第2話 「久しぶりに再開した友人が人間を辞めていた件について」
「ふぅ……ここも久しぶりだな」
会社から追放された翌日。
久しぶりにハードを起動した俺は、ゲームの選択画面兼ソーシャルVRプラットフォームであるエントランスにやってきた。
ソーシャルVRプラットフォーム、とは何かと言うと、ハードを起動すると最初に飛ばされる空間には俺以外のプレイヤーも飛ばされてくる。
確か住んでるエリア毎に鯖が決まっていて、1つの空間の収容人数は2万人強だったはずだ。
そしてこのエントランスでは、ゲームをプレイせずともログインして誰かと交流したり、一緒に同じゲームをプレイすることもできる。
今俺がエントランスで待ちぼうけしているのは、友人の弁護士でMMO仲間であるツチノコ……土野高貴(つちの こうき)との待ち合わせがあるからに他ならない。
「おーい、カイト」
俺のゲーム内でのハンドルネームを呼ぶ声が聞こえる。
以前プレイしていたゲームのフレンドはほとんど繋がっていないので、おそらくはアイツだろう。
「ったくおせえよツチノ……コ?」
振り返ると、目の前にスルスルと地を這って現れた蛇のような生き物は、文字通りツチノコと呼べるものだった。
「どうした?鳩が豆鉄砲食らったような顔をして」
「お前いつ人間辞めたの?」
「あ、そうか。俺がこのアバターを外注した時にはもう社畜だったもんな。3年前だよ」
「はー、3年も前から……。えっ、それどうやって動かしてんの?」
「人間の歩き方と感覚的には変わらなくて、足を動かすイメージだけで勝手に這ってくれる」
「かがくのちからってすげー……」
惚けながらこういう場面でのテンプレ台詞を思わず口に出した後、そんなことより、と呟いて話を進めることにした。
「ヒロイックスカイオンライン、だっけ?どんなゲームなの?」
「お前さん、ゲームの下調べはしないタイプかい?」
「いやぁ、昨日は特に忙しかったんだよ。特に実家がさあ」
「いきなりリストラだもんな、驚かれたろ?」
「いや、なんか家族から見ても働いてた俺のメンタルが心配だったらしくてな。妹には泣きながら、「お兄ちゃんが死ななくてよかった」って言われたよ」
「妹ちゃんぐう聖かよ」
「来月からしばらく仕送りできなくなるって謝ったら、これまで仕送りしてた給料を全部渡されてさ、一銭も手をつけてなかったんだって」
「イイハナシダナー。ということは?」
「マジで1年は遊んで暮らせそう」
「いいじゃん。金に余裕がある内は転職先を選べるからな」
「そだな。って話が脱線してるじゃねえか!」
「悪い悪い、HSO(ヒロイックスカイオンライン)を簡単に説明するとだなぁ……。空に浮かぶ島を舞台にしたファンタジーRPGだよ」
「へえー、じゃあ空飛んだりできんの?」
「プレイヤーが空を飛ぶ方法はまだ実装されてないけど予定はされていて、今は船とかワープゾーンで移動する感じだな」
「なるほどな」
「最初はメインストーリーを進めて操作方法を覚えて、慣れてきたら適当な狩場でレベルを上げて装備を整えていけばいいよ」
「王道でいいじゃん。んで和風要素は?」
「はいはい。まずジョブにサムライと忍者があるのと、1番最初の島の中に和の島ってのがある」
「よっしゃ来た!最初の島は選べんの?」
「選べる。どこの島を選んでも転職できるジョブに縛りはないし、ホームタウンは栄えてる都市になるから初期島は上位職の転職くらいじゃないと寄らないよ」
「それは辛いな」
「あんま滞在してるプレイヤーが多いわけではないけど、一応和風っぽい都市もある。年中桜咲いてる感じの」
「とりあえず、実際にプレイして情報収集するかなぁ」
「了解。チュートリアルクエストが大体1時間くらいかかるから、それくらいになったら俺も和の島に行くよ」
「わかった、また後でな」
ツチノコはさっさとログインしてしまったので、俺もソフトを起動する。
「さあ、ゲームスタートだ!」
会社から追放されたニートはVRMMOの世を忍ぶ @nocturne_dp
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