第25話 暴力の権化なのに倫理観がまとも
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
………………………。
気まずい。あれから蘇我島さんが買ってきてくれた吉◯家の三種の牛肉チーズ丼温泉たまご付きとか言う謎のこだわりを感じるご飯を食べてるんだけど、渡されてから一言も話してない。
いただきますを話したと言わないなら渡す前から何も話してない。
この倉庫の照明が広範囲に広がらないタイプのせいでマットにだけ光が当たって犯人の独白シーンみたいになってるのも微妙に嫌な空気を出してる。
「……なぁ」
「ふぉあい!?」
頬張った瞬間に話しかけないで欲しい。
「いやいい。食えよ」
急いで咀嚼してお茶で飲み干す。◯鷹。
「なんでしょうか……」
「とりあえず聞いとけ。総長代理がなんでお前を総長にしたのかは正直誰も知らない。実際に総会を創設したのも動かしてるのも実質的なリーダーも小葉だからな。
だからこそお前が総長であることを不快に思ってる奴がいる。霧原は特にな」
とんだとばっちりというかほんとに無関係なのに巻き込まれてるんだな……。
でもそうすると疑問が湧いてくる。
「じゃあなんで守ってくれるんですか?」
蘇我島さん質問には答えなかったけど悪そうな顔をしてる。
「これから分かる。一晩ここで待てっつっただろ?あいつらにとってもこの一晩が過ぎれば2度とチャンスはねえ。なにしろ朝一番には小葉がお前を迎えに来る。その後は面白くもねえ処分で終わりだ」
朝一番になれば、僕を総長にした人に直接会えるってことか。
顔見たことくらいはある人とは思うけど、そんな人に心当たりはない……。
ここは静かだ。8時頃まではトラックの音や貨物の動く音が聞こえてたけど、今はもうなんの音もしない。
「すぐに迎えにきてもらったりは……無理ですよね」
「言えば来ると思うぞ。来ると思うが、ここは仮にもアウトローの秘密基地だ。小葉もこの場所は知らねぇはずだ。そんな場所を知らせてまでお前を安全に返す義理はねえ」
なるほど。とはいえ外に出たら安全の保障はできない。だから、一晩はここにいてほしい。そう言うことなのかな。
「…………」
「で、お前本当に男なのか?」
「はい」
「なんで女子の制服着てんだ?」
恥ずかしくなるから改めて聞かないでほしい。
「いや……その……。かわいいって言われても良いかなって……その……」
「あ?かわいい?」
そこにつっかかる人初めてなんですけど、自意識過剰でしたか僕は。やっぱ明日から普通の制服着ようかな。
「お前の事じゃねえよ。……なるほどな。納得した。なるほどな。やっぱ霧原とやり合うのは無しだ。お前はすぐに小葉に引き渡してやる」
どう言う心境の変化なのか分からないけど、何があったんだろう。
「なんなら俺も小葉の怒りを買う可能性が出てきた。それだけだ。ビビってるわけじゃねえが……。こんなクソくだらねえことで買う喧嘩じゃねぇ」
どういう意味だろう。
そう言って蘇我島さんがスマホを取り出す。
電話をしようと耳に近づけたスマホは蘇我島さんの手から弾かれた。
同時に倉庫の照明が落ちて内部は真っ暗になる。
だけど、密閉されてるわけでもないらしく、本当にわずかにだけどオレンジ色の街灯がちらほら差し込んでるように見える。
多分それを頼りにして外へ向かったらケガすると思うけど。
「チッ……!」
蘇我島さんの舌打ちが聞こえて、僕のブラウスの襟首を、ひんやりしてゴツゴツした感触が掴む。
状況的に蘇我島さんの手なんだけど、違ったらどうしよう。違ったらどうしよう。助けて榊原……。
倉庫の錆びついた扉が錆びた金属音と共にゆっくりと開かれて、差し込むオレンジ色の光が太くなっていく。
オレンジ色の光は、さらに人影を写す。一人や二人じゃない。
「何しに来やがった霧原ぁぁあ!!」
蘇我島さんが怒声を上げる。
「ヤッホー蘇我島くーん!残念ながら泉はこっちじゃないんだな!」
この声は明日葉さん?
また蘇我島さんが舌打ちした。
「死ね!!!」
あまりにもダイレクトすぎる罵倒。
「はっはっは!そこにティファニーちゃんいるよねぇ?こっちはお見通しだぞぉ?」
「知らねぇよ馬鹿!!こっちには変態しかいねえぞ!!」
それ僕の事ですか?
「あれ、計画狂ってる?あの変態いるとやばいぞ?」
明日葉さんが何か言ったっぽいけど聞こえない。
「ま、いいか……!行動開始!」
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