病院行け
思わず、思いっきり素手で彼女の頭にチョップした。とても痛い。
「もう、お姉様ったら……」
いくらモミジといえ女の子を殴るのは良くないと思ったけど、とても嬉しそうだから、いっか。
「もうお姉様は。いくらモミジでも、お姉様の好きな物を奪ったりしませんよ……今の所は」
「バカやってないで、この短刀を棚にしまっておいて」
「はい、了解しました、お姉様! 愛してください」
と、モミジはいつもの調子で刀を受け取る。
「あの、お姉様。この短刀って、どの程度の価値があるものなんですか? 愛してください」
「まあ、それなりにね。短刀において、無銘こそ名刀と言葉もあるからね。無銘だからといって侮れないのが短刀の凄い所よ。石田三成の日向正宗然り、鳥羽の九鬼家から徳川家へ渡った九鬼正宗然り……病院行け」
「ちなみに、鑑定すると幾らなんですか? 愛しています」
「五十
今現在、世界的に絵画にしろ陶器にしろ歴史的価値のある代物が人々に興味を持たれている。国によっては国の歴史を教える時に当時の陶器や武具を使う所もあるらしい。
――戦国の時代でも、国一つの価値のある茶器を交渉などに使っていたからな。
特に繊細な日本人が作る物は海外でも高く評価を受けており、それは直接国の経済に影響を与える。国家資格を生む程の影響力だ。当然その制度もしっかりしており、一度でも査定を誤れば鑑定界ではやってはいけなくなる。
「しっかし、意外ですわ。先程のお客さん、よくこの店見つけられましたね。ここ立地条件最悪なのに……お姉様と私の愛の巣に土足で踏み入れるなんて、末代まで呪って差し上げましょうか」
「やめなさい」
――でも、一理あるな。
認定鑑定士といえば、厳選な審査で決まる国家資格であり、一つの都市に一人が任命される。ただし、六大都市の東京市、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市だけは二人だが。
『芸術黄金期』と呼ばれるこの時代。旧時代の遺品の影響もあり、『浪漫財』の存在は大きい。華族の間では地位安定のための道具として、他国でもこの国の『浪漫財』は高い評価を受け、政にも使われる。
そのせいか、『浪漫財』を査定する認定鑑定士の審査は、真贋の審査以上に厳しい。
――私も、あそこで先代に出会わなければ、踏み込む事すらしなかった。
認定鑑定士になるための試験に加え、残留試験もあり――この世界は鑑定眼のみが語る、大変厳しい世界なのだ。
――厳しい……
ちらり ̄ ̄、とモミジを見ると、彼女は恋する乙女が如く頬を紅く染め――
「お姉様にそんなに見つめられた、モミジ……孕んでしますますわ」
「しねえよ」
「お姉様、ここは責任を取って、今宵こそ、モミジを貰って……」
「いるか!」
厳しい世界 ̄ ̄なんだけどな。
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