Dream:4 双子と町と這い寄る悪夢


―――僕にとっての夢は皆にとっての現実。

何故なら僕が夢に見るのは通学路を友人と自分の足で歩いたり、幼なじみと遊園地に行く、そんな普通の人なら当たり前のことだから。

自分の大切な人達と食卓を囲む、ただそれだけの事すら僕にとっては夢物語だった・・・。


〜♢〜



「なんて大きくて・・・キレイなんだ・・・!?」


「参ったかー?」


「すっごいでしょー?」


窓から映る陽の光を乱反射する青い建造物から僕は眼を離すことが出来ずにいた。植物のように一定の法則性に従って天に向かって生える結晶塔は、間違いなく僕の人生で一番、美しく偉大な構造物だと思う。


「感無量、という感じだね?この街で生まれた者は物心着いた時に皆、その感動を味わい、畏敬の念を抱くようになるのさ。あの塔、そしてあの塔に住む魔女様にね」


「魔女・・・様?」


「そう。結晶を操る力を持ってこの街を守る守り神のようなものさ。もう、何百年もこの町を変わらない姿で外敵から守り続けてくれている」


「結晶の力・・・、守り神・・・か」


まるでおとぎ話のような話だが大の大人がこのように話すのだから本当の事なのだろう。結晶を操るというのも見てみたいと思ったがそれよりも僕はもっと気になる所があった。


(―――何百年も変わらないって魔女だって人は何歳なんだろう?・・・それとも不老不死とか?)


この町をただひたすら見守る数百年というのは果たしてどんな気持ちなのだろうか。それを想像しただけでぞっとして僕は考えるのをやめた。


(同じ数百年なら僕は自分の足であちこち見て歩く方がいいや・・・。せっかく自由に歩けるんだし)


「おい、カナタ?」


「ねえ、カナタ?」


そんな風に魔女に思いを馳せているといつの間にか双子に話しかけられていた。まん丸の二対の瞳が無垢な輝きを放って僕を捉えている。


「あ、ごめんごめん!なに?」


「案内してやる」


「あんないあんないー♪」


「え・・・?」


何を言われているか分からず、惚けた顔をする僕にエノールは相変わらず優しげな笑顔で、


「二人が町を案内してくれるそうだよ?カナタはこの町の事を良く分からないようだから散歩がてら、行ってきてはどうだい?」


「「どうだい?」」


「あ・・・はい」


見事にハモった双子の眼力に勝てる訳もなく、僕は外出するべくそそくさとご飯を済ませるのだった。


♢



―――先に感想を述べておくなら町はとても美しかった。白を基調とした石材か何かで造られた建造物の数々。道は石畳で舗装され、街路樹だろうか、整えられた主張しすぎない木々や植物が彩りを生み出している。


「あそこが八百屋だー」


「あっちがお花屋さんー♪」


僕は2人に両手を引かれ、石畳の道を足早に歩いていた。道行く人々が元気に歩く双子へと声を掛けてくる。


「やあ、アノン、イル。おはよう」


「あら2人とも?今日はお兄ちゃんを連れてるのかい?」


――極め付けは青い結晶だろうか。美しいこの町の造形をより一層、洗練された物に変えている青結晶を利用した装飾がこの町独特の芸術性を生み出している。確かギリシャとかではこんな感じの建物もあった気がするがそれとは似て非なる独自の感性がこの町には感じられる。


「おお、お二人さんか。今日は大きいあんちゃんも連れてんだな?なんか買ってくか?」


「じゃあリンゴ3つー♪」


「お、おいおいイル・・・!?」


「いいんだよアノン!一つ分の値段に負けといてやるよ!」


「あ、ありがとうおじさん・・・!!」


立ち寄った八百屋でイルが選んだリンゴを各々手に僕達は噴水のある広場にあるベンチに並んで腰掛けた。僕は甘いリンゴの味にさっきの店主に感謝の念を送りつつ、考えていた疑問を口にする。


「なんで・・・・・・・・・」


「ん、どしたんだカナター?」


「カナター?」


「なんでこの町の人達は僕みたいな知らない人がいても全然気にしないの!?しかもめっちゃ優しいし!!」


それは当然の疑問だったと思う。街ゆく人達はまるで最近、見なかった隣人に再会したかのように親しげに声を掛けてくる。僕が今まで生活してきた日本では考えられない事だ。


「なんでって・・・、ふつうだよな?」


「うん、ふつーだよ?」


(―――ああ、この町ではこれが当たり前なんだ・・・)


キョトンとするアノンとイルを見て僕は妙に納得してしまった。ただそれと同時に奇妙な違和感も僕は抱いていたが。


(確かにこの町は綺麗で人も優しい・・・。でもなんか・・・。何て言ったらいいんだろう?)


中世的な色彩に頼らない、素材の色を活かした人々の服装か。それとも日本と違い、外国人にも似た容姿や目や髪の色が目に付くせいか。


―――――いや違う。そんな単純な見た目等の問題じゃない。


(―――そう、なんていうか無理してる?まるでそうするように仕向けられたみたいな――――)


その時だった。


「キャアアアアアッッッ!!!?」


「え!?・・・悲鳴!?」


突然、町に女性の甲高い叫びが響き渡った。そう大きくない町だ。騒ぎの源は遠くない場所に違いない。


「カナタ、あっちの裏通りの方だ!」


「こっちこっち!」


双子がいち早く反応し、駆け出していく。


「あっ!二人とも待って!!」


一瞬、気絶する前に戦った化け物の事が脳裏を過ぎり、背筋がぶるりと震えたがそれどころではない。エノールさんの大切な子供達を危険な目に遭わせる訳には行かない。そう考え、僕は二人の後を追った。


いくつかの道を曲がり、やがて人通りの無さそうな裏通りへと二人は入っていく。


(―――は、はやっ!?)


僕はついて行くのがやっとだった。当然だ。毎日、遊びながら走り回っている子供とずっとベッドでの生活をしていた僕ではハンデがあり過ぎる。


「ハァッ・・・、ハァ・・・、二人、ともっ!?」


建物を曲がった所でようやく立ち尽くす二人の背中を見付け、僕は息も絶え絶えで二人の側へ駆け寄った。近くには他にも人が何人か集まっていた。


「カナタ・・・、あれ・・・」


「怖いよ・・・カナタ・・・」


よほど動揺しているのかイルだけでなく、アノンまでが僕の服の裾を握り締めてくる。アノンはもう片方の手で裏通りの先を指差していた。僕は町の人の背中越しからそちらへ目を向ける。


(一体何を見たんだ・・・?)


そしてを目にした瞬間、僕はハッと息を呑み、動く事をやめた。異常を感じ取った身体がガタガタと震え出す。


「あ・・・、そんな・・・ウソ・・・だ・・・!?」


僕の目に入ってきたのは、均した土の上にうち捨てられたように転がる、血だらけの女性の無惨な姿だった――――。


♢


はい!第4話です!仕事続きで更新、遅くなってすみません!

こっちの小説は現在、ストックなしで書いてるので・・・、ストックこれから用意します(´・ω・`)

さて、青結晶の町でのイベントが始まりました。まだ、色々と謎だらけで戸惑うカナタですが周囲は待ってはくれません。

果たして突然、起きた事件の行方は・・・?

次回は2日後を目安に投稿します!!


















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