第15話 認めてくれて、ありがとう……
本屋で目ぼしいものは見つからなかった。というより、どこにも目ぼしいものはなかった。
そろそろ夕方に差し掛かるあたりで、窓からは緋色の光が差し込んでいる。
「うーん……どうしたもんか……」
あれじゃないこれじゃないと探してるうちに、雑貨屋にも戻ったけど、煮詰まりに煮詰まった雰囲気では良かったと言ったものもなんか違う気がしてきてる。
疲労感と虚無感だけが蓄積された気がする。
「ごめんなーティファニーちゃん!こんなに付き合ってくれたのに何の成果も得られなくてよぉ〜!」
「いえ……」
色んな意味で気まずい。
これがいい!って言うのは僕の機嫌が原因なのにねだってるみたいで嫌だし、かと言って選ばないとこんな感じでみんなが疲れる。
僕のわがままばかりのせいで……。
「しょうがねぇ!!先にいいとこに行くか!約束したもんな!」
「どこ行くの?」
いいからいいからと僕達は榊原に連れられてエレベーターに乗った。
「ここだ」
……屋上?
エレベーターを降りて屋上に出る。
いくつか色あせたベンチとテーブル寂しく並んでいるだけで、これと言ったものはないように見える。
「……ここから見た景色、綺麗だと思わないか?」
「……うん」
……まぁ綺麗ではあるけども。
「……すまんめちゃくちゃ嘘ついた
。ここにケバブ屋があってうまいから連れてきたかったんだが、それがなくて動揺してる」
…………。なんたそれ……。
「すまねぇティファニーちゃん、俺はダメダメだな……。ナンパしたのに他のやつ気にして楽しませられなくて、そして最後のケバブ屋にも裏切られて、……俺は無力だ」
悲嘆に暮れる榊原。
まぁ最初から最後まで僕のためだったし、何か返したいとは思う。
結局何も手に入れてないし何も上手くいってないけど。
「榊原、ちょっとしゃがんで」
言われた通りに僕の前でしゃがみ込む榊原。
流石にキスとかは男同士だし意味わかんないけど。
「まぁ、がんばってるのは分かったから。……うん」
まぁハグくらいなら……男同士でもまだありな方だと思うから。
「よくがんばりました榊原」
ついでにちょうどいい位置にあった頭をなでてやる。
「おぉ……。おぉぉぉぉぉお!」
やめろ人の胸の中で絶叫するな。服で声を抑えるな。声の振動が伝わる。
とりあえず満足するまで抱いといたけど山条さんの生易しい視線が痛い。
「うぅ……ままぁ……!」
誰がママだ。幼児退行するな。
「それにしても榊原くんはなんでそんなに矢部くんの事気にするの?」
榊原が落ち着いてから3人でベンチに座った。
さっきまでの絶叫が嘘のように清々しい顔をしてる榊原に山条さんが問いかける。
「矢部には恩があるんだ。高校に入った頃からの仲なんだが、その頃の矢部はそれはもう小さくてな。もはや幼女でな」
話を進めろよ。
「逆に俺はデカいくらいしか取り柄がなかったんだが、事あるごとに矢部が「お前は大きくていいな。人生得してるよ」っていつも言ってくれたんだ」
……。
「デカい事も嫌になりそうだったんだけどよ。それだけで救われたんだよ。だから矢部にも外見で嫌な気持ちになって欲しくねぇ。傷つけたなら、悪いなって。そう思うんだ」
「そっか……。そうだね」
僕は立ち上がる。
「きっと伝わってます。大丈夫」
「だよな!きっと伝わるよな!ありがとなティファニーちゃん!また、会えるかな?」
「……はい」
僕はエレベーターが閉じるのを待ってため息をついた。
……僕はそんなに榊原が言うほど優しい存在じゃない。
実際、お前は大きくていいな?って言ってたのは毎回僕があいつにぶつかられて邪魔だったからだし。
ついでにまた会うって言っちゃったし……。
でもなんか、悪い気はしないな。不思議と
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