Dream:2 夢幻の箱庭〜ドリーム・ガーデン〜
――両親も幼なじみも僕に良くしてくれた。
彼等は自分の事も省みず、本当に僕の事を考えてくれていたと思う。
それがとても嬉しくて僕の生きる理由になっていた。
でも、そうしてもらえばもらう程、僕は何も返せない自分の事を死にたくなる程、嫌いになるんだ。
〜♢〜
「くっ・・・、なんで・・・!?」
痛みで顔を歪めながらずるずると地面の上を後退る僕。その目の前にいるのはあの恐ろしい牙がずらりと並んだ巨大な口を持つ化け物だ。
「ギュルルルルルゥゥゥ・・・!!」
そいつはその口から笛をめちゃくちゃに吹いた時のような甲高い鳴き声を漏らしてこちらを見ている。いや、目が無いから見ているというのはおかしいかも知れないのだが、明らかに化け物はこちらを伺っているのが分かる。
(くそ・・・! 早くっ・・・!!)
痛みを堪え、僕は無理矢理立ち上がった。が、ズキィ、と足首に鈍い痛みが走ってすぐに僕はまた片膝を着いてしまう。
「さっきので足首が・・・!? 力が入んない・・・!!」
何たる事か、怪物を前にして僕は機動力を失ってしまった。片足を引きずって逃げようとする僕を化け物はいつでも追い付けるぞとばかりにじっ、と様子を伺っている。
更に悪い事にその後ろにはさっき、最初に出くわした初めの一体が激しく弾みながら迫っていた。案外速度が出るらしく、あっという間に初めの一体も距離を詰めてきた。
「だっ・・・めだ・・・!逃げられない・・・!?」
足を引きずる僕に化け物達が交互に弾んで迫る。もはや距離は5mも無い。
(―――あの牙が並んだ口に噛み付かれたら一体、ボクはどうなるんだ・・・?)
絶望的な状況にそんな最悪な想像が頭をよぎる。どう考えてもあの無数の牙が食い込み、ズタボロにされるイメージしか浮かんでこない。
「ギュルルゥッ!!!」
「うぐぁっ!?」
そしてついに追い付いた化け物がその球体状の身体で体当たりしてきた。強い衝撃で僕は地面に叩き付けられる。
土まみれになり、痛みで悲鳴を挙げる身体。眼前には口を開き、命すら飲み込まんとする怪物の姿。
(うそ・・・、ボクは死ぬの・・・?でも夢の中だから死んでも大丈夫・・・いや・・・)
絶望に心が蝕まれていく中、僕の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。
―――そもそも、ここは本当に夢の中なのか?
身体を走る痛み。生々しい土の感触。恐ろしい程にリアルな生き物。この世界も化け物も、自分自身の身体でさえもあまりに現実味があり過ぎた。
自由に動く身体は不自然だが、それ以上にここまで痛かったり、苦しかったり身体の状態をリアルに感じるのはそっちの方が不自然だ。
だからこそ、こんな答えが浮かんでくる。
「ここは夢じゃなくて現実・・・?ボクはここで・・・」
そして最後の言葉が口から出ようとする時には、怪物達が無数の歯を並ぶ口をいっぱいに開いて迫っていた。思わず、目を瞑って叫ぶ!
「うわぁぁぁぁっ!?」
(――ダメだ死ぬっ!!)
だか降り掛かるはずの死は数秒待っても訪れなかった。それどころか気付けば一切の音が辺りから消えている。
「えっ・・・、これは!?」
思わず目を開けた僕の前に広がっていたのは飛びかかる体勢のまま、空中で動きを止めた化け物の姿だった。
「止まった・・・?ううん、周りの景色も・・・、時が止まって・・・る?」
そんな発想が出来たのはその手の小説やゲームが大好きだったからだろう。妄想でも何でもなく、化け物も周りの景色も止まり。まるで世界が動くのをやめたようだった。
『―――ギリギリだったねぇ、カナタ?』
「――――え?」
突然、頭の中に響いた中性的な声に僕は驚きの声を上げた。
(――今、ボクの名前を呼んだのは一体・・・)
気のせいかと思いかけたその時、もう一度声の主はこの場にそぐわぬ呑気な声で話し出す。
『んーと、
こちらに話すでもなく、勝手に納得している声の主に困惑する僕。しかし声の主はマイペースに話を進める。
(――な、なんなんだろ・・・?)
