間話 感謝は忘れちゃいけない───プロとして──
「なぁ、山条ちゃん……」
「どしたの榊原くんそんなとこでぼーっとして」
「オレ……矢部に嫌われちゃった……」
榊原くんが校内で灰になるくらいの勢いで全意識を失ってたので声をかけてみた。
「そうなんだ……。どうして?」
そもそも矢部さんはどうして榊原くんと仲がいいのか分からないんだよね実は。
常に榊原くんが矢部さんをイジってるけど毎回嫌がってるように見えるし。
「心当たりがありすぎて……」
まぁ、そうだよね。
「オレ今日、朝の歯磨き忘れてきたから口臭かったのかなぁ」
絶対違うと思う。
「普段の言動とかじゃなくて?」
ついツッコんでしまった。
まぁ、ボクも言ったけど、かわいいっていじり倒してたし、ドン引きするくらい下心丸見えだったし。
その辺じゃないのかな。
「そうかなぁ……そうなのかなぁ……。矢部は可愛いと思うんだぁ……」
「それはそうだけど、でも、本人は……」
「めちゃくちゃ気にしてたな。大倉がなんか言ったんかなぁ」
職員室に行くまではいつも通りの矢部くんで、二人はイチャイチャラブラブのカップルのような関係で職員室まで行ったらしい(いつも通りの矢部くんが職員室行った以外は脚色だと思う)
ずっと待ってたら、出てきたのは暗い顔をした矢部くんだったんだそう。
「さっきよぉ〜、こっそり追いかけようとしたんだぁ……。でもさぁ校門の辺りで確か三年生の
思ったより深刻にダメージ受けてるなぁ……。それで靴箱から校門を見られる位置で石像みたいになってたんだ。
「とりあえず帰ろ?風邪引いちゃうよ」
「俺の事は気にしないでいいんだぁ。ありがとなぁ。俺はもう少し黄昏てからいく───プロとして───」
なんのプロなんだろう。というか流石に気になる……。
「よーさかきー!矢部ちゃんいないじゃんどうした?」
「なんでもねぇー!気にしないでくれー!ありがとなぁー」
「そうか。じゃな!」
他クラスの男子生徒かな?が、来て颯爽と帰っていった……。薄情だなぁ。
「榊原くん?どうしたの?矢部くんは?」
今度は女子生徒。
「おー。気にしないでくれー。ありがとなぁー」
「なぁにそれ、今度は誰のネタ?そんな顔してたら矢部くん逃げちゃうよー。またねー」
これまた颯爽と行ってしまった。
しばらく見てたけど榊原くんに声をかける人は結構多い。
先生も、生徒も関係なく。みんな榊原くんを見て声だけかけて帰っていく。
「おや、これはこれは榊原くん。どうしたのですか?矢部くんが居ませんね。ついに嫌われましたか」
その声で今まで「気にしないでくれーありがとなぁ」botになっていた榊原くんが反応した。
「おーーん誰かと思えば生徒会副会長様じゃないっすかー!ちーっす!」
急に態度悪い。
「君は?」
「この前転校してきた
「ああ君が噂に聞く。何かあったらなんでも言ってくださいね。生徒会は生徒の味方ですから」
いい人だな。でもこういう人って結構クセが強いんだよね。偏見だけど。
「なぁ、副会長。アンタ矢部のことでなんか大倉に言ったりしてないか?」
「さて。彼に対しての陳情が多かったのでそれについてはお伝えしたと思いますが」
「どういう内容なんだ?」
副会長は少し考え込むような顔をした。
「ふむ。そうですね。男子生徒の服を着た女が歩いているのを見た、だとか、男子生徒とは思えないので、一緒の場所で着替えるのは気が引ける、場所を変えて欲しいとか。そんな意見がちらほらとありましたか。矢部くんには困ったものですね。男子生徒ならそれらしい態度をとって欲しいものです」
「矢部がどんなでもいいだろうが。矢部がかわいいとなんか悪いのか?」
榊原くんが怒ってる。
「君がそう言うと、矢部くんは困るのではないですか?確か彼は自分は可愛くないと、そう言っていたと思いますが」
「なら、今のままの矢部でもいいだろ!他の奴らに何言われたって男子生徒の中で着替えても!廊下歩いてても文句言われる事はねえはずだろ」
ああ。
「それは私に言われても困りますね……。実際そう言う生徒がいると知った以上、我々は多くの生徒たちのために働く義務があります。義務に則ったまでの事です」
「矢部がそれで傷ついてもか」
その言葉に副会長は頷いた。
「傷つくか傷付かないかで校内の秩序は維持出来ません。一つのイレギュラーは秩序の乱れを生みます。矢部くんのように外見と中身がちぐはぐにみえる。そんなイレギュラーは正したほうがいい。そう思いませんか?」
「矢部の外見が可愛いのはアイツが決めた事じゃねえ。それをイレギュラーって言うのか」
「努力はいくらでも出来ると思いますよ。丸刈りにしてしまえば誰も女だと言ったりはしないでしょう」
「お前……!!」
「榊原くん!!」
危ない……。榊原くんボクが声かけなかったら多分副会長の事殴ってた。
「帰ろう榊原くん。雨も上がったし、ね?」
「君の友達は可愛らしい人が多いですね。山条さんもそのうち陳情を書かれないように努力してくださいね」
一言多いんだなぁこの人。
「大丈夫です。陳情されないようにしますから」
あんまこの人と関わりたくないなぁ。
「それはオレのことを言ってるのか!」
あれ、さっきの男子生徒。
「榊原くん!傘持ってきてあげたよー!」
女子生徒も来た。
「おう……」
榊原くんは怒気を治めたっぽい。
「んもぅ!!なぁに副会長!アタシが可愛いって言うなら付き合ってあげてもいいわよ!!んちゅ!!!」
男子生徒が榊原くんの真似してる……。
「いえ、私にはそう言った趣向はないので……。下校時間は過ぎてますよ。気をつけて帰ってくださいね」
逃げるように奥の階段を登っていく副会長。
「榊原くんまた副会長とケンカしたの?矢部くんが今のままでも良いってみんな思ってるからさ。大丈夫大丈夫」
「おう……ありがとな……」
「そんなことより肉まん食おうぜ!!副会長にバレるかと思って焦ったわマジで!」
「それ私の分もあるんだよね?」
「おおおん?知らん知らん!!三つしか……三つ……。ここには四人……!!ザワ……ザワ……!ジャンケンじゃオラァァ!!」
榊原くんは人望あるんだなぁ。
「ほら、山条くんだっけ。じゃんけんだじゃんけん」
「うん!」
多分、榊原くんは普段ふざけてるけどずっとああやって矢部くんを庇ってたんだろうな。可愛いから、なのかもしれないけど、無理に男らしくなんてならなくても良い。
他の人に言われたからって自分を変えなくて良いって。
「俺、じゃんけんに負けた事ないんだ……」
榊原くんは調子を少し取り戻したっぽい。
「じゃんけんぽーーい!」
ちなみに榊原くんが負けたのでみんなでちょっとずつ分けて食べた。
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