第26話 俺は男女平等に殴る主義
懐中電灯らしき光が一斉に点灯して辺りを照らす。そしてその光が一斉に蘇我島さんに向かう。
僕は棚の物陰に隠れてるおかげで、光が通ってない。それが分かると蘇我島さんは僕から手を放して「行け」とだけぼそっと言って光源へ向かって走り出した。
行けと言われても出口そこしか知らないんですけど、僕はそこから出たらいいんでしょうか?多分まずいと思うんですよね。それは僕にもわかる。隠れろってことかな……。
「人のところにカチ込んで舐めた真似してんじゃねえぞ!!」
ゴッて重い音と何かが倒れた音がする。懐中電灯の光源が1本あらぬ方向へ飛んでいく。
何が起きたか分かるような気がするけど、止める方法も、止めた方がいいのかも分からない。
瞬く間に光源が入り乱れる。
「大丈夫かな……」
収まらないところと怒声を見ると蘇我島さんは、暴れ回ってるらしい。複数人に囲まれてて戦うのはプロでも大変って聞くけどやばいなあの人。
「計画上やむを得ない犠牲です」
「そうなんだ……。でも、そもそも霧原先輩達は僕を捕まえて何がしたいの……?というか僕はこれどうしたらいいのかな。ここから脱出すれば安全なのかな」
「そうですね。それについてはあとでお話しします。ですが、今は手早くこの場から離れた方が良いです。裏手にドアがあります。行きましょう」
僕の背後からすごい的確なアドバイスをくれる。こういう指示してくれる人がいると安心するな。僕は上に立つような人間じゃないんだなぁって心から思う…………。
「いや誰!!!!????」
叫んだ。
そしてベッド(マット)から飛び落ちた。
「いーー……!!!」
たい!!痛い……手をつくのを失敗した……。挫いたかもしれない……。
「あ……」
ここには誰もいないはず。ここには誰もいないはず。おかしい。おかしいおかしいおかしい。
こわいこわい。やめろばか。
ふざけ……!
とにかく逃げなきゃ。落ち着いて、ベッドなんて振り向かず、光のある方に。
「ま、待ってください!そちらは危ない!!」
こわいこわいこわいこわい。
暗い方に行ったら取って食われる!
懐中電灯が散らばってる。
倉庫の出口は開いてる。
まだ蘇我島のガタイのいいシルエットが、女の人達と組み合ってるのが見える。
女の人達は、僕が向かっていくのに驚いてる。
「捕まえなさい!!!」
後ろから声がする。
身構える女の人達。
「いい度胸だなぁ総長!!!正面突破がいいんだなぁ!?やらせてやるよクソがぁぁ!!!」
蘇我島さんが吠える。
蘇我島さんが、女の人を一人掴むと乱暴に力一杯、言葉の通りぶん投げた。
「小町!」
女の人達が飛ばされた子を受け止めようとしてるけど、勢いに押されて女の人達が倒れて道が開く。
駆け抜ける。
その先に。
「はい確保」
走る勢いそのまま抱き止められる。あ、柔らかい……。
「この前ぶりだねティファニーちゃん。大丈夫?」
顔を上げると明日葉さんだった。
「おぉら!ラストオオオオ!!」
後ろでドーンって音がした。
また誰か投げ飛ばされてる……。蘇我島さんのおかげではあるけどむごい……。
「そいつを渡せよクソアマ」
「ははは。無礼者だ」
無礼者だ……?
「一応聞いとくんだけどさ。なんでアウトローの蘇我島くんがこっちに首突っ込んでくるわけ?関係ないよね?別にアタシらもアウトローに何かするってわけじゃないし、ティファニーちゃんに怪我とかさせないよ?」
明日葉さんの質問に、血の混じった唾を吐き捨てる蘇我島さん。
「知らねえよ。知らねぇから首突っ込んでんだ。だから教えてくれよ。なんのためにそんな女装した変態捕まえるのに必死になってんだ?俺のスマホまで壊しやがってよ。弁償しろよクソが」
「嘘ばっかだね。屋上であの変態がくるなんて聞いてないし、アンタら最初からアタシらの邪魔する気まんまんだったんじゃないの?」
「あの変態の行動なんて知るわけねえだろ。だから渡せ。そいつは小葉に預ける。何も知らねえやつ
巻き込んでる時点で、何しようがお前らがまともなわけねえんだよ」
蘇我島さん……すごいまともな事言ってる。
女の人達をちぎっては投げてたから、いい人ではないと思うけど。
「でもそっちの負けだよ」
「あ?」
蘇我島さんの背後にぬるりと影が現れる。
さっき見た得体のしれない化け物だ……。
僕も逃げなきゃ。次襲われるの僕だ。
「こーらこらあばれるな暴れるなー。……ちょ、マジじゃん。ちょーいちょいおちつ、落ち着け!」
逃げようとした抵抗虚しく、ぎゅむっとさっきより強く抱きしめられる。なんか……さっきは怖かったけど、甘くていい匂いがする……。落ち着く……。
「よーしよしよし。大丈夫だからねー」
撫でないでほしい。
蘇我島さんの背後に現れた影が蘇我島さんを打ち抜く。
放たれた拳の衝撃で頭から前のめりに倒れる蘇我島さん。
……死んだ?
「小町……アズサ……モカ……。この程度で仇を討ったとは思いません。ですが、まずは計画を進めます。約束ですから。明日葉」
影から現れたのは霧原さんだった。
「はいよー!じゃ、今度こそついてきてくれるよね?ティファニーちゃん」
結局なんで僕はあっちに行ったりこっちに行ったりしなきゃいけないんだろうか。
こんなにたくさんの犠牲を出してまで、僕になんの価値があるんだろう。
僕はついてくのが正解なのかな。
どうしたら良いのかな……。
「行きたくないって言ったら……?」
明日葉さんを見上げる。
「うっ……!!」
明日葉さんがダメージ受けてる。
「上目遣いを使いこなしおる……!でも、だめだよー。ティファニーちゃんにだって悪くないはずの話だから場所移動して、それからゆっくり聞いて、納得してほしいな」
なるほど。少なくとも話はしてくれるんだ。
「……まぁ納得してもらえなくても、やることは変わらないんだけどね」
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