第9話 男っぽい服装を選んでたはずなのに可愛い服装になってるのがポイント

というわけで。

「これとかどうよ?」

「こっちと合わせてもいいと思うのであります」

「あの服は破れているのですか?」

わいわいと服屋で話している女子3人組。一人だけなんか違うとこ見てるけど。ちなみに破れてない。たぶんヴィンテージとかいうやつ。

それにしても暇だな。とても暇。寝たい。せっかくの休みにお出かけを要求される父親とかこんな気持ちなのかな。

でも、彼女らに混ざれない。混ざったとしても何もわからないのだ。多分。遠巻きに聞いててもわからないのだから仕方ない。

「ティファニーちゃんもこっちおいでー!そんなとこ立ってたらさらわれちゃうよー」

なんでだよ。

というかよく考えたらこれから僕、女物の服を着せられるんだろうか。

嫌なんだけど。

そもそも先輩はなんで僕を可愛くしようとしてるんだろう。可愛くなりたいなんて一言も言ってないんだけど。

「よし捕獲したぞー!」

はっ?なんか背中からいつの間にか抱え上げられてる。というか力強いな明日葉さん。

そのまま更衣室に連行。

ごく自然に一緒に更衣室に入ってしまった……。

「んじゃあ、まずはこれ着てみようか」

それはもうひらっひらのスカートだった。

「嫌です……」

「まじか。んじゃこっちは?」

こっちはひらっひらのなに。シャツ?シャツっぽい何か。

「嫌です……」

「えー。これもダメなわけ?あ、ひらひらが嫌いなの?んじゃこっちは?」

ひらひらはしてない。してないけど桜色くらいの薄みがかったピンク色の薄手の服。

「いや……あの……」

この拷問はなんなんだろうか。

そもそもなんで僕が妹なんて嘘をつかなきゃいけないんだろう。

「えー。これもダメ?はー。結構こだわってんねぇ。ボーイッシュなのが好きなんだ?」

どっちかといえばで頷く。

ボーイッシュというか男だから。

「まぁお姉さんに任せとけって。可愛くなれるからさ。読モ舐めんなー?」

読モってなに。

「読モ知らないって顔してるね。読者モデルの事だから。雑誌に載ってるんだよ。今度持ってきてあげるから読んでみて。それ読んでオシャレに興味持とうぜ」

「はぁ……」

「興味なさそうだねぇ。まぁ、仕方ないか。ちょっとごめんね」

そう言って明日葉さんは更衣室のカーテンを少し開けた。

「ごめんね明石ちゃん別の持ってきて」

「はい!」

「たぶんねー。ガーリーすぎるのが苦手っぽいから……」

よく分からない説明をし続けてる。何語なんだろう。

しばらくして。

「お待たせしました!」

「サンキュー」

そしてまた逐一これは?と聞かれながら服を選ぶ。なんというか、まぁ、男物にありそうなものを選んだ。

が、最後の最後。

「これだけは頑張ってみよ?」

「嫌です。絶対嫌です!」

「そんなこと言わないでさー!頼むよー!」

そう。最後の最後、明日葉さんが出してきたのはよりによってスカートだった。

「いっぺんだけ履いてみよ?いっぺんだけでいいからさ。じゃないと普通に男の子みたいな格好になっちゃうし、可愛くなってみたいっしょ?ね?何事もチャレンジチャレンジ」

いや可愛くなりたくないんだよ。

「んーーーくそぅだめかー。仕方ないなー。泉もこのために呼んだんだろうし明石ちゃんと交代するか!」そういうと、するって明日葉さんは出ていった。

代わりに入ってきたのは明石さん。

「話は聞きましたであります!やはり頑固者ですね。ティファニーさんは」

がんこっていうか男としてのプライドがかかってるので……。

「とりあえず座ってください。足伸ばしてくださいね」

さっきの快活な表情とは違って真剣そのもの。

言われた通りに座ると明石さんは僕の腰に手を回してきた。

というか女の子の顔が真横にある……。

これはちょっと恥ずかしいな……。

「失礼しますね!!そいやっ!!」

「はっ???」

そいやっじゃないんだよ。ズボンがとられた!!

「返してください!!」

「ごめんなさい。私が呼ばれたという事は強行突破って事なので!!すぐ終わります!!」

すぐ終わっ……!あ……というかもうパンツ見えてる時点でバレてるじゃんバカか!

「ちょっ……!」

その後抵抗したのに全ていなされ、全部脱がされ全部着せられた。

パンツは流石に触られなかった。

「ふぅ……完成です……」

お互い息を切らせてるのになんか明石さんの方がだいぶ余裕ある……。

もう全部見られたし男だってバレた……。

「可愛いでありますよティファニーさん!大丈夫でありますよ。似合ってますから!似合わないかもと思って不安だったんですよね?」

撫でるな撫でるな。

というかこの様子だとバレてない?

……なんで?

何か男としてのプライドが傷ついた気がする。

「ふむ……マントですか」

更衣室から出たら明日葉さんと先輩が待っていた。

先輩は本当にファッションに疎いらしい。僕も似たようなもんだけど。

「パーカーだよ。ポンチョっぽくて可愛いっしょ。んで、これで体の線は出にくいし、ちょっと裾も長いからスカートも目立ちづらいってわけよ。スカートも膝丈だし、タイツで露出はカバーしてるし、そんな恥ずかしいカッコじゃないと思うんだけどなー」

露出を減らしたしかわからない。

確かに露出は少ない。なんか、ゲームとかの女の子は露出が多いし、学校では制服だし、こう言う見た目で可愛いのはちょっと驚きがある。

僕が着てなければって前提で。

「なるほど……。制服でも良さそうですね」

「良くねー。いいんじゃない?が口癖の男かよ。なんでこの格好で制服が勝つんだよありえないでしょ」

明日葉さんが先輩に呆れてる。

まぁ制服よりもこだわってるし、これを自分で選ぶならそうなのかもしれない。

「お似合いですよ」

そんなわけあるか。

「ティファニーちゃんも無理言っちゃってごめんね?でもこれで歩いてみたらきっとテンション上がるって。あとでご褒美に姉さんがなんでも奢ってあげるから、ね?」

なでるな……。まぁ、着てみればスカートもすーすーしないし、明石さんとの格闘で疲れてきたし、どうでもいい気がしてきた。

「そういや会計は誰持ち?総長?」

「いえ、総長代理からです」

さっきから総長とか総長代理とかなんなんだろう。

先輩も隊長とか呼ばれてたし。

「あの……さっきから言ってる総長代理とかって誰なんですか?」

先輩の眉がわずかに動いた。

「その話はのちほど」

そんな大事な話なのかな。

「よーしどうする?こんなオシャレしてるわけだし街にでも繰り出してみる?」

「化粧はしないのですか?」

先輩が余計なこと言ってくる。

「んー。まぁいいんじゃない?元から可愛いんだし、今日はティファニーちゃんもがんばったし、これ以上やったら疲れるって。興味が出たらやろうぜ」

明日葉さん優しいな。おしゃれが好きなんだって伝わってくる。男だってバレたらどうしよう。

「なるほど。では明日葉の言う通り街に繰り出します。ティファニーさんに男の手が触れることのないように十分警戒していきましょう。出発!」

ついに先輩まで僕の事をティファニーって呼び出した。今まで矢部様とか呼んでたのに。気に入ってるの?

「イエスマム!」

「硬いよ泉も明石ちゃんも。ま、ティファニーちゃんも楽しもうね!」

まぁどうせ街中でクラスメイトに会うなんてそうそうないだろうし、居たら俯いてればなんとかなる。

うん。そう信じよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る