~32~ 何よりも大切な人

『!』

 翌朝、いつもはいないエクトルがデスクに座っているのを見て、リュカは驚いた。パソコンを凝視しているが、聞き漏れてくる音声から、どうやら欠席していた昨日の会議の録画を見ているようだ。

『おはようございます』

『おはよう』

『お身内の方は大丈夫だったのですか?』

 そう問われ、そう言えばとエクトルは思い返す。動揺していたせいですっかり忘れていた。

『あぁ、悪い。連絡するのを忘れていた。今は入院しているが、状態は落ち着いているよ』

 苦笑するエクトルに、リュカは『そうですか』と安心したような表情を浮かべる。

 連絡をすると言ったエクトルから何の連絡もなかったこと、そしてエクトルが今の今までそのことを忘れていたということにリュカは驚かされた。

 本当に珍しい――。

『余程大切な方なのですね』

『……そう。すごく大切な人』

 そう話すエクトルの表情はすごく柔らかく、思い浮かべている相手を慈しんでいるようだった。

『大事に至らなくて良かったですね』

『ありがとう。ところで昨日変更したスケジュールの確認をしたいんだが』

 エクトルの言葉に『はい』と肯いたリュカは、いつもの冷静なエクトルに戻っていることに安堵しつつ、持っていたカバンから電子手帳を取り出した。

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