02 青白い光線

 一人、一人、CHIC WAVの光線の餌食えじきになっていく。


「ティム! ティム!」


 ラリーが俺の腕をつかんだころで我に返り、俺もまた走り出した。

 全力疾走で南へと向かう。


「地下だ! 地下に逃げろ!」


 前方を行くラリーの背中を追いながら、大通公園二丁目の南側にある地下街入口へと駆け込んだ。が、すでに多くの人々が入口を埋めて、中に入ることが出来ない。

 振り返ると、CHIC WAVが一体こちらへと近づいてくる。


「ここはダメだ! 走るぞラリー!」

「けど!」


 増大していく低周波の音量が、その場にいた人々をパニックにおちいらせた。


「ラリー!」


 俺はラリーを入口の群れから無理やり引きはがし、南に向かって走り出した。

 CHIC WAVは機械的な低周波音とともに、先ほどよりも大きな青白い光を放った。次の瞬間しゅんかん、入口にむらがっていた人々は一人残らずちりしてしまう。


「……マジかよ」

「ちくしょう! さっき隠れていた地下街入口から入ればよかった」


 ぼやくラリーを横目よこめに、俺は逃げ込めそうな場所を探す。

 そのあいだも、CHIC WAVが青白い光線で逃げまどう人を消滅させながら近づいてきた。右手にある、すでに崩れ去った丸井今井デパート大通館のかどを俺たちはまがった。


 俺たちは南一条通りを西に向かって走る。

 と、前方の角からべつのCHIC WAVがあらわれた。


「まずい!」


 俺たちは慌てていまきた道を引き返す。が、大通館の廃墟はいきょのかげからさきほどのCHIC WAVが姿をあらわす。

 ……なんてことだ。

 俺たちは得体えたいの知れない物体にここで殺されてしまうのか。

 ラリーを見ると、頭のネジがぶっ飛んでしまったのか、目の前の巨大な浮遊物にカメラを向けつづけている。


「……ラリー」

「ああ」

「ラリー!」

「ああ、撮ってるよ! どうせ死ぬんなら、こいつらの姿を意地いじでもこのカメラに残してやる!」


 前方のCHIC WAVはあたりを震わす低周波音をふたたび発した。こちらに正面を向けたその物体は、円形の空洞くうどうを青白く光らせはじめる。その光は、これまでと同じように増大し、エネルギーを収束しゅうそくさせていった。

「……クソッたれ」


 突然、CHIC WAVの上部で爆発が起こった。


「うおおおおお」


 すさまじい轟音ごうおんと衝撃が俺たちを襲う。

 CHIC WAVは、爆発による衝撃で揺らぎ、後方こうほうの建物にその巨体を突っ込んでいく。


「なにが起こった?」

 唖然あぜんとする俺たちのまえを、低空飛行した攻撃こうげきヘリが二機、通り過ぎていった。

「……AH-1コブラ! 自衛隊じえいたいの攻撃ヘリだ」

WooウーHooフー!!」


 粉塵が舞うなか、俺はうしろを見た。

 もう一体のCHIC WAVが、こちらを狙って近づいてくる。


「逃げろラリー!」


 俺は前方で態勢を崩すCHIC WAVを横目に、カナリヤ札幌本店に沿って走った。ビルの横に地下への入り口が見える。


「ラリー! あれだ! ラリー?」


 俺は足を止めて振り向く。

 ラリーは、カメラを向けたままその場で立ち尽くしている。

 ここからではビルの角が死角となって見えないが、おそらくこちらに迫っているであろう、もう一体のCHIC WAVを撮影しつづけていた。


「ラリー! おい! ラリー・オグルビー!」


 ……ちくしょう。このままラリーを助けに戻れば俺も死ぬ。はっきりと確信できた。

 低周波音があたりに響きだす。


 あのバカ野郎!


 俺は、勇気を振り絞って一歩踏み出す。

 ラリーまでの距離は一五メートル。交差点の路面がしだいに青白い光に照らされていく。あと五メートル。すでに建物の角を越え、俺もまたCHIC WAVに左半身をさらした。


 俺はわき目も振らずにラリーへと飛び込む。直後、膨張ぼうちょうした青白い光が光線となって、背後に着弾ちゃくだんした。

 間一髪かんいっぱつだった。もし一瞬でも遅れていたら、俺たちは二人とも塵になって消えていただろう。

 俺はラリーを抱き込みながら、前方の路面へと倒れた。


「なんだ、ティム。どうした? ……なんでだ?」

「……ラリー……落ち着け」


 ラリー・オグルビーは完全に混乱していた。

 しかし、この場で正気しょうきに戻している時間はない。


 俺は立ち上がり、ラリーを引っ張り上げながら、丸井今井デパート大通館の廃墟かげへと身をかくした。CHIC WAVは角を曲がろうと向かってくる。目の前の建物にのめり込んでいたCHIC WAVもまた、ふたたび起動しはじめる。

 この位置では、カナリヤ札幌本店ビルの地下入口には向かえない。

 俺は、さっき大勢の人々が塵と化した大通公園側の地下街入口を見た。人々はされてしまったが、入口は無事だった。むしろ、傷ひとつついていないと言っていい状態だった。


 もしや、あの青白い光線は、有機物ゆうきぶつ――生物のみを破壊するのか?


 いや、いまはそんなことよりも、入口が無事なら格好かっこうの逃げ道じゃないか!


 俺は、いまだ混乱状態にあるラリーの腕をつかんで走り出す。二体のCHIC WAVが背後はいごで重い音を発するのが聴こえた。


「あれだ。あの地下街入口だ。わかるな?」

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