~64~ 友人のために――③

「…………」

 難しい顔をしながら、フランクはスマホの画面を見つめていた。

 自室で先日採用された企画案の詳細な詰めをしていたフランクは、突然送られてきたメールに複雑そうに眉根を寄せた。

「フランク。夕飯は何かリクエストがある?」

 ノックをした後、フランクの仕事部屋に友莉がひょこっと顔を出す。

 返答なくジッとスマホを見つめているフランクに、「どうかしたの?」と不思議そうな表情で友莉はフランクに近づいた。

「……意味不明なメールがエクトルからきたんだが……」

「また?」

 友莉は肩越しでフランクが差し出したスマホを見る。

『世界が本当に美しいことに私は初めて気付いた。仕事に追われ、マンネリな日々を送っていたが、こんな幸福に包まれる日がくるとは思ってもいなかったよ。今日、私は新しく生まれ変わった。明日からもよろしく』

 よく掴めない内容が綴られているが、確実に何かあったことを窺わせる内容だ。

「どういう意味だ?」

 フランクは不可解そうだが、友莉には理解できた。

「羽琉くんが勇気を出して一歩踏み出したってことじゃない」

「え?」

 短く聞き返すフランクに友莉はにっこりと微笑む。

「二人の仲が進展したってことでしょ」

 この文面のどこをどう取ればそう解釈できるのかフランクには疑問だが、そう思って読み返すと何となくしっくりくるような気もする。

「明日のエクトルは暴走するかもしれないわよ。しっかりコントロールしてあげてね」

 友莉の言葉を聞き、怖ろしさにぞわっと鳥肌を立てたフランクだが、それまでのエクトルの消沈具合を心配していた身としては、そのくらいの面倒なら喜んでみるくらいの心持ちの方が楽だと思い直した。

「良い方向へ暴走するなら、リュカと俺でフォローするくらいはできるだろう……多分」

 頼りなさげに付け足した言葉に、友莉は楽しそうに笑う。

「私は明日羽琉くんに会う日だから、その時に話を聞こうかな。フランクも、明日だけはエクトルの惚気話に時間を割いてあげなさいね」

 胡乱な眼差しではぁ~と溜息を吐いたフランクは、エクトルにどれだけの時間を割けば良いのか思案しつつ、中断していた仕事を再開させた。

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