Ⅳ「裏切り者」
星空よりも、地上の星が強い都市。
真っ黒な街の街灯やネオン看板。それらが
「――――」
声の調節のために出した「ラ」の音。
何度も、続けて、ただ一つの音を
しかしそれさえも歌へと変わっていく時、地上の
その声に
いっそのこと暴力的で、力強く、どうしようもなく
「――!」
音楽が流れ、歌声が
掴まれた魂を
体全てがその音を受け止める硝子皿になったようで、いつひび割れてもおかしくない。
星空よりも
世界の歌姫キャロル・ノワール。その名前が確かなものだと思い知らせてくる。
一曲目が終わり、初夏の風が
「……っ」
ドームでは味わえなかったであろう、都市全体を
腹の
にやり、と勇ましい
「二曲目! いくわよ!」
配信で類を見ない再生数。
アクセスが集中しすぎて、再生できない事態が多発。
あらゆる配信サイトがパンクする勢いを、さらに
「――――!!」
最後まで歌い切るような、そんな力の
いつ
音によって引き起こされた
空気が、水が、あらゆるものが震えていた。
星の命――竜脈にまで
「……おや?」
裏路地を歩いていた少年が足を止めた。
背中で歌姫の声を浴びながらも、
けれど星の変化を感じ取り、進む方向を変える。
一つ外れた路地ではストリートチルドレンさえ、歌を
さらにもう一つ外側の道では、
「なるほど」
「おい、目覚まし時計!」
少年よりも
ぜぇひゅー、という呼吸が苦しそうだ。また倒れてもおかしくない。
それでも少年を引き止めようと、必死に手を伸ばす。
「このまま見捨てるのかよ!?」
「そう思っていたが、事情が変わったよ」
予想外の返答を受け、青年は目を丸くした。
少年の行動スタンスは体に残った
しかし青年が知る中で初めて、少年が変化したのである。
「じゃあ今すぐ歌姫を……」
「いいや。まずは根源を
そう言って少年はまたもやハイタワーに背を向けた。
動向が掴みにくい少年に
裏路地を曲がりくねり、時にはカピバラに先頭を任せながら進む。
赤い
背後から
ぎぃっ、とわずかに
「え?」
インスタントラーメンを
少年とカピバラだけで安心したのも
「ひぃっ!? なんでF1092
「テメェ……」
体全身が炎となった青年が、コンクリートや
炎の化け物から
しかしすぐに
「なんで
「……あ?」
扉の前で立ったままの少年は、冷静に問いかける。
内容が引っかかった青年が立ち止まると、情報屋は
顔だけを布団から出した状態で
「電子の呪いとは
「どうして……」
「
一歩、少年が近寄る。
それだけで情報屋は金切り声を上げ、ますます布団に
「あれが悪いんだ!
「彼女自身が行ったのではなく?」
「あれに晒されるのは逆名誉なんだよ! けど過激派のファンは
少年がそれ以上近づかないように
「過激派は対象を社会的に殺すんだ! 半ば
「その過激派を呪えばよかったのでは?」
「晒しを認めたのはあれだ!!」
情報屋は青い液晶パネルを指差す。
全てのパネルに歌姫が映し出され、今も力強く歌い続けている。
勇姿と呼ぶに
「過激派はあれを
「目的がズレているよ」
「わかってる……でも許せないんだ……」
時折顔を上げて、液晶パネルに映る歌姫を瞳に入れる。
「目覚まし時計殿が連れてきた時は驚いたよ」
「そうかい」
「実物のあれは……
「……」
「
液晶パネルの映像が
炎の体のまま青年が外へ出れば、ハイタワーが
「この呪いの解除の仕方を拙者は知らないんだ」
「残り時間は?」
うなだれた情報屋に、少年は
「あと二十分――」
パソコン上に表示された時間を
「アクセス数が百億を
立ち上げた本人の手を離れ、暴走する呪いを前にウドは涙目で
「
他人の力に任せて
全ては
「おかげで僕が動く羽目になったよ」
「へ?」
少年の声に反応し、顔を上げる。
だが炎の青年と共に部屋から消えており、赤い扉がゆっくりと閉じられていく。
ハイタワーの展望台真下で
スタッフ達の姿も消え、展望台には彼女だけが取り残されていた。
「なにが、起きっ!?」
真横に
火災も起きているのか、
身の危険を感じて登ることを決意した矢先、砂埃の中から手が伸びた。
その手を掴もうとしたが、人間大の炎が
伸びた手が炎に
目の前で起きたことに
「逃げろ! ここにはお前の敵しかいない!」
四散した炎が一
先ほどの炎の
黒い服はところどころ焦げており、半ば焼かれた
「あ、アンタは……」
「いいから! 目覚まし時計があとはどうにか……」
別の煙から伸びた手が、青年に触れる。
すると青年の姿は一瞬で消えてしまい、手は煙に
異常事態の裏で
――逃げろ!
――目覚まし時計があとはどうにか……。
耳には自信がある。炎と青年の声は同一だった。
青年の言葉を信じ、キャロルはハイタワー最上階へと向かう。
煙や
歌姫の終わりまで、あと五分――
闇サイトで進行する時間などわからず、キャロルは階段を
立ち上がると足首に痛み。触れればわずかに熱と
痛みを
階下で言い争う声が聞こえたが、ほんの少しだけしか理解できなかった。
「裏切り者め!」
「
「
「うっせぇ、T1067。まずはテメェからだ!」
ボタンで防火扉を降ろし、まだ火の手が遠いことに
歌姫の終わりまで、あと三十秒――
「そうね。なにか武器とか……」
棒を探そうと思ったキャロルの頭上に、急に瓦礫が現れた。
それは一つ二つではなく、連鎖するように次々と落ちてくる。
足の痛みに
だが建物自体が傾き、その重みで瓦礫が迫ってくる。
車のように
歌姫の終わりまで、あと十秒――
瓦礫の重みで傾きが加速していく。
ほぼ垂直な角度に
硝子の
歌姫の終わりまで、あと三秒――
手の平から
指が解け、瓦礫の雨と
歌姫の終わりまで、あと二秒――
すると瓦礫はその場から消え、歌姫を
キャロルなど
歌姫の終わりまで、あと一秒――
瓦礫から
大きな瓦礫の方が落下速度が速い。
信じられないといった様子で、キャロルは無力なまま目前の出来事を見つめていた。
歌姫の終わり――
彼女の視界は一色に染まる。
世界が終わってしまったかのように、なにも見えなくなった。
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