第2話 グール
「なにか