の竜はこうとも呼ぶ――
星の構造は
かつてはそう言われていたが、今は
星が星を
「言っとくが、星核は最初から複数いるよ」
「え!?」
いきなり通説を否定され、キャロルは
「複数の竜が眠り、星を形成しているのさ」
「なんで
「起きると争いが発生するのさ。君達はそれを世界的災害と呼ぶね」
海を割るほどの
「竜は
「もしかして……」
「その眠りを管理し、守るのが僕だ」
人も日常のように
それが――目覚まし時計。星単位の守護を
「先ほど、一
「……え?」
「君の歌声は星に届いた。だから僕が動いた」
少年が
導かれるままに
子供にしては低い体温の手だったが、冷たさは感じない。
「君は星に認められたんだ。おめでとう」
その規模を正しく
ただ目の前の少年に祝われたことが、この上なく
「僕はそろそろ去るよ。じゃあ」
「待って。オルフォは持ってないの?」
「ないね。言っただろう。僕への
「じゃあこれ、私の
油性で
「消えるかもしれないよ」
「
「……考えておく」
「あとはこれね!」
万年筆のようなデザインの、サイン入りミュージックプレイヤー。カフェテリアで見せられたものと同じだ。
無表情ながら
「大切にしてよね」
額にかかる
そして
「そういえば、君の口から名前を聞いてないよ。君は
足を一瞬だけ止め、自信満々の
「世界的歌姫、キャロル・ノワールよ! 憶えておきなさい!」
その言葉を聞いて、少年は
歌姫も歓声に応えるため、ビルの階段を
移動車の中で、キャロルは少しだけ
けれど指先で唇に軽く触れ、わずかに
裏路地を歩く少年は、寄り添うように進んでいたカピバラが
立ち止まり、一分後。道の角からよろけながら青年が歩いてきた。
ぜぇはぁ、と全力
「やあ、エクスプローラー。どうだった?」
「R1033の無事が
裏路地の
額に流れる
「やはり
「だろうな。歌姫がいきなり保護対象に
「それはよかった。彼女は星に認められたからね」
「てか……そのキスマークなんだよ?」
少年の額を指差し、青年は不可解そうに見つめる。
金髪の隙間から赤いルージュが
汗と
「色々ね」
「……そうかよ」
深く語らない少年は、手の平に残ったアドレスを
渡されたミュージックプレイヤーは旅行
「エクスプローラー」
「あ?」
「オルフォってどこで買えるんだい?」
「ようやくか、この
今までの
しかし彼の表情は苦労が
「あとミュージックプレイヤーってどう聞くんだい?」
「おいおい、まじか? まあ機種によるけど……」
「ああ、あれだよ」
裏路地からも見える街頭テレビ。
そこに映し出されたコマーシャルには、
限定品であることや、常に世界的歌姫の最新曲が聴けるなど。
様々な最新機能が入った機種に青年は
「おまっ……」
言いたいことが
近くの自然公園から
しかし店員すらも歌声に
駅構内では様々な
「ねえ、キャロルの最新曲を聞いた?」
「
「あれって誰かを
はしゃぐ女学生の横で、北国の
彼は耳にイヤホンをしており、万年筆型のミュージックプレイヤーで音楽を聴いていた。
通りかかった少女が、彼のミュージックプレイヤーを
世界的歌姫キャロル・ノワールの限定品。しかもサイン入りなのだ。
遠くで新聞紙に顔を
少年は慣れない手つきで携帯電話を操作し、新しい連絡先を追加する。
『次の都市間列車が参ります。白線の内側で――』
アナウンスの声にカピバラの耳が立つ。
少年の足に寄り添っていた
音楽が一瞬にして遠くなった。少年はゆっくりと
ミュージックプレイヤーを新聞紙片手の男に
手足がカメレオンの形をしており、そのまま
「さすがは星に届く歌声だ」
携帯電話で何度も表示される返信要求のメッセージを読み飛ばし、少年は線路内へと降りた。
ばさり、と羽音だけが駅構内に残る。一瞬で少年は姿を消した。
電車に張り付いた男の笑みが引きつった。
時速二百キロを
「それは返してもらうよ」
少年の
街頭テレビでは今日も歌姫が
とある場所では
呪いは
そして今日も星の眠りは守られるのであった。
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