~2~ 愛の度合い

「ん? メール?」

 取引先との商談のため本日午後出勤になっていたフランクは、ゆっくりと朝食を摂っていたのだが、テーブルの上に置いていたスマホが鳴ったことで画面に目を落とした。そして表示されたエクトルの名前を見て、慌ててメールの内容を確認する。

「……?」

「なぁに? どうしたの?」

 不可解そうなフランクの表情に、キッチンにいた友莉ゆりが声を掛けてきた。

「文面の意味が分からない」

「どれどれ……」

 食器を洗っていた手を止め自分に近寄ってきた友莉に、フランクは持っていたスマホの画面を見せる。

「……『決めた』?」

 エクトルからのメールの文面はそれだけ書かれていた。

 仕事の内容だと思っていたフランクは拍子抜けしてしまったが、その一言だけ書かれたメールが逆に気になる。

「友莉。これ意味が分かるか?」

「……」

 何を決めたのかは書いてないのだが、エクトルの中で何か固い決心をしたことは分かる。

 友莉は思案するように黙考した後、「もしかして」と呟くように口を開いた。

「羽琉くんとのこと、かしら?」

「……羽琉さん?」

「だって、エクトルがこうしてフランクに言うってことはそれぐらいしかなくない? 仕事のことだったら詳細をきちんと書くだろうし、会社で会った時に言えばいいじゃない。でもこの時間帯でメールを送ってくるってことは、私にも知らせる意味もあったんじゃない? 私とフランクに共通してて、『決めた』って送ってくるってことは羽琉くんのこと以外思いつかないんだけど」

「確かに。ということは……結婚、とかってことか」

 その言葉に友莉は眉根を顰めた。

 羽琉に無理強いするようなことにならないか不安になる。

「ねぇ。フランクから見て、エクトルと羽琉くんの関係性ってどう見える? 愛の度合いが強いのはどっち?」

「エクトル」

 フランクは考えるまでもなく即答した。

 相思相愛だとは思うが、明らかにエクトルの方が羽琉のことを好きだろう。抑えているつもりでも、エクトルの羽琉に対する態度は傍から見ていても恥ずかしくなるほど熱くて甘い。これまで付き合ってきた女性たちには見せたことのない態度だ。

「気持ちが暴走してるわけじゃないわよね?」

「……」

 そこに関しては即答できず、フランクは口を噤んでしまう。

 羽琉が初恋だからか、エクトルの想いは強過ぎるような気もする。

 もちろんそれが悪いわけではないが、本人が気付かないうちに羽琉を追い詰めてしまっているかもしれないとなれば、ある程度自制しなければならないだろう。しかも羽琉は過去のことに加え、フランスに慣れないといけないという課題まで抱えている。

「二人の問題だから口出しはしないけど、羽琉くんの親友としてはもう少し見守ってあげて欲しいなぁ……」

 フランク同様、友莉も今の状態で羽琉がエクトルの想いを全て受け止めるにはまだ早いような気がしていた。

「エクトルのことだから、羽琉さんの様子に少しでも拒否反応を感じたら無理を通すことはしないだろう」

「まぁ、エクトルの弱点は羽琉くんだしね。羽琉くんに嫌われることは絶対にしないか」

 納得する友莉にフランクもコクリと肯く。

 結局、エクトルを暴走させるのも制御させるのも、羽琉にしかでき得ないことなのだと二人はしみじみ思った。

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