Dream:3 箱庭との邂逅、青結晶の町
―――僕は夢が好きだった。
嫌な事ばかりの現実と違い、夢の中なら僕は何にでもなれたから。
でもわかってたんだ。
夢は現実にはならない、現実を誤魔化すための気休めにしかならないって事を・・・。
〜♢〜
「うっ・・・・・・」
呻きと共に僕はゆっくりと目を覚ました。鼻につく芳醇な香りに僕はすぐに空腹を覚えて身体を起こした。
「うぅ・・・、あれここは・・・・・・?・・・んー、これって・・・」
そこは小綺麗に整えられた西洋風の簡素な寝室だった。起き上がると僕の身体の上に真新しい毛布が掛けられていた。
(・・・やっぱり、夢じゃ無かったのかな?)
気を失う前の事がすぐに頭をよぎり、僕はそんな事を考える。ここが夢の中なら意識が途切れてしまえば現実に戻るはず。目覚めても見知らぬ場所にいるという事はつまりそういう事だ。
『ようこそカナタ・・・?”
声の主の最後の言葉を思い出す。さっきまで体験した事が全て現実だとすればここは別の世界だということになる。
「でも・・・、それよりも、さ・・・?」
確かめるように声を出しながら僕は恐る恐るベッドから抜け出し、ゆっくり立ち上がる。身体は怠さが残るものの、身軽に動き、重さを感じさせない。
試しにその場でポンポンと飛び跳ねたり、柔軟をしてみる。僕の身体は何の支障も無く、すんなりとそれらをやってみせた。
「やっぱりだ・・・。ここじゃボクは自由に動ける・・・!!」
熱を帯びたような痛みもなければ身体を包む脱力感も倦怠感も無い。まるで何かの呪いから解き放たれたようだ。
恐ろしい体験をしたばかりだし、この世界のこともよく分かってない。だが、それよりも僕は自分が自由に動ける事の方が大切だった。何しろこの18年間、まともに動けた試しなどないのだから。
「あ、服が置いてある・・・。へえ、レザーブーツに革の手袋まで・・・、おー、なんか冒険者っぽいな〜」
だから僕は色々、考えるのをやめてこの状況を楽しむ事にした。すぐそばの小机にまとめられていた衣服に身を包む。革や麻の素材の色をベースに薄緑色のジャケットを組み合わせた服装は涼しげで僕の好みだった。
「あれ・・・、これ用意してくれたのってこの家の人かな・・・?気を失ってたって事は・・・」
「そうだよ。川のそばに君が倒れてるのを見付けてね?慌てて私が運んできたんだよ」
「それはどうも・・・って、え!?」
突然、僕の一人言へ挟まれた声に驚き、顔を上げると部屋の扉の所に優しげな笑みを浮かべた男性が立っていた。柔和な細面はやや歳を感じさせる。自分の父親くらいだろうか、と僕は見当を付けた。
「ああ、驚かせちゃったね?私はエノール。この家の一応、主という事になるかな。元気になったようで良かった、君の名前は?」
「あ、はい・・・。ボクは
「いやいや、何も無くてむしろ良かったよ。えー、ホシノカナタくん・・・?珍しい名前だね、なんと呼べばいいんだろうか・・・」
「あ・・・えーとカナタ・・・で?」
エノールと名乗った男性が顎に手を当てて小難しい顔をして悩んでいたので助け舟を出す意味で下の名前を提案する。
「うん、カナタくん、か!いい、いい響きだね、うん、うん!」
僕の名前を呼んで満足気に頷くエノールに僕はああ、この人は底抜けに良い人なんだなという感想を抱く。長年、人に面倒を見られる生活をしていると人に悪意があるかどうかに敏感になるものだ。この人にはそれが全くといっていいほど感じられなかった。
(・・・それにこの世界じゃ日本の名前の付け方は珍しいみたいだし・・・)
「さあ、聞きたいこともあるけど服を着替えたならご飯にするかい?お腹が空いただろう?」
「あ、はい!すいません・・・」
自然とそう、口にしていた僕にしかし、エノールはにこりと笑ってみせた。
「いいんだよ。ついでだからね、さあ下に行こうか」
「・・・はい!」
(――拾われたのがこの人でホントに良かったな・・・)
僕はそんな事を考えながらエノールの後ろについて木造の階段を降りていった。降りると広い部屋にテーブルと椅子が置いてあり、リビングのようになっていた。
「あっ!起きたんだな行き倒れ!」
「起きたね、行き倒れー!」
「こらこら、行き倒れはお客さんに失礼だよ?」
そしてテーブルに着いていた二人の子供が元気な声を上げた。その二人へエノールはやんわりとした声で注意をかける。
「じゃあ居候ってやつかー?」
「居候ってやつだねー♪」
(うわ、そっくり・・・!!)
