~59~ ゲストルームでの一夜
エクトルや羽琉の部屋より広めに設計されているゲストルームは、クイーンサイズのベッドとシングルベッドが一つずつ、その間にローテーブルが一つ置いてある。もちろんバス・トイレ、洗面台なども設備されており、この部屋一つだけで悠々と一人暮らしできそうな雰囲気だ。
中央には北欧風ダイニングセットのテーブルとカウチソファが一つずつと一人掛けのソファも三つあり、複数人で寛げる空間にもなっていた。窓も大きめで採光も十分に取れ、出窓にはポトスやテーブルヤシなどの観葉植物が飾られている。壁紙やカーテン、照明なども凝っていて、ゲストルームとしても自室としても使える部屋になっていた。いつ誰が来ても良いように掃除が行き届いているのはサラのお陰だろう。
エクトルの手を引いてゲストルームに入った羽琉は、どこに座るか少し迷った後、ソファではなくベッドの方へ向かった。そしてクイーンサイズの方にエクトルを促し、対面するように自分はシングルサイズのベッドにそれぞれ腰を下ろした。
エクトルの碧眼は羽琉をずっと捉えている。まだ戸惑いで揺れているが、こうまでして自分を連れてきた羽琉の決意が固いことは分かった。
正面に座る羽琉を心配気に見つめるが、羽琉は頬を染め俯いていた。
何をどう切り出せばいいのか、互いに読み合いが始まったが、先に口を開いたのは羽琉だった。
「この間は、その……避けてしまってすみませんでした」
そう言って頭を下げた羽琉に、エクトルが謝らないで欲しいと首を横に振る。
「でもエクトルさんが嫌で拒絶したわけではないことだけはちゃんと言っておきたくて、入院中ずっと気掛かりでした」
「大丈夫です。羽琉の気持ちは分かっています。私の方こそすみませんでした」
「いえ。エクトルさんは悪くありません。僕が……」
「羽琉だって悪くありません」
どちらが悪いわけでもないのに、互いに謝り合っていることが何だか滑稽に思え、一瞬真顔になった後、二人でふっと笑い合った。
そしてしばらく笑い合って一息つくと、羽琉は「寂しかったです」とぽつりと呟くように言った。
「え?」
「入院中、エクトルさんに触れてもらえなかったことが……寂しかったです」
「羽琉……」
「すごく寂しかったです」
切なげに語られる羽琉の言葉に胸が締め付けられる。
「さっき言ったように、好きな人には触れて欲しいし、自分も触れたい。こんな風に思ったのは初めてです。だから……」
こんな時の誘い方を羽琉は知らない。
一際大きく深呼吸をした羽琉は、立ち上がると対面に座っているエクトルの正面に立った。そして自分を見上げるエクトルの方に身を屈めると、エクトルの首に腕を回し抱き締めた。
「……羽琉」
されるがまま羽琉の腕に包まれ、エクトルはそっと目を閉じる。
触れたい。キスしたい。羽琉をもっと愛したい。
自分を抱き締める羽琉の腕からもそれと同じ気持ちを受け取ったエクトルは、深く息を吸い込んだ後、そっと羽琉の腰に手を当てた。そしてそのまま羽琉を少し持ち上げるようにして抱えると、優しく自分の隣に座らせる。
「本当に、いいんですか? 羽琉」
確認するように訊ねると、羽琉は「はい」としっかり肯き返した。
「……」
息が止まりそうになる。
羽琉の覚悟に。芯の強さに。自分に向けられるその尊い愛に――。
「羽琉、愛してます」
「はい。僕もです」
羽琉を愛したい欲に促されるように、エクトルは羽琉をそっと横たえた。それから羽琉が怖がらないよう、様子を見ながらゆっくりと羽琉に覆い被さる。
恥ずかしそうに頬を染め、それでもエクトルから目を逸らさない羽琉に、エクトルはふわりと微笑むと、ちゅっと唇にキスをした。
「大切にします。優しくします。でも少しでも怖かったり、嫌だと思ったらちゃんと言って下さい。私を気遣う必要は全くありませんから」
「エクトルさんを怖いと思ったことはありません。いつでも、どんな時でも僕を想ってくれることを知ってますから」
羽琉に微笑み返され、エクトルも笑みを深める。
「我慢だけは絶対に駄目ですよ」
「はい」
互いに微笑み合いながら、次第に深くなる甘いキスを何度も交わした。
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