あらすじVer.1.58

 さて、今のままではあらすじとしては、話の筋しかわかりません。これを見て「うん、面白いね! 実際に書いてみて!」という編集者は、絶対にいません。何故なら、あらすじの肉付けとしてはまだまだで、大きく欠けているものがあるからです。

 ひたすら真っ直ぐ、平坦に語られているだけでは、あらすじとは呼べません。

 最低限の、ドラマの起伏、緩急……いわゆる「起承転結」や「序破急」が必要になります。そして、ここからがあらすじ作りの本番と言ってもいいでしょう。

 次にやる作業は、5W1Hそれぞれの、物語の中での推移です。

 例えば、カイナは最初からユウキを救おう、地球に帰してやろうと思っている訳ではないんです。でも、今のあらすじではそれが伝わらない、そういう彼の「心境の変化」が情報として盛り込まれていませんね。それを掘り下げて、規定文字数内で表現することこそが、あらすじの本来の用途であり、目的なのです。

 では実際に、5W1Hに「物語を読み進める中での変化」を入れてみましょう。


・いつ(When)

 辺境のド田舎、ユズルユ村で育ったカイナ、セルヴォ、カルディア。

 ↓

 勇者三人組として打倒魔王の冒険の旅に出発する。

 ↓

 その頃魔王も、勇者を召喚していたが、現れたのがユウキだったので追放した。

 ↓

 魔王とのバトルで、仲間を庇ってカルディアが死んでしまう。

 ↓

 勇者三人組の旅の終わりと、封建社会の崩壊。

 ↓

 カイナもまた、カルディアのようにセルヴォを庇って右腕を失う。

 ↓

 世の中は銃の普及で、魔王軍討伐が戦争に変わりゆく。

 ↓

 セルヴォは、カイナを死なせなために戦力外として追放し、田舎へ帰す。

 同時に、ちょっと前からレジスタンスに加わってたユウキも追放する。

 同じ追放者同士、ユウキがカイナの帰郷に同行してくる。

 ↓

 故郷ユズルユ村で家族と再会し、修行し直すカイナ。

 ユウナのおかげもあって、新しい義手を得て再び旅立つ。

 ↓

 セルヴォを助けて魔王にリベンジする。

 ↓

 ユウナが地球へ帰るための道が切り開かれる。

 でも、ユウナはユグドルナに残ることを選択する。


 当然ですが、小説の中では時間が経過します。例えば短編で、たった10分間の出会いと別れの物語を書いた、そのワンシーンしかなかったとしても、600秒の時間が過ぎる訳です。勿論、男女が出会って別れるまでを書いて、最初の10秒と最後の10秒が、同じ10秒とは限りません。どちらかは短く感じるかもしれないし、一瞬に思えるかもしれない。あるいは、永遠にも等しい長さを感じるかもしれない。

 ですが、時間は流れます。

 物語の中で、日が昇って沈んだり、夕食の時間が来たりします。

 5W1Hの「When」は「いつ?」ですが……これは小説の中で、常に変動するのです。そして、物語に関わる設定の中には、小説の最初の一文字より前の時間軸も存在しています。

 あと、少し難しい話ですが、小説には「回想シーン」が存在します。登場人物が思い出したり、夢を見てたり……様々なシチュエーションで、時間軸が遡る表現が存在します。それも今は、もし使う予定だとしても少し忘れてください。まずは時系列にそって並べましょう。


 こうして並べると、本作の全ての要素の大体の始まりと終わりの期間がわかると思います。主要キャラが十代の若者たちなので、幼少期から数えてもだいたい十年前後ですね。

 その上で、小説としては「セルヴォは、カイナを死なせなために戦力外として追放し、田舎へ帰す」から始まり「でも、ユウナはユグドルナに残ることを選択する」で終わる予定です。とすれば、せいぜい長くても数週間という形になるでしょう。