その二人の子供は言わゆる双子だった。海を映した様な青く綺麗な髪をツンツンした短髪にしたのが男の子。長くポニーテールにしているのが女の子だ。歳の頃は10歳くらいだろうか。
「アノン?イル?変な事ばかり言ってないでお客さんにきちんと挨拶しなさい」
「ちぇー、アノンだよお客さん、よろしく!」
「お客さん、イルだよー。よろしくね♪」
少し厳しい顔になったエノールが窘めると双子は僕に挨拶してきた。少々、口は良くないがいい子達のようだ。
「うん、ボクはえーと・・・、カナタだよ。よろしくね?」
「ふーん、カナタかぁ、覚えた!」
「カナタだねぇ?覚えた!」
イルという名前の女の子がどうやら妹らしく、兄のアノンの口調を真似ている。そんな二人が可愛らしくて僕は思わず笑みを浮かべていた。
「さて、3人ともご飯にしようか?座って、座って?」
「カナタ冷めるぞー?」
「カナタ、イルのとなりー!」
「あ、うん。じゃあ、となり失礼するね?」
そして双子とエノールに促されるまま僕は食卓に座った。するとエノールが両手を胸の前で組み、祈るような体制を取った。気が付けば双子もそうしていて、僕は慌ててそれに倣う。
「―――我らを創造して下さった
「「ありがとーございます」」
「えっと・・・ありがとうございます・・・?」
戸惑いながら祈りの言葉を見様見真似で終えると食事が始まった。卓に並んだ暖かなシチュー、カリカリのパンや豆料理は見た目こそ派手さはないが優しい味がした。
「どれもすごく美味しい・・・!!」
「そうかい?それは良かったよ」
暖かい食事に感動する僕ににこりと笑いかけてくれるエノール。そんな彼に僕は疑問を口にした。
「あの・・・、さっきの
「ああ、ムーニャ様かい?この世界の創造主の名前さ。私達とこの世界を作り出したという偉大なお方さ。この町、青結晶の街も創造主の妙技と言われているよ」
(創造主?この世界には神様がいるんだ・・・?)
エノールの言う、創造主にいまいちピンとこないがこの世界を作り出した存在というのがいるらしい。その存在なら僕がどうしてここにいるのかも分かるのだろうかと僕は考えた。
「あ、青結晶の町ってここの名前なんですよね?妙技って一体・・・?」
僕がそう言うとエノールは食事の手を止めてすっと立ち上がった。そして、日除けの役割をしている窓際のカーテンに手をかける。
「君はここの事を知らないようだから見た方が早いだろうね。さあ、見てごらん?」
そう言ってエノールがカーテンをバッと引くと隠れていた窓の景色が僕の眼に飛び込んできた。
「え!?あれは・・・!!」
思わず、僕は勢いよく立ち上がってしまう。それもそのはず。窓の外には圧倒的な存在感を放つ深い青色の結晶で構成された高い構造物が建っていたのだから。太陽の光を受けて美しく輝くその意匠に僕は眼を奪われた。
「―――あれがこの町を見守る魔女様が住んでいると言われる建物、青結晶の塔だよ」
「だよー?」
「すげぇだろー?」
「う・・・うん・・・・・・」
その時の僕は双子の言葉が耳に入って来ないほどに、この世界が本当に自分が知る世界とは全然違うのだと思い知らされていたのだった。
♢
遅くなったけど間に合った〜、という事で三回目の投稿です!!
いや〜会話パートは尺やテンポが難しい(笑)
人が見てくれると思うと余計ですね〜
という事で次回はこの街で何かが起きます、どうか飽きないで読んでくれると嬉しいです!!
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