~31~ 二人の家

 二人が帰るのを見送り、一人となったエクトルはソファに座ると気持ちを落ち着かせるようにふーっと長嘆を洩らした。

 友莉とフランクにまた助けられた。

 だがこういうふうに自分が冷静ではない時に、適切な助言をくれる友がいるというのはとても幸運なことでありがたいと思う。

 一人でいたら、友莉やフランクの言うように、病み上がりの羽琉に心配を掛けさせていたかもしれない。

 それはエクトルも本意ではないため指摘されて本当に良かったと思った。

「…………」

 音のない家の中は静か過ぎるほど静かだ。

 羽琉がいる時は調理している音やテレビを見て笑う羽琉の声など、生活音が溢れているのだが、エクトルだけになると半分以下の生活音しか聴こえない。

 そもそもテレビなどあまり見ないし、点けていたとしてもミュートにしているため映像だけしか流れない。食事もサラやナタリーが作ってくれているものを食すだけで調理をすることはほぼないし、食事が終わればエクトルはすぐに自室に戻り仕事をする。羽琉と同棲するまではそんな冷めた生活をしていた。

 だが羽琉と住むようになって、家の雰囲気もだいぶ変わったとエクトルは思う。

 羽琉がいるこの家は華やかで温かで、色を感じ、匂いを感じ、穏やかな空気が流れ、エクトルにとって今まで以上にすごく居心地の良い癒しの場所となった。

 朝は羽琉がエクトルを起こしに来てくれ、朝食を共に摂って羽琉に見送られて出社。昼間は仕事をし、帰宅すると可愛い羽琉のお出迎えが待っている。それから羽琉と一緒に夕食を摂り、一緒に片づけをし、それぞれ入浴を終えると、就寝前の二人っきりの甘い時間を過ごす。

 羽琉と過ごす日々は、どれも輝いていて幸せで充実していた。

 もう羽琉のいない生活は考えられない。

「……」

 そう思ったエクトルは、ソファから立ち上がると自室に行き、荷造りをし始めた。

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