~4~ 必然の導き
今朝の約束通り、午前上がりで帰ってきたエクトルと外で昼食を摂った羽琉は、その後、街でウィンドウショッピングを楽しんだ。
エクトルとしては、本当はショッピングのつもりでショップを転々とはしごしていたのだが、エクトルの思惑を羽琉が片っ端から断ったため、結局ウィンドウショッピングになってしまった。
しゅんとするエクトルに「では夕食の買い物に行きませんか?」と羽琉が提案すると、エクトルはパッと表情を明るくし「はい」とにっこり微笑んだ。そうして買い物をしてから二人は自宅へと帰り着いたのだった。
「何か考え事ですか? 羽琉」
玄関のドアを開け家の中に入った直後、エクトルが見透かしたように羽琉に訊ねる。
どうやら昼食中も買い物中も、会話の合間合間で上の空だった羽琉のことを心配していたようだ。
「あ、いえ……」
少し迷ったが別に隠すようなことでもないし、隠したところでエクトルに見抜かれるのは分かっているため、羽琉は午前中にあったことを話すことにした。
「朝、スケッチついでにいつもの公園まで散歩に行ったんですが、そこで女性の方に声を掛けられて……」
リビングのソファに座りつつ、羽琉は話し始めた。
「女性?」
羽琉の隣に腰を下ろしたエクトルの眉が即座にピクリと反応する。
「あ、僕よりも年上の女性の方です。多分、親くらいの年齢だと思います」
「女性……」
エクトルにとって、年齢はあまり気にならないらしい。それよりも恋人である羽琉に声を掛けた女性がいるということがかなり引っ掛かっているようだ。
「急に話し掛けられたので、少しびっくりして……」
「大丈夫でしたか?」
羽琉の頬をそっと撫でながら、エクトルはすぐに羽琉の体調を気遣った。
心配気な表情のエクトルに羽琉はにっこりと微笑むと、すぐに「大丈夫です」と返す。
「まだ人と話すのは苦手ですが、呼吸が乱れることはありませんでした」
「無理をしてはいけませんよ。辛い時はちゃんと言って下さいね」
まだ心配の色を滲ませているエクトルに、羽琉は素直に「はい」と肯いた。
「それでその女性とはどんな話をしたんですか?」
「これと言って会話らしい会話はできなかったんです。僕の様子を察してすぐに会話を終わらせてくれたので……」
「……女性の方から話を切り上げたのですか?」
「はい。別れる間際、また会った時に話相手になってくれるかと訊ねられたんですが、僕の性格上難しいと思ったので少し遠回しにお断りしたんです。特に気分を害されることなく帰られたんですが、その、今ちょっと後悔してて……」
羽琉は申し訳なさそうに顔を歪める。
「この辺りの方でしょうか? どんな方でしたか?」
「ブロンドの髪が肩まであって笑顔が可愛らしい方でした。あ、そう言えばバッグにキーホルダーをつけていました。空洞になっているキーホルダーの中に水みたいな液体が入ってて、それがキラキラ光ってて綺麗で……」
羽琉の言葉にエクトルは眼差しを鋭くした。
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