会社から追放されたニートはVRMMOの世を忍ぶ
@nocturne_dp
第1話 「現実社会からの追放もといクビだが、法の下に即ざまぁ」
「君、クビね」
「……はい?」
部長に呼び出された俺は、唐突にそう告げられて困惑する。
クビ?え?なんで?俺悪いことした?
「休み過ぎだし、残業もしない。仕事舐めてるの?」
「休み過ぎって……もしかしてこの間通した有給のことですか?」
「うん。このクソ忙しい時期に有給取ろうなんて失礼だと思わないのかな」
「あの……有給が10日以上溜まっていたので、5日は消化する義務があるはずなんですが」
「あぁ、あのナントカ改革ってやつね。全くバカげた話だよ。法律なんか守ってたら仕事が回らないよ」
「……」
「それに有給取得の理由、なにこれ?」
「同人イベントへ参加するため、ですが」
「はぁ……」
部長は大きなため息を1つつくと、ドン!と机を叩き叫んだ。
「趣味のために仕事を疎かにしていいと思ってるのか!!」
「…………」
「だいたい近頃の若者はねえ……」
ガミガミと続くお説教の中、俺は言葉を振り絞る。
「あの……有給は3ヶ月前から申請していましたし、仕事も滞らないようにこなして、私がいない間も問題なく進むように引き継ぎはしていました。それに……有給に理由が不要だというのは労働基準法にも定められています」
「はぁ?労働基準法?」
「……はい」
「あのねぇ……」
部長は一拍置き、こう告げた。
「ウチでは労働基準法を採用していないから!」
この言葉がトドメとなり、俺は会社を追い出された。
◆
「ふぅ……」
俺はボールペン型のボイスレコーダーからSDカードを取り出してスマホに入れ、友人の弁護士にメールで送り付けた。
すると1本の電話が鳴った。
「はい、甲伊(かい)です」
「時央(ときひさ)、俺だ」
「ああ、高貴(こうき)か」
「音声を確認した、これは酷いな。未払いの残業代と割り増し賃金、ボーナスに解雇予告手当、ついでに不当解雇の慰謝料請求もしておいてやるから。ところで離職票は?」
「当然、"自己都合退職"だ」
「よし、ハロワに異議申し立てに行ってこい。会社都合で失業手当を受け取った方が得だからな」
「あいよ。ところで依頼料は?」
「えーっと……お前さんの給料なら法テラスと三者間契約にすれば法テラスが全額負担してくれるな」
「無料(タダ)ってことっすか!?法テラスさん太っ腹だなぁ!」
「法の下の平等って奴だな。ほんと、日本はいい国だよ」
「いい国ならあんなブラック企業をのさばらせないで欲しいよ」
「そこら辺は"自己責任"って奴だろ」
「はいはい、自己責任自己責任」
「んで、1年は遊んで暮らせると思うけど、どうする?」
「どうするって言ったって、"かくりよの里"はもうサ終しただろ?」
「お前さんはほんっとうに和風ファンタジーが好きだなあ」
「武士も忍者も最ッ高にクールだろ?」
「そんなお前さんが好きそうなVRMMOがあってな」
「おっ、なになにー?」
「ヒロイックスカイオンラインって言うんだけど……」
「おk、今ポチった」
「はやいなッ!?」
「今めちゃくちゃ気分いいからなー」
「……じゃあ明日、9時にエントランスで待ち合わせでいいか?」
「あいよー」
この後はハロワに行ったり、親にクビになった話をしたりとやらなければいけないことを終わらせて寝た。
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