Dream:6 夢喰らい〜ドリーム・イーター〜
――――いつも物語の主人公に憧れていた。
彼等は自分で物事を決め、行動して人を救ったり世界を変えたりする。
僕は自分の身の周りの人すら笑わせたり、助ける事すら難しい。
叶うなら英雄のようになりたかった。せめて両親や幼なじみの笑顔を守れる英雄に・・・。
〜♢〜
「うああああぁぁぁぁっっっ!!!??」
(これじゃダメだっ!?)
反射的に腕を前に出して身を固める僕。しかし、あの鋭く発達した前肢で切り付けられれば僕の腕など簡単に切り落とされてしまうかもしれない。
(動け動け動けーっ!!?)
「キィィィアアッッ!!!」
「うわぁっ!!」
そして僕は無我夢中で後ろへ倒れ込むようにその場から飛び退いた。思い切り尻餅を着く僕の前でビュオン、と化け物の腕が虚空を切り裂いた。
「いっつぅっ・・・!?」
尻の痛みを感じると同時に右腕に焼け付く感覚があって僕は呻いた。直後、右腕から赤い液体がポタポタと滴り落ちてくる。
(痛い・・・! 斬られたんだ・・・!!)
痛い、そして恐ろしい。だがそれ以上にこのままでは確実にやられてしまうに違いない。そう思って立ち上がろうとする僕の耳にイルの叫びが聞こえてきた。
「ダメっ!! カナタが・・・、カナタが死んじゃうぅっ!!」
「お、おいイル!?」
そんな半ばパニックになったイルの叫びを聞いた化け物が顔の向きを変える。僕からアノンとイル、双子の兄妹がいる方へと。
「キキキキキキッッ!!」
(まずいそっちは・・・!?)
新たな獲物を見つけた化け物は意地の悪い悪女の様な笑みと共に根のような足を動かして双子の方へと向かっていく。
「やめろ! こっちに来んなっ!?」
「いやぁぁっ!? こわいよこわいよー!??」
「あっ!? ダメだイル、そんなに怖がったら身体が・・・!?」
迫る化け物に半狂乱になって喚くイル。そんなイルにアノンが振り向いて必死に声を掛けるがやはり母を殺されてしまったせいだろう、イルのパニックは少しも収まらない。
―――その直後だ。
「ああっ!イル、お前足が・・・!?」
「っ!? イル・・・!?」
大声で叫ぶアノンに僕はイルの足元の方を凝視する。なんとイルの足が青い結晶に包まれていた。
(いや・・・、身体が結晶に変わってる・・・!?)
「あ・・・イヤアアァァッ!? ヤダっ!? お兄ちゃん、イルもお母さんみたいになっちゃうよおぉっ!?」
「大丈夫、大丈夫だからっ!!」
イルがアノンにしがみついて真っ青な顔で叫ぶ。当然だ。こうしている間にも青結晶はイルの足元から少しずつ上がってきているのだから。
「どうなってるのこれ・・・!? えぇ!?」
ドクン、ドクンと心臓が激しく脈打つ。同時に最悪の状況を僕は脳裏に描いていた。あれが全身に回ったらイルはどうなってしまうのか。そうでなくともあの木の化け物に二人が襲われてしまったら。僕もまた強い死のイメージに頭がどうにかなりそうだった。
「あれはいったいなに!? なにがおきてるのさっ!?」
と、突然聞き覚えのある声が頭に響いた。
『―――あれは体晶化とボクは呼んでる。負の感情の発現を許さないこの町が生んだ罰・・・、禁忌を破った者にだけ与えられる、まあペナルティだよね』
「っ!? この声・・・あの時の・・・!?」
突然、僕の喚きに近い一人言に割り込んだ声に驚いて辺りを見渡す。が、以前の時と同じで声はすれど声の主の姿は無かった。
『おっとぉ?今はそれどころじゃないでしょう?体晶化は身体全体に及ばなきゃ助けられる。つまり、あの子はまだキミの手で助けられるって訳!』
「っ! ・・・でもボクにはあんな化け物を倒す力なんて・・・」
『力ならある。あの低級夢魔、グリーと戦った時を思い出してごらん?あれがキミの力、キミの強い思いと心が生み出すキミの意志の具現だよ』
(ボクの意志・・・? 出来ることならあの二人を守りたい・・・、それがボクの意志・・・??)
