種書き・最終稿

・物語の舞台、異世界『ユグドルナ』

 剣と魔法のファンタジー世界、ユグドルナ。19世紀初頭を思わせる、封建社会ほうけんしゃかいが終わりつつある時代である。魔王軍の侵略を受けて、諸王の支配体制は崩壊した。わって、三人の勇者が冒険の旅で徐々に魔王軍を押し返しつつあった。

 新たな発明である、銃。

 領主たちに頼ることをやめた民。

 次第に勇者一行は反魔王レジスタンスとなり、冒険の旅は戦争へとその様相を変えつつあった。

 このユグドルナの正体は『』である。はるか太古の昔、大気を持つ小さな衛星であったユグドルナは、地球の民と月の民との行き来があった。しかし、両国の戦争で行き来は断絶、ユグドルナは無数の天界樹ユグドラシルに支えられた岩の外殻を周囲に纏うようになったのだった。

 月の民の末裔まつえいが人間、月に取り残された地球の民(鬼)の末裔が魔王たち魔族である。


・カイナ(主人公)

 勇者三人組(幼馴染おさななじみの三馬鹿トリオ)の一人で、同じ勇者の親友をかばって、戦いの中で右腕を失う。結果、親友から戦力外通告を受け、追い出されてしまった。己の肉体一つのみで戦う格闘家であり、無愛想ぶあいそうで無口だが静かに燃えるタイプの熱血漢。不器用だが優しく、異性にも同性にもなにかと好意を持たれてしまう。

 同じく追放されたヒロインのユウキと共に、生まれ育った田舎いなかへと戻る。そこで家族を養いながら働くが、新たな機械式の戦闘用義手を得て再び戦う決意を固める。

 生まれながらの魔力やセンスがある訳ではなく、研鑽と鍛錬を重ねてきた努力家。


・ユウキ(ヒロイン)

 反魔王レジスタンスが組織的に大きくなる中、メキメキと頭角を現してきた謎の美少女。機械式のいかつい重甲冑じゅうかっちゅうで全身を覆い、巨大な盾とランスで獅子奮迅ししふんじんの働きを見せる。だが、突出し過ぎた強さゆえに、集団での数と数のぶつかり合いに不要とされ追い出される。

 快活で闊達かったつ生真面目きまじめな委員長気質だが少し天然でポンコツである。

 行くあてがなかったので、同じ境遇のカイナについてユズルユ村にやってくる。なかば押しかけ女房にょうぼうのように世話を焼いてくるが、なんとか魔王との戦いに戻れないかと思案している。それというのも、彼女は


・セルヴォ(主人公の親友)

 沈着冷静な剣士で、勇者三人組のリーダーだった。今は反魔王レジスタンを率いて、大軍の采配を振るっている。論理と合理で行動する理屈っぽい性格で、時には非常な決断を下す。そして、今はその傾向がより強くなっている。

 旅の仲間だった幼馴染、カルディアとは冒険中は対立してばかりだった。だが、義理人情や人の気持ちを優先する、そんなカルディアにセルヴォは恋心を寄せていた。しかし、そのカルディアが自分たちを庇って死に、カイナにも守られ右腕を失わせた。結果、彼はカイナを死なせないために自分の右腕的なポジションだった親友をクビにし田舎へと帰らせるのだった。


・カルディア(死んだ幼馴染ヒロイン)

 小さな村で育った悪ガキ三人組の紅一点こういってん、そして勇者三人組をバックアップする魔法使いの少女。元は村を守る巫女みこだったが、魔王を打倒すべく旅立ちを決意する。

 幼馴染のカイナ、セルヴォとは親友同士だったが、密かにカイナに想いを寄せていた。だが、告白したものの即答してもらえず、返事を待つ間に死んでしまう。彼女は身をていして、魔王との直接対決で二人の親友を守ったのだった。

 可憐で幼く見える容姿も手伝ってか、民の人気者だった彼女の死は……ユグドルナ全土に打倒魔王の機運を高まらせてゆくことになる。


・オロチ(魔王)

 武力によるユグドルナ統一を目指す、魔族の少年。その正体は、地球の民(鬼)の末裔である。太古の戦争のあと、月側に取り残された捕虜等の鬼は、過酷な境遇の中で差別されてきた。オロチもまた、幼少期に右の角を折られる等の手酷い仕打ちを受けて育ってきた。

 そんなオロチは、地球では月の民が地球の民を滅ぼし、今は地球人として暮らしているという事実を知る。改めて月の民の恐ろしさを知った彼は、虐げられた同胞たちのために決起する。だが、禁忌の召喚術で鬼の救世主を召喚したつもりが、現れたのは鬼ではなく……今は地球人となった月の民の末裔、一人の女子高生だった。


・セナ(主人公の師匠)

 カイナの母親役であり、師匠。カイナが保護してた戦災孤児の全てを、彼の義弟おとうと義妹いもうととして育てている。豪放にして剛胆、女だてらに無敵の格闘術を体得した女傑である。その竹を割ったような性格は、カイナにも多大な影響を与えている。

 息子も同然の弟子が隻腕せきわんになり、オマケに追放勇者なユウキを連れてきた事実に驚くも、全てを受け入れ優しく道を示す。そんな彼女は、カイナも薄々気付き始めているセルヴォの真実を察しているのだった。


・シエル(甲冑技師の少年)

 とある領主の息子で、今は機械技師として様々な発明を行っている。ユウキの武具は勿論もちろん、最先端の銃などを開発しているが、まだまだ魔法が主流の現在においては異端扱いされてもいる。加えて、生来せいらい自分の中に女性的な心や精神状態を感じることが多く、女装して暮らしている。

 貴族の名家であった実家は、そんな彼を呪われた子として追放してしまった。だからか、カイナやユウキに対してシンパシーを感じ、協力してくれる。彼の作った戦闘用義手で、再びカイナは戦いへと旅立つことになるのだった。


・サワ(主人公の義妹)

 カイナが魔王軍から救った戦災孤児で、カイナのことを兄以上に慕っている。旅立ったカイナがドロップアウトして帰ってきたことに憤慨ふんがいするも、彼の力になろうと奮闘する。だが、何故なぜか押しかけ女房的にくっついてきたユウキに、激しいライバル心を燃やす。

 今は村の自警団を率いるリーダー格として、故郷を守っている。だが、長らく不在となっている巫女になってほしいと頼まれ、その答を考えているのだが……


・カエデ(魔王の右腕)

 グラマラスで妖艶ようえんな魔族の美女。ひたいに一本の長い角を持ち、オロチの右腕としてユグドルナを滅亡へといざなっていた。カイナの右腕を切り落としたのも彼女である。巨大な大鎌デスサイズを手に、死神のごとく人間の命を刈り取る女傑でもある。

 オロチへの気持ちは忠誠心を超え、恋心となっているが……決してそれを表現しようとはしない。ただ、自分はオロチの忠実な部下として、彼の意思を体現する暴力の権化ごんげとなって戦う。


・ユズルユ村(主人公たち勇者三人組の故郷)

 辺境の片田舎にある小さな村で、無数の温泉がある湯治場とうじばでもある。あまりに田舎過ぎて、魔王軍からも侵略の対象と見られておらず、管轄する領主もすでに逃げて今は自治自衛でなんとかもっている。

 どこの村もそうだが、空へと伸びる巨大な天界樹を御神体ごしんたいとし、巫女を中心に神事を行う土着の宗教がある。牧歌的ぼっかてきな集落で、この御時世ごじせいに実に平和、時には魔族の湯治客さえも迎えてしまう呑気な土地である。


・魔法

 異世界ユグドルナでの、普遍的な能力。カイナたち人間も魔族も、等しく使うことができる。ただし、地球から召喚されたユウキは、月の民の末裔だが魔法は使えない。

 そもそも魔法とは、本来は魔族(地球の民=鬼)が持っていた能力である。古代の地球と月の戦争が終わった時、月の民は捕虜として残された鬼たちからこの魔法の力を奪った。月に取り残された鬼たちは全て、今は失われた科学の力で天界樹ユグドラシルへと姿を変えたのだ。月では、天界樹をリソースとして人間でも魔法が使えるのである。

 また、鬼の末裔である魔族は、もとより魔力を持ち、誰でも魔法が使える。


 ユグドルナの魔法は、地水火風の四元素や精霊によるものではない。また、神の奇跡を借りるたぐいのものとも異なる。人間は天界樹から、魔族は己自身の魔力から力を引き出し、様々な力を発現させる。

 大きく分けて、魔法の分野は三種類。

 まずは、日用術。どんな人間でも使える、暮らしに便利な生活のための魔法。

 次に、治癒の魔法。これは訓練した人間だけが使える、回復魔法である。

 最後に、攻撃系の魔法。これも訓練や勉強が必要で、最も難易度が高い。

 また、魔族は全てを最初から使える。


 魔法のみなもとである天界樹は、太古の昔に地球の民を鬼柱ひとばしらとして生み出された。この天界樹に眠る魔力を借りることで、月の民の末裔である人間も魔法が使えるのだ。

 ユグドルナのあちこちに天界樹は点在する。それは全て、空の上の天井(外から見るとクレーターだらけの月の表面)を支えている。そして、街や村にある天界樹には、その地域の巫女みこが仕えている。巫女の祈りや人々の祭事で、天界樹となった鬼をしずめているのだ。


 なお、この設定は基本的に小説の中では深く取り扱わない。大事なのは『魔法の源は実は、昔の魔族(鬼)』で『月の民(人間)が自分たちのために、地球の民(鬼)を天界樹にした』ということ。つまり、魔族と人間どっちが悪いの? という価値観が、作中のある一点でひっくり返ることになる。それがいわゆる、起承転結の『』となるかもしれない。

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