Dream:12 カナタvsガラルド
―――一人でいる事に苦は無い。
ただ、それと同時に生きる意味も見出す事が出来なかった。
ねっとりと纏わり付くような空虚と経過する時間だけが心を蝕んでいった。
ゆっくり、ゆっくり私の心は死んでいく。
・・・けれど母の後を追う事は出来なかった。
自殺なんて私を置いていった母と同じになってしまうと思ったから・・・。
〜♢〜
「さあ、遠慮しなくていい! カナタくん、キミの全力をぶつけてこい!」
両手に握った赤い柄と青白いガラスの様なもので形成された剣と盾を構える。僕は今、
(なんていうか・・・、隙がない! どこから打っても弾かれそうな気がする・・・!!)
剥き出しの本能と殺意のまま、行動するモンスターとは全く違う、理性を持った人間との対峙に僕は困惑していた。
ただ、だらりと
(―――でもボクだってエンドールを倒したんだ・・・! ボクの力を見せてやるっ!!)
「いくぞーっ! はああぁぁっ!!」
「ふふ、こいっ!!」
気合いと共に一気に駆ける。そして右手の剣を振り上げながら僕はガラルドに肉迫した。
(まともなやり方じゃ無理に決まってる・・・、ならっ!!)
僕は振り上げる手を下ろさず、そのまま横に身体を捻りながら左手、つまり盾を前へと勢いよく突き出した。剣はフェイント。本命は顎を狙う一撃。これなら視界を塞ぎ、盾をガードする為に剣を使うはず・・・
「ちゃんと考えてるな・・・、だがっ!」
「うあっ!?」
と、思っていたら急に身体がバランスを崩していた。僕は受け身も取れずに地面へと叩き付けられてしまう。そこへヒュインッ、と風を切る音がして僕の喉元に剣が突き付けられていた。
「うっ・・・・・・あ・・・!?」
「カナタァっ!?」
「カナタ兄ちゃん!?」
そんな僕を案じて身を乗り出そうとする双子が町長に止められる。当の僕はガラルドに剣を突き付けられ、それどころではなかった。
「カナタくん、直線的ではないのはいいが盾での攻撃は自身の視界も塞ぐから気を付けた方がいい。そして・・・」
足払いをする仕草を見せた後、ガラルドは僕の二の腕を引っ張って立たせた。そして再び剣を向けて言う。
「必死さが足りない。そんな腰の引けた剣でエンドールを一人で倒したと? 違うだろう?」
「うっ・・・」
(・・・そうだ、ボクは完全に気後れしてビビってた・・・。エンドールと戦った時はもっと倒す事に夢中だったのに・・・)
「来ないなら私からいくぞっ!!」
「え? うあっ!?」
ガアンッ!!
重く鋭い音と共に反射的に前に出していた剣が跳ね上げられる。ビリビリと凄まじい衝撃を右腕に感じた時には剣を構えたガラルドが目の前にいた。
「まだまだだぞっ!!」
ガギャギャギャッッ!!!
そこからは命懸けだった。まるで鬼か何かと対峙しているのかと思うほどの重みと速度を持った斬撃が次々、降ってくる。
「ぐっ!? うぁっ! くっ・・・、うぅっ!?」
こちらは剣と盾、両手で対応出来るはずなのに剣一本のガラルドに一方的に打ちのめされる。少しでも手を緩めれば金属の刃が僕の身体に突き刺さるという状況に脳が警告を放ちまくっていた。
(まずい・・・、マズイマズイ! 押し返さなきゃ・・・やられるっ!!)
「う・・・、うあああああァァァァッッ!!!!」
「ほう・・・、押し返してくるかっ!まだだカナタくん、
(―――ボクの想い・・・!! そうだ僕があの二人を助けるって誓ったじゃないか・・・、負けてられるかっ!!)
既に両手が重い。息も切れて武器を振るうのがやっとのはずだった。だが、心に再び想いの火が灯った途端、限界だと思っていた身体に変化が起きる。
(身体が軽く・・・、まだ動けるっ!もっと早く・・・もっと強く!!)
マラソン選手が疲労のピークを超え、更に加速するように僕は徐々にガラルドを押し返しはじめた。一振り毎により鋭く早く、踏み込む足も大地をしっかりと捉えて離さない。
「う・・・おおおおォォォッッッ!!!!」
(いける!今なら何とか打ち合えるっ!!)
「おお・・・!我が町一番の戦士であるガラルドとここまで打ち合えるとは・・・!!」
「頑張れカナタ兄ちゃんっ!!」
「カナター! 負けるなーっ!!」
双子の声援を受け、僕は更に力を込めた。剣を振るう、振るう、振るう。元より身長差と力の差があるガラルドの剣を力と速さが乗り切らないよう、どんどん前に出て迎撃していく。
「素人なのに理にかなった事をする・・・、やるなっ!! だが・・・!」
更にガラルドの剣撃が加速する。だが怯んだら力負けし、剣を弾き飛ばされる事は目に見えている。間に盾の防御も挟み、ガラルドの剣を何とか捌いていく。瞬きする暇すらなく、ガラルドの太刀筋を見る目はあまりに激しくてチカチカと明滅するくらいだ。
(ここで引いたら僕の負けだ・・・!!それなら一か八かっ!!)
