Dream:8 青い煌めきの奥に潜む物
――――ターコイズブルーの瞳と光を受けて輝く金髪。
それが私の母からの贈り物だった。
でも人は人と違うこと、逸脱することを良しとしない。
だから私のこの眼と髪も、周囲の人間にとっては忌むべき物で私が私らしくいる事を許してはくれなかった・・・。
〜♢〜
(―――あれ、ボクは・・・・・・?)
深く海の底に沈み込んでいるような感覚。心地良い安寧が身体を包み、いつまでもそのままでいたいという気持ちになる。だが、そんな感覚を幾度も味わってきた僕はすぐにそれが何だかを理解した。
(・・・眠って・・・、いや気を失ってたのかな・・・??)
徐々に思考が現実へと戻っていくにつれ、身体の隅々まで感覚が行き渡っていくのが分かる。僕は少し肌寒い風が通り抜けていくのを感じて目を開けた。
「真っ青・・・、なんだこれ・・・?」
まず目に入ったのは空の色を湛えたような青い輝きを放つ天井だった。視界いっぱいの青がとても美しいが見知らぬ景色に戸惑う僕はそれどころではなかった。
(青・・・結晶?? こんなにいっぱい・・・)
「目・・・、覚めたの?」
と、驚いていた僕は聞き覚えのある柔らかい低音の声を聞いて顔を上げる。
「結晶の魔女・・・、エリオドール・・・さん?」
「ええ、そう」
そこにいたのは変わらず美しい人形のような造りの顔立ちと水色のワンピースドレスに白のマントを羽織った彼女だった。
「・・・もう、痛いところはない?」
人形などと思ってしまうのは表情の変化が乏しいためだろう。ただでさえ西洋風の整った顔立ちに青い瞳と水色がかった銀髪という容姿なので見慣れない僕は余計に作り物じみた印象を受けてしまう。
(―――本当にキレイな人だなあ・・・)
「・・・・・・・・・ねえ?大丈夫なの・・・?」
「えっ!? あ、ああ! だ、大丈夫です痛いとこなんて・・・あれ・・・?」
彼女に見惚れて返事するのを忘れていた僕は慌てて自分が元気だという事をアピールしようとした。だが、そこで気付く。
「動いても痛くない!? ・・・あれ?確かにボクはケガをしてたはず・・・、あれは夢!? でも今ここにいるしあれ、あれれぇ!?」
そう、身体に痛みが無いのだ。少なくとも肩を切られたり、背中を打ち付けたりと決して無視出来ないケガをしたはずだった。
「・・・うるさい」
「あ・・・、す、すいません・・・!」
わたわたする僕を一刀両断するように一段と低くなった彼女のアルトボイスが、桜色の唇から放たれる。コミュ障な僕がそれに反抗出来るはずもなくその場で僕は綺麗に正座した。
「・・・身体の傷でしょ? 服と一緒にワタシが治したわ」
「は・・・? 治した・・・?」
そう言いながら彼女は自然な足取りで僕のすぐ前に立った。彼女の着ているワンピースドレスの裾が翻り、眼前にスラリとした真っ白な太ももが映り込む。170cmの僕より僅かに身長が高いかという彼女が前に立つものだから色々と危うい。僕は堪らず全力でそこから目を逸らした。
「私の夢道は”結晶”。結晶を作り出して攻撃したり、動きを止めたり・・・、そんな風に人や物を治すことも出来るわ」
そんな事を言いながら僕の上着の襟にエリオドールは手を掛けた。
「あの・・・! エリオドールさん・・・!?」
「なに・・・?」
彼女のほっそりした両手が首筋に触れる。体温やら柔らかい感触が直に伝わり、僕は気が気じゃなかった。
「いったいなにを・・・うひゃあっ!?」
次の瞬間、エリオドールの手が僕の服の中、肩の辺りにするりと入り込み、僕は悲鳴を挙げてしまった。
「うるさい・・・。キズがちゃんと塞がってなかったら大変、じっとしてて」
「は、はいぃ・・・!!」
彼女の柔らかい手が僕の左肩の辺りを弄る。しかもエリオドールは正座した僕の正面に立ち、屈んで僕の服に手を突っ込んでいる状態だ。「んっ・・・、このへん・・・?」などと頭上で声を漏らしている。
(うあぁ・・・!? 柔らかいしくすぐったいしそれに何だかいい匂いするしどうしたらいいのぉぉっ・・・!?)
羞恥と興奮で顔が真っ赤になり、頭がどうにかなりそうだった。柔らかい感触と甘い果物のような香りが僕を包み、いよいよ手足まで震えて来た所で彼女の手が引き抜かれる。
「うん、大丈夫そう。久しぶりだけどちゃんと治療出来てる」
正直、理解が追い付かない。それが素直な答えだった。とりあえずケガや着ていた服もキレイさっぱりなのは彼女のおかげらしい。 バクバクと跳ねる心臓を抑えながら僕はどうにか口を開いた。
「あ・・・、えっと・・・ありがとう?」
しかし、よく分かっていない僕がそう返すと彼女はこちらを睨み、唇を噛んで苦しそうな表情をした。一体、何が彼女の気に障ったのだろうか。
「―――礼なんか言わないで・・・!」
「あ・・・でも治してもらったから・・・、その・・・ごめん」
僕が思わず謝ると彼女、エリオドールは向きを変え、遠くへと視線を向けた。足元から天井まで青結晶で包まれた空間、エリオドールが見ているのは大きく空いた横穴から見える眼下の町の景色だ。
(ここはエノールさんが言ってた青結晶の塔の上・・・。それでこの部屋はエリオドールさんの生活してる所なのかな?)
僕は辺りを見回した。彼女が立っている場所が大きな窓。そしてその後ろにはベッドやクローゼット、本棚に机、タンスと最低限の家具が広い部屋の端にぽつぽつと置かれていた。花瓶と写真立て以外には飾り気の無い寂しい部屋だ。
(今みたいにこの人はあそこで町を眺めて一人でいたのかな・・・。それってまるで・・・)
自分みたいだ。そんな事を彼女の物憂げで可憐な横顔に僕は感じていた。まるで病院の窓から通学する学生達を見ていた自分のようだと。エリオドールはどんな気持ちで町の様子を今までずっと見てきたのだろうか。
そんな事を考えているとエリオドールははぁ、と小さくため息をつくと僕の方に再び向き直った。
「・・・ごめんなさい。気にしないで?感謝してるの。私の代わりに町の人達を守ってくれて」
「あ、いや結局一匹しか倒せなかったし!あとはえっと、エリオドールさんが倒してくれたんでしょ?あ・・・、イルは大丈夫だったのかな・・・?」
自分と同じか年上くらいの美人にお礼を言われる経験の無い僕は慌てて返事を返す。しかし、そこで僕は助けるはずだった双子の事を思い出した。結晶に蝕まれかけていたイルは無事だったのだろうか。
「・・・覚えてないの?あの双子の無事を確かめてから気を失ったはずだけど?」
「え・・・!? ボク忘れて・・・、あー、思い出してきた、かな?確かいきなり現れたエリオドールさんが地面から青い結晶をバーン、と出して・・・」
エリオドールの言葉に僕はぼんやりしていた頭の中に少しずつ気を失う前の出来事が浮かんでくるのを感じた。
そうだ。あの場に現れたエリオドールは彼女がさっき夢道、とか言っていたように青結晶を魔法のように地面から生やしてエンドールを串刺しにしたのだ。そして恐怖の対象が居なくなった事でイルを蝕んでいた結晶もボロボロと剥がれ落ちた。僕が気を失ったのはその後だった。
「思い出した?二人は無事よ」
「あ、はい。そうでした・・・、忘れちゃってたみたいで・・・」
『―――母さんはお前のせいで・・・、なんで、なんでだよ・・・!!』
その時、ふと脳裏に浮かんだ声に僕は身動きを止めた。
「・・・・・・? それで質問しても・・・、いい?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
一瞬、脳裏に浮かんだのはアノンの声だろうか。意識を失う前、聞いていたのかもしれない。母の命を奪ったという
「その・・・、ここには死んでしまい、迷い込んだ。そういう認識でいいの?」
「あ、はい。そうだと思います・・・。なんだか自分でも良く分かってないですけど・・・」
彼女の質問は当たっていると見ていいだろう。そして逆に彼女がそれを言い当てられると言うことは・・・。
「やっぱりそうなのね。
「ま・・・、まぎあ?」
「何度か話しかけられたでしょう?ムーニャ様に聞かなかった?この世界では願い
「ええと・・・あれ、ムーニャ・・・?それって頭の中に響いてくるあの声の事ですか??あれ、エノールさんが神様って・・・、もしかしてボク、神様と話してたの!?ええっ!?」
夢神ムーニャ。エノールが話していたこの世界を作った神だ。色々、分からない単語が飛び交うがひとまず彼女の憶測が本当なら僕が話していたのは神だと言う事になる。
「・・・うるさい・・・!」
「あ・・・、すいません・・・!」
またしても叱責を受ける僕。どうやら彼女は大声が苦手らしいのだが、今はそんな事を気にかける余裕がない僕の心情も少し汲み取って欲しかった。
「・・・でも、なんでエリオドールさんはそんなに詳しいんですか?」
それは素朴な疑問。だが、返ってきた答えは僕の予想を覆す物だった。
「――――それはワタシも同じ、地球で命を落としてこの
「え・・・・・・」
長い間、町を見守っていた結晶の魔女。彼女の正体は僕と同じくこの世界に迷い込んだ人間だったのだ――――。
♢
はい、大変遅くなりました!
今回は深夜投稿、八話目です・・・。
会話の部分は長くなりがちですね(笑)
今回も2話くらいになる予定です!
忙しかったり、納得行かなかったり(言い訳ですすいません!)して遅くなりますが着実に更新して行きますのでよろしくです!
・・・やっと出ましたヒロイン!長かったあ・・・(´;ω;`)
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