第27話 矢部さんは完璧で究極なゲッお飾り
「待てやコラ……。後ろからとは卑怯だなおい……」
蘇我島さんがゆらぁっと立ち上がる。
……立ち上がった。
かなりダメージキてる感じがするけど、あんな全力で頭に一撃もらって人間立てるものなの?
病院とか行った方が良さそうな揺れ方してる。
「女に手を出すのは卑怯とは言わないのですか?」
「トドメまでやってねえんだからいいだろ。お前らが勝手に乗り込んできて、勝手に暴れて、勝手に死んでんだよ。俺に悪いことがなんかあんのか?……チッ。とにかくそいつから手を離せばトドメは刺さねえでおいてやるよ……」
ふらふらしてるのにこの気迫。
明らかな殺意。
それでも僕を取り返そうとしてくれてるのはなんでなんだろう。
「後頭部に打ち込みました。早急に病院へ行くべきです。無関係な人間を庇ってまで負うリスクではないはずです」
明日葉さんも僕から手を離すつもりはないらしい。よりぎゅっと抱きしめてくる。ふわっとしてるし柔らかい……。
蘇我島さんが倒れ込んでいる女の人の頭を掴んだ。
「ぅ……」
女の人がちょっと呻いてる……。
「話聞いてたか?俺はそういう人をおちょくるような真似も交渉ごっこも死ぬほど嫌いだ。そいつを渡せっつってんだよ。お前らがそいつを連れてくなら倉庫に入ってるこのゴミどもはボロ雑巾にするぞ」
交渉は嫌いだけど脅迫はするスタイル。
人質とってるのがどっちかわかんなくなってきた。
この人僕のこと助けようとしてるんだよね……?
さすがはアウトローを名乗るだけある無法っぷり。
「どうする、泉?流石に見逃せないよ」
「私が相手します。明日葉はそのまま連れ帰り、幹部会とYPMCに連絡をとってください」
「……分かった」
「はい。後のことは全て任せます」
グッと明日葉さんの腕に力が入る。必然的に首が締まる……!
「行こティファニーちゃん」
……天国に?
また大きくため息をつく蘇我島さん。
「霧原ぁ。お前そいつを利用するって意味を理解してねえな」
霧原さんが怪訝な表情を浮かべる。
「何が言いたいのでしょうか。これでもよく理解しているつもりですよ。我々の計画には必要不可欠なピースの一つです」
「……。その計画ってのはなんなんだ?」
わずかな沈黙の後、霧原さんは軽くため息をついて話し始めた。
「総長代理を正式に総長に引き上げます。目的はたったそれだけです。元々なんのために総長であったか分からない、我々の存在も知らない、薬座小葉の積み上げた物の頂点に平然と座るこの子には、何も知らない一般人という本来の席がある。正しい位置に戻したいだけです。邪魔をされる理由はありません」
なるほど。というかその場合は僕が総長やめます!!って言えば……違うかな。結構大きい組織みたいだし、そんな事したら大混乱になるんだろうな。
でもそんな事ならもっと早く言ってくれればいくらでも協力したのに。
蘇我島さんにはこんなに守ってもらったりして申し訳ないけど、僕はやっぱり霧原さんについて行った方がいい気がする。
蘇我島さんはここまで聞いて戦闘態勢を解かない。
どころか女の人を軽く投げ捨てて頭をぐるぐる回してふらつきを取ろうとしてる。
「そいつが総長なのは間違ってねえよ。矢部総会のルールが強者絶対にした時点でな。そいつは総長で良い」
……何言ってるのこの人。僕は多分この中の誰にも勝てませんけど?
「見てわかるでしょう。華奢な腕、傷もくすみもない肌。西洋人形のような……こんな子のどこに強者絶対が当てはまるのですか」
恥ずかしいから真面目な顔でそう言うこと言わないで……。
「可愛いからだろうな」
明らかに霧原さんが衝撃を受けてる。あの無表情の霧原さんが、明らかに動揺している。
「つまり、総長は矢部様に惚れている……?」
「まぁ語弊はありそうだが……そうだな」
なんか予想以上にダメージ受けてない?
その時、ぐっと僕の体が持ち上がる。
「泉、行くよ」
それは今までにない明日葉さんの冷たい声だった。
「明日葉。私は………。いえ、はい。行きなさい。私はここで食い止めます」
動き出す明日葉さん。こう。持ち方的に仕方なかったとは思うんですが、猫を抱えるような持ち方をされると何か気恥ずかしいです。
でもとりあえずここまでで分かった。全部、僕は理解した。
だから事の結末を見届けよう。
だって僕。
できる事ないし。
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