ガラルドの剣の軌道に目を向け、僕は意識を集中した。切り下ろし、横薙ぎ、切り上げ、再び横薙ぎ、そして・・・。
「ここだあっ!! せやああああァァァッッ!!!」
ガラルドが鋭い突きを繰り出した瞬間、僕は一歩前へと踏み込み、眼前まで突き出された
「なにっ!?」
はじめてガラルドの冷静な表情に驚きの色が浮かび、伸び切った腕につられて身体が横に反れる。
「今だっ!!!」
僕の右側へとよろけるように体制を崩したガラルドの顔面へ僕は左腕で殴りかかった。確かゲームとかだとこう言うのだっただろうか。
―――シールドバッシュ。
相手の武器を弾いたり、気絶させたりする盾の技。それを僕はガラ空きになったガラルドの頬へ叩き込む!
「ぐぅっ!?」
次の瞬間、ガラルドは顔面を打ち抜かれて地面に・・・、いや、なぜか地面に倒され、呻き声を上げたのは僕の方だった。
「あ、あれ・・・?」
「そこまでっ! 勝者ガラルドっ!!」
そして状況を理解する間もなく、町長の勝敗宣言の声が響く。仰向けに振り返ってみれば僕に剣を突き付けたガラルドの姿があった。
「なんで、ですか?勝ったと思ったのに・・・」
「いや、実際力が拮抗した相手ならあれで終わりだった。偶然、私は無手の技にも多少の覚えがあっただけさ」
そう言ってガラルドは僕に簡単に説明してくれた。剣を弾かれたガラルドはすぐに剣を離して両手で僕の盾をキャッチ。そのまま、僕の勢いを利用して後方に投げ飛ばしたというのだ。
(急にふわっとなったのはそういう事だったんだ・・・、ははっ・・・それは適わないや・・・)
「カナターーーっっ!!」
「うわぁっ!? イル!?」
と、そこへイルが髪を振り乱して僕の胸に飛び込んできた。うるうると潤んだ目が僕を捉える。
「カナタ、だいじょーぶ!? どこもいたくない!?」
「あ、うん・・・、ちょっとぶつけたけどだい―――」
「よかったぁ!・・・でもカナタ、すごかったよぉっ!!」
「えぇ!? イル・・・!?でも、結局負けちゃったし・・・」
僕の言葉も遮る勢いでそうまくし立てるイルに僕はそう反論する。頑張ったつもりだったが結局の所、一撃も有効打は入れる事が出来なかったのだから当然だ。
「そんなことないっ! カナタすごかった!! ガラルドさんとはじめてであんなに戦えるひとなんか見たことないもんっ!!」
「そ、そうなのかな・・・?」
「そうだぜカナタ兄ちゃんっ!!」
「ふぐっ!? ・・・アノン?」
背中をバシンッ、と叩かれ呼吸困難気味の僕に双子の兄が悪戯っぽく笑いかけてくる。
「マジですげぇや! 普段は弱っちそうなのにさ!」
「それは余計だよっ!」
そんなやり取りをしていると逞しい手が差し伸べられた。それを僕が掴むと身体がぐいっと引き上げられる。他でもない、ガラルドだ。
「カナタくん、私に無手の技まで使わせるとは本当に驚きだ。でなきゃ完全に斬られていたからな。はっきり言って予想以上だった。改めて私からも頼む。力を貸してくれるかい?」
(―――なんか、なんかヤバい・・・!)
強くてかっこいい人に認められるというのはこんなにも嬉しい事なのだろうか。緩みそうになる口元が抑えきれないくらいに僕の胸は高鳴っていた。我ながらちょろいとは思うのだが。
「はい、もちろんです!」
「そうか、一緒に強くなろう!」
「はいっ!」
返事を返した途端、ワッ、と歓声が上がり、僕は思わず飛び上がってしまった。見ればいつの間にか周りにけっこうな人数の人がいて拍手や賛美を送っている。
「え・・・、いつの間にこんなに?」
「アッハッハッハッハッ! 訓練所の皆さんですよ!皆、アナタとガラルドのファンタスティックで熱々なバトルに胸を撃たれたんです。もちろんこの私もねっ!!」
「近い、近いです町長さんっ!?」
「わー、イルもーっ!!」
「じゃあオレもー♪」
そして三人に抱き着かれ、羽交い締めにされながらも僕は何とか皆に認めてもらえたのだった。この町の一員になったような気分だった。
(まだエリオドールさんの事や、結晶の事とか自分の事・・・。分からない事だらけだけどとりあえずやっていけそうかな・・・?)
考える事、やる事は色々あるのかもしれないが今は皆と一緒にいられるこの時間を大事にしたい、僕はそんな事を思うのだった。
「―――アナタは私とは違う、のね・・・。私は十年かけてもそこに立つことが出来なかったのに・・・」
そんな僕を青く光る塔の上から見つめる少女の呟きに気付くこともなく・・・。
〜♢〜
はい、12話です!
ようやく登場人物と舞台が揃いつつある、といった感じですね。
町に溶け込みつつあるカナタとそれを塔の上から見つめるエリオドール、二人がこれからどんな風に交差して物語が動くのかどうぞお楽しみに、なんちゃって(笑)
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