少年、夢中を征く 〜叶いし夢々の結末世界 End of Fairytale〜

優夢

第一章〜箱庭との邂逅〜

Dream:1 始まりは吉夢か、それとも悪夢か


―――僕はいつも夢の中の自分に憧れていた。

彼は自由に歩き回れるし、苦しい思いをすることも無い。

誰かを困らせたり、悲しませることだってしない。

窓の外に見える青空やその下を歩く人々に唇を噛み、自分を嫌うこともしなくていいんだ。


そう、彼は僕の望む僕そのものだった・・・。



〜♢〜


頬を撫でる柔らかな風。それを意識すると同時に鼻を通り抜けたのは、青臭い草花と土の香りだった。


「う・・・、あれ・・・?」


呻き声と共にゆっくりと眼を開く。ぼんやりした視界にいっぱいに広がったのは、少し赤を混ぜたような夕暮れのようでいてまた少し違う色の空だった。


「あれ・・・、ボクはなんでこんなとこで寝て・・・?さっきまでベッドの上で・・・」


(――あれ?身体が軽い・・・??)


身体に感覚が戻ると共に身体が身軽な事に気付き、僕は身体をゆっくりと起こす。ずっと感じていた身体の痛みと熱さも無い。僕の身体はなんの抵抗もなく、草の地面の上で座る姿勢を取った。


「こんな簡単に・・・ウソでしょ・・・?」


自由に動く身体も、目の前に広がる見渡す限りの草花が芽吹く緑の大地も、あまりに唐突で僕は戸惑いを隠せなかった。


「身体もそうだけどこの場所って・・・いったい?」


自分で自分の感情を処理する為か、自然と独り言が口から飛び出す。それほどに眼前の草原は今まで自分が見てきたものとはどこか違う景色だった。


(こんな景色見た事も無い・・・。まるでゲームかなんかみたいだな・・・)


「ん・・・!?、今なんか動いた・・・?」


ぼんやりと眺めていた視界の端になにか白い物がちらりと動いた気がして僕は思わず立ち上がっていた。


「うわっ!?急に地面が・・・!?」


突然、視界が高くなった事に驚き声を上げる僕。しかし、それを気にしている間にこの広い草原ではすぐに見失ってしまうに違いない。そう考え、僕は何かが見えた方へ向かって歩き出した。


いざ歩くと草の敷き詰められた地面はなだらかに傾斜が上がっていた。それを感じる足の裏と火照る身体がとても心地良い。


「うわぁ・・・!すごい・・・、ボク・・・!!」


草を踏みしめ、前に進む感覚が嬉しすぎて僕は息が切れるのも構わず早足でどんどん歩を進めていく。


「あ・・・、川だ・・・」


なだらかな坂が途切れた先にくねりながら流れる小川が見えた。幅にして3、4mの川だがとても長く、川がどこまで続いているのか全く分からない。


「ん・・・?あ、あれさっきの白いの!?」


そしてさらさらと静かに流れる川のすぐそばにはいた。


「なんなんだろう、あれ・・・?生き物、だよね・・・?」


そこにいたのはバスケットボール大くらいの白くてまん丸い生き物だった。ゴムまりか何かのように上下に弾んでいるおかげでその奇妙な何かを生き物だと思えたが、その姿はとても見た事がない姿だ。


「もう少し近くに・・・」


気になり、恐る恐る近付いてみるとはっきりとその姿が目に映った。地面を蹴る、とても短く指も爪もない、丸い4本足と三角のネコのような大きな耳。そしてその下の顔がありそうな位置は何も無く、身体の割に閉じられた大きな口が弧を描いているだけだった。


「ネコ・・・?いや、でも目も無いし丸すぎるよな・・・」


どこか笑みを浮かべているように見えるそいつはその場で時々、身体を傾けながら上下にポンポンと跳ね続けている。


そんな正体不明の生き物を好奇心に駆られてまじまじ見つめていた時だ。


「え・・・?こっちに来る・・・!?」


なんとその丸い生き物がこっちへと跳ねながら近寄ってきた。僕が近付いていた事もあり、あっという間に生き物は僕の目の前まで来るとそこで跳ねるのをやめる。


(襲ってくるのか・・・?それとも・・・)


心臓がバクバクとうるさく跳ねる。自由に身体が動く興奮とはまた違った感覚が身体を駆け巡る。それは恐れか、はたまた好奇心か。


そんな自身の変化にじっと耐え、僕は眼前の地面でぴくぴくと身体を震わせる生き物の出方を伺った。


(―――――動かない?・・・警戒してるのか?少なくとも襲ってきたりするつもりはないって事・・・かな?)


睨み合い、緊張のせいで永遠にも感じられる時間の中、僕はそう考えた。よく見れば大きな猫耳の間、額辺りに付いた黒い二本の横縞がより猫らしくて可愛らしい。


意を決して僕はその生き物へとゆっくり近付き、目の前でしゃがんだ。かなり慎重に行動したが生き物は耳を震わすだけで逃げる気配も無い。


そして僕は生き物とコミュニケーションを取るべく、その丸いボディの頭に当たる辺りにゆっくりと手を伸ばした。


「怖くないよ〜?」


(そーっと、そーっと・・・)


警戒心を与えないよう、低い位置から右手をそっと近付ける。そしてあと少しで猫のような生き物の頭に触れようとしたその時だ。


ズチャア・・・、と。


生々しい音と共に


「へ・・・!?」


いや違う。二つに裂けたと錯覚する程に大きな口が開いたのだ。そして生き物はその巨大な口で差し出した僕の手を丸呑みに・・・


「うわあぁぁっっ!!?」


バクンッ!と口を閉じる大きな音が響く! しかし、慌てて手を引っ込めたおかげで僕の右手は無くならずに済んだ。


「な・・・、なんだこれえぇっ!!」


そして僕は胸に走る恐怖の赴くまま、走り出した。方角など分からない、闇雲に。でなければさっきのに自分は殺されてしまう。頭の中にあるのはそれだけだった。


「・・・はぁっ!・・・はぁっ・・・!!」


(なんだよ、なんなんだよあれはぁっ!?)


走りながら僕の脳裏に先程の光景がフラッシュバックする。


そう、真っ赤な口腔内にヌラリとした光沢と共に並ぶ、幾重にも生えた鮫のような牙の数々を。そして僕は走りながら叫んでいた。


「これは夢だっ!あんな化け物が実在する訳ないじゃないかっ!この綺麗な草原だって・・・、そもそも!!」


ペースも考えず、全力で走る。一刻も早く逃げなければ、とそれだけ考え、緑の地面を蹴り続ける。だが、それが良くなかったのかもしれない。


グニュン、と。


柔らかい物を踏み付ける感触を足裏に感じ、次の瞬間には僕は地面に転がっていた。


「ふぐっ!?・・・いったあっ!?」


激しく地面に叩き付けられ、身体のあちこちに痛みが走る。


「な、なにに引っかかったんだ・・・?」


―――そうして振り返った僕の目の前にいたのは、あの化け物のような巨大な口を広げ、舌舐りするもう一体の生き物の姿だった。




♢


初投稿失礼します!《優夢》です!

長編小説出す予定なのですがなかなか出来ないので先にすぐに出せそうなこっちを出す事にしました♪

一話辺りの文字数少なめの作品で週二、三回投稿する予定なのでよろしくお願いします!

文章拙いのはご勘弁をっ!

初回は二話連続投稿します♪















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