 こうして並べると、ぼんやりとですが時間経過だけを軸にして、過去から現在を経て未来に流れる動きが可視化されたと思います。

 では、それぞれを「小説に書く順に、書く場所だけ」並べてみましょう。


 セルヴォは、カイナを死なせなために戦力外として追放し、田舎へ帰す。

 同時に、ちょっと前からレジスタンスに加わってたユウキも追放する。

 同じ追放者同士、ユウキがカイナの帰郷に同行してくる。

 ↓

 故郷ユズルユ村で家族と再会し、修行し直すカイナ。

 ユウナのおかげもあって、新しい義手を得て再び旅立つ。

 ↓

 セルヴォを助けて魔王にリベンジする。

 ↓

 ユウナが地球へ帰るための道が切り開かれる。

 でも、ユウナはユグドルナに残ることを選択する。


 これがいわゆる、最低限必要なシーンということになります。つまり、本作は大きく分けて四つのセクションがあることも言えます。

 なので、四章構成をとりあえずの暫定的な構造にしてみましょう。

 ここではまだまだ、起承転結や序破急は忘れててください。

 次は、四つの章それぞれの中身を4W1Hで端的に書きましょう。Wが一つ減りましたね? もう、時間軸で順々に並べたので、それぞれが「今すぐ」「これから」になります。なので、改めて「When」を振り分ける必要はありません。


・第一章「セルヴォとユウキが追放される」

 どこで(Where)

 └反魔王レジスタンスの本部で


 誰が(Who)

 └カイナとユウキが


 何を(What)

 └反魔王レジスタンスを


 なぜ(Why)

 ├カイナは右腕を失い戦力外だから(本当は死んでほしくないから)

 └ユウキは突出して強い尖った戦力だから


 どのように(How)

 └追放され、二人でカイナの故郷ユズルユ村に向かう。


・第二章「故郷への帰郷と再修行、パワーアップしての旅立ち」

 どこで(Where)

 └ユズルユ村で


 誰が(Who)

 ├カイナとユウキが

 ├カイナの家族、セナやサワたちと

 └ユウキの紹介でシエルと


 何を(What)

 └カイナの弱体化を


 なぜ(Why)

 ├カイナはまだ(死んだカルディアのためにも)セルヴォを助けたい。

 ├何故ならセルヴォは、カイナに死んでほしくなくて追放したのだから。

 └ユウキは実は、自分を召喚した魔王を助けて地球に帰りたい。


 どのように(How)

 └義手を得て新たな格闘スタイルを確立し、再び戦えるようになる。


・第三章「再びカイナはセルヴォの右腕として戦い始める」

 どこで(Where)

 └戦場で? 魔王の城で? まだ保留中


 誰が(Who)

 ├カイナが

 ├ユウキが

 └セルヴォ率いるレジスタンス軍が


 何を(What)

 └魔王を


 なぜ(Why)

 ├カイナにとっては、打倒魔王は幼馴染三人組の共通の夢だったから。

 └ユウキにとっては、魔王は実は優しい少年だとわかってるから。


 どのように(How)

 └ラストバトルで激闘を演じ、勝利する。


・第四章「ユウキの地球への帰り道が開かれたが――?」

 どこで(Where)

 └戦場で? 魔王の城で? まだ保留中


 誰が(Who)

 ├カイナが

 └ユウキが


 何を(What)

 ├カイナは魔王を許し、ユウキとラブラブになる

 └ユウキもまた魔王を許し、帰ることを先延ばしする


 なぜ(Why)

 ├実は魔族は、古代の地球の民(鬼)だった

 ├魔王は召喚したユウキが鬼じゃないから、戦いに巻き込めないから追放した

 └実はユグドルナには魔族差別があって、本来は魔法も魔族のものだったから


 どのように(How)

 └魔王とは完全とは行かずとも対話が生まれ、戦争が停戦になる。


 さあ、どうしょうか。5W1Hの最初のW、「When」は不可逆的な時間の流れで過去から未来に流れます。そして、その流れの中で必要なシーンを、時間軸に沿って並べたもの……それが基本的な「あらすじの各セクションの配置」になると思います。

 ではでは、今日はこのへんまでにしておきましょう。

 まだまだ不鮮明なとこが沢山あるのが、こうして可視化できましたしね。

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