第14話 親友に形の見える思いやりを
「るんるんるるーーん!!」
野太い声で軽やかにステップを決める榊原。
床がまれにミシッといってるような気がするのでやめた方がいいと思うけど、今日はスルー。
「矢部さんどうしちゃったの……?その格好でいいの?どこかで着替えてくる?」
山条くんが僕に小声で心配そうに声をかけてくる。
でも、そもそも僕の服は明石さんが持ってるので着替えようがない。そして着替えを買ってしまうとどこにもいけなくなってしまうし最悪帰りが歩きになる。
「大丈夫」
「そっか……。できるだけフォローするから」
すごい助かる。
「ところで榊原は何買いに行くの?」
「え……。あ、ああ!ふふ!それはこれからのお楽しみってやつよ!」
なんだコイツ……。なんでちょっと変な顔したんだろ。
雑貨屋の方にスキップしていく榊原。
「へぇ〜ここが雑貨屋かー!テンション上がるなぁ〜」
全然上がってなさそうに見える。
雑貨屋。見たところぬいぐるみや動物をデフォルメした絵が書いてある雑貨をメインに取り扱ってる店らしい。
榊原にこんな趣味はなかったと思う。
最近そういうのに興味が出てきた話も聞いてないし、なんでこんな店に。
「山条ちゃん!これなんかどうよ!」
「あー!良さそうだね!確かにや……うん!喜ぶと思うよ!」
やってなんだ。
「だよな!これ買って行ったら多分矢部もげんきになると思うんだよ!」
僕のために選んでるのか……。
「このニシローランドゴリラのぬいぐるみいいよな!」
よくない。なんでニシローランドゴリラのぬいぐるみをベッドに飾らなきゃいけないんだ。見た感じそこそこデカいし寝にくくなるだろ。
「でもちょっと大きすぎる気もするね。こっちのくまのぬいぐるみとかは?」
そうそう。そういうのでいいんだよ。
「パンチが足りないな!」
求めてないパンチを入れてくるな。
「ティファニーちゃんならどれが欲しいとかあるか?」
「え……」
…………僕なら。僕なら?
普段なら無難なコップを選ぶ。なんか、少し木彫りでうっすらわかる程度の動物要素で我慢する。
……でも今の僕は女の子として来てるわけで、普段みたいなもの選んだら男だと疑われるかもしれない……。
じゃあ、正直に選んだら……。選んでもいいのかな。少なくとも僕っぽくは見えないはず。
「それ……」
「え……」
僕が指差したものを見て山条さんが変な顔をする。カピバラのマグカップ。特になんのデフォルメもないカピバラの正面顔がプリントされてるマグカップ。可愛いと思うんだけど。やっぱり女の子らしくなかったかもしれない。
「……なんか、趣味も矢部と似てるんだな」
どういう事だよ。普段僕こんな可愛いやつ選ばないだろ。
「普段アイツ無難な可愛い物買ってるけど俺の目を盗んで変なの買ってるんだよ。多分我慢してるつもりなんだ……可愛いな……」
…………見てたなら言え。そして可愛くはないだろ。
というか女の前でもそのテンションなのかお前……。ナンパしに来たんじゃないの……?
「はっ!そうだ今はティファールちゃんとデート中だった!」
「ティファニーだよ。誰がフライパンだ」
「え?」
つい普通につっこんでしまった。
「あ……いえ……。男の人と話すと二重人格になる病で……」
「なにそれ!?」
山条さんがつっこんできた。
「そういえばティファニーちゃん今は俺たちのこと見て大丈夫なのか!?男を見ると死ぬ病だったよな?」
「なにそれ!!??」
山条さんがかなり動揺してる。
「あ、さっき薬をキメたので大丈夫です」
てきとうにごまかす。
「飲んだんじゃなくてキメたのか!?」
なんか言い方間違えたな。
「大丈夫なんです!」
ゴリ押した。
「そ、そっか……。いやごめんな?」
謝らせてしまった。
「いえ……」
また変な空気にしてしまった……。
「そもそもナンパしたならせめてそれっぽいところ行ったほうがいいんじゃないかな」
山条さんからの正論。
「矢部へのプレゼントの方が大事だろ!」
じゃあナンパするなよ。
本人じゃなかったら普通帰るぞ、それ。
「いや、むしろティファニーちゃんは矢部と感性が近そうだから本当に喜ぶものを選んでくれそうな気がする!頼むティファニーちゃん!このあといいとこ連れてくから協力してくれ!!親友が落ち込んでるんだ!」
これはなんて返せば良いんだろう。
なんていうか、罪悪感がある。
「……分かりました」
自分のために自分の欲しいものを選ぶよく分からない感じ。
そもそもサプライズになってないのが致命的すぎる。あともらうような事もしてないと言うか。
そもそも榊原は僕が落ち込んでるだけでなんでここまでするんだろう。
こいつの考えてる事はよく分からない時がある。
ちらっと山条さんに目を向けて、それとなく助けてくれないかなーと期待してみる。
「?……!榊原くんは何にしたいとか決まってるの?ティファニーちゃんは矢部くんのこと知らないんだし、ある程度絞らないと分かんないんじゃないかな!」
確かに助けて欲しいと思ったけど、今の一瞬でそこまで読めるの超能力の域に達してると思うんだけど。
「それもそうだな……。雑貨がいいと思って入ったんだが、カピマグで即決するのはもったいないしな……」
カピバラのマグカップを変な略し方するな。
「次は本屋にでも行ってみるか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます