浪漫的な快晴ですわ
人通りが少ない街路は、浮世離れした印象が強い。
時刻は朝の九時。刻限としてはそれ程早いというわけではなく、むしろ平日では社会人や学生が動き出す時刻なのだが。生憎駅や住宅街から離れたここではそういった一般的な生活の匂いがしない。あるのは古びた ̄ ̄失礼、歴史ある老舗だけだ。それもどこもうちのように営業しているわけではなく、朝から晩までずっと閉まりきっている店も多い。
空を見上げると、雲一つない快晴が広がっている。
「ああ、今日も空が美しい。浪漫的な快晴ですわ。まるで世界がモミジとお姉様の事を祝福しているよう」
「てねえよ」
モミジは
「お姉様、心配しなくても、モミジはお客さんが一生来なくて貧乏生活でも、ずっとお姉様についていきますわ。だって、お姉様とモミジは、病める時も健やかな時も、共にあろうと誓い合った……」
「てねえよ!」
と、強引に彼女を振り払うが、ひらりと蝶のように彼女は軽く回転してから、近場に着地した。最強か、この娘。
「……と! お姉様と愛し合っていたい所ですが、まずは朝食の準備をしなきゃですわ。お姉様、少しお待ちしてらして」
「あ、うん」
色々と突っ込みたい所もあるが、確かにおなかがすいたので、黙っておこう。
「お待たせしました、お姉様。今日はモミジ特製の、モミジの愛だけが詰まった、
「今日は洋食なのね」
「はい、お姉様が洋食な気分な気がしましたので」
鋭い。確かにそうだったけど、ここまで正確に当てられると怖いわ。
「あ、うまい……」
卵と
モミジは、頭はおかしいが、良妻といっても過言でない程に、家事の腕は完璧だ。実際、彼女に求婚する男は星の数で、フラれた男も星の数だ。頭はおかしいが。
和食だけでなく、洋、中、と大体の料理は出来る。西洋化を受けいれてはいるが、完全に浸透したわけでなく、洋食もなんちゃって洋食が多い中、彼女の腕は完璧だ。頭はおかしいが。
「お姉様……」
その時、顔を上げた私の口の端にモミジの唇が触れた。
「ついてましたわ」
と、モミジは舌なずめりをしながら微笑むが、狂気しか感じない。
――これさえなければ、完璧な妹分なのに。
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