『さて、カナタくん!!』
「はっ、はいっ!?」
突然、名前を強く呼ばれ思わずピンと背筋を伸ばす僕。声の主はそんな僕にこう言った。
『キミは今、大、大、大・・・、だーいピンチだったね!?』
「え・・・、あ、はい・・・」
確かにピンチだったがなぜか凄い勢いの声に僕は気後れしながら返事を返す。
『こんな所でキミはやられてしまっていいのか!?いや、そんな訳がないっ!だから今回は特別にボクが君の力を使えるようにしてあげようっ!!』
「は、はいっ!!」
なんでこの声の主はテンションが異常に高いのか、とかそもそも声の主は誰なのか、とか色々疑問はあったものの、現状が化け物にいつパクリと行かれるかも分からない状態なので、僕は藁にもすがる思いで返事を返した。
『よしっ! ならば両手を前にっ! 自分の思う強い力をイメージするんだっ!! より具体的に、そして鮮明にっ!!』
「えっ? は、はい! ・・・強いイメージってえーと、えーと・・・!?」
強い力と聞いてRPGの魔法とかを想像する。だがイメージがいまいち具体化しない。もっと身近でその威力がイメージ出来る存在・・・。
(わかりやすい力の象徴って・・・。あ、そうだっ!)
『あ、ごめんもう時間切れだよ!早くこの言葉を叫ぶんだっ!”来たれ、夢想器”と!!』
そしてイメージが頭の中に浮かんだ瞬間、声の主の言葉通り、時が動き出した。
「ギュルルゥゥッ!!!」
と、同時に化け物が大口を開けて飛来する!
「えぇっ!? き、来たれ、夢想器っっ!!」
目を瞑り、無我夢中で教わった文言を唱えながら僕は両手を突き出した。
次の瞬間。
ドシュッ。
「は・・・??」
何かが身体から流れ出る感覚。続いて肉を貫くような音と共に両腕の先に強い衝撃と嫌な感触が襲う。
「う・・・・・・わ・・・?」
目を開けた僕の視界に映ったのは、僕の手に握り込まれた赤いグリップの様なものから伸びる水色に光る刃に串刺しにされた化け物の姿だった。
「うそ・・・!! なんだこれっ!?」
身体をぴくぴくと痙攣させる化け物の有り様が僕に生き物を手にかけた事を強烈に認識させる。だが、それを気にしている暇は僕には無かった。
「ギュルルッ! ギュウウゥーッ!!」
すかさずもう一体の化け物がこちらへと飛び込んできたからだ。
(まず・・・、これどうやって抜けば・・・!?)
手に持った光る剣のような刃には深々と化け物が串刺しになっていて振り回してもびくともしない。
「このままじゃ・・・!?」
『大丈夫!剣にありったけ力を集中して思いっ切り振り抜くニャッ!!』
「っ!?それなら・・・、ウアアアァァァッッ!!」
咄嗟の事だった。声の主が言うまま、己の力を全て握った刃に込めるような気持ちで握り締め、串刺しになった化け物ごと両手で思い切り剣を振り抜く!
シュパアァンッ!!
子気味の良い、空気を切り裂く音が響いた。と思った時には飛来していた化け物を剣に刺さっていた個体ごと切り裂き、真っ二つにしていた。化け物の白くて丸い身体が無造作に地面に落ちる。
切った時こそ血が吹き出ると思ったがそんなことは無く、化け物は地面に落ちるとまもなくすぅっと身体が半透明になり、そのまま消え去ったのだった。
「やった・・・!? でも消えた・・・?」
初めて自分の手で生き物を殺した感触に戸惑いながらも僕はそう口にする。だがそんな余韻は何秒も続かない。
『夢想器の生成と夢魔の退治おめでとう!でもとりあえず今はおやすみ、かな・・・?』
「え・・・それって何の・・・、あれ・・・?」
声の主が新たに出した言葉の意味が知りたかったが急に頭が激しく寝不足した時のようにふわふわとした感触が襲う。急激に訪れたその感覚を睡魔だと認識した時には僕は前のめりに倒れ、意識を手放していた。
『ようこそカナタ・・・?”
♢
本日二つ目の投稿です!
ここから物語は展開していきます♪
夢というコンセプトの異世界ファンタジー、上手く伝わるといいなぁ・・・。
次回の投稿は土曜日の予定です!
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