それを考えると同時にこの世界に来た時、遭遇した化け物を相手にした時の事を僕は思い出していた。
『迷ってる暇、無いでしょ?もう夢想器は形を成した。あとはキミの思いに呼応していつでも発現するはずだよ!』
声の主の言葉に僕は迷いを振り切り、立ち上がった。
(―――そうだ。迷ってる暇なんかない!あの時の、あの化け物を倒した力があれば二人を守れるかもしれないっ!!)
震える身体を無理矢理、気合いで抑え込み、カラカラの唇を湿らせて僕は力いっぱいに叫ぶ!
「化け物っ! こっちだっ!! 僕の方を見ろ!!」
「――――――ギィ?」
双子に迫っていた化け物がこちらを振り向く。これで後戻りは出来ない。
「カナタ!? 何してんだよ、カナタまで・・・」
「大丈夫だよアノン、イル・・・。そこで見てて?」
そう双子に言うと僕は意識を化け物の方へと集中した。まだアノンとイルは何か叫んでいるが今はそれを聞く余裕は僕には無い。
「―――アナタに一つ聞きたいんだけど・・・」
『なに?』
それは相対した時から思考の片隅にあった事だった。その答えを聞かなければきっと僕はあの化け物に手を出す事は出来ない。
「アレもさっきの女性みたいに人間があの姿になってるの?」
『・・・・・・。うん、キミの考えてる事はだいたい分かるよ?何しろキミは優しい子だからね!――そう、あれは人が夢魔と呼ぶモンスターに命を取られて変化した姿。ボクは
「
『そう、その中でももっとも基本的なのがあのエンドール。木人形とでも言うべきかな?もちろん死んでるからもう元には戻らないよ?』
「―――っ!・・・分かったよ。それだけ聞ければ・・・」
元には戻らない。それが聞けただけで充分だった。名前や詳しい事なんて今はどうでもいい。あの化け物がアノンとイル、そしてこの町の人達の命を奪おうとしている。そして自分にそれを止める力があるなら・・・。
(―――もう誰かが悲しんだり苦しんだりするのはウンザリなんだ・・・!!)
いつか夢見た物語の主人公の背中。あんな英雄のようにはいかなくとも構わない。せめて目の前の苦しむ人を、今、恐怖で結晶に呑まれようとしているイルを救えるなら。
「ボクがあの人・・・、いや化け物を・・・、
そう宣言したと同時に呼応する様に僕の身体から熱いものが流れ出し、それらが形を成す。それは以前、声の主がグリーと呼んだ夢魔と戦った時に見た剣と、それに盾だった。
そして冷静になって見てみればそれは手の平に握られた二本のグリップの様な赤い物体。右手のグリップは水色の刃を、左手のグリップは水色の円形を光るガラスの様な物で形成し、それぞれ剣と盾の形を成している。
(――――盾もあったんだ・・・。これがボクの意志が生み出す武器・・・?)
そんな僕の思考を攫うように声の主は高らかに宣言した。
『そう、それがキミの夢想器。ボクが命名しよう・・・。誰よりも夢に焦がれながら、誰よりも夢は虚構でしかないと知るキミは夢を断ずる刃とそれを守る盾を生んだ・・・』
以前と違い、冷静さが戻った今では吸い付くようなその重みと握り心地が自身の身体と渾然一体になっているのが分かる。僕はそんな武具を握り締め、近付いてくる
『――――
〜♢〜
第6話、今度は無事に更新出来ました!
なんというか・・・、描写が濃くなると1話で時間として数分しか経たなくなってしまうのが良いのか悪いのか、という感じです。
とはいえ、これでようやく物語も本筋に入ってきつつあるので飽きずにお付き合いいただけるとありがたいです!
・・・PV数伸びろーーー(´;ω;`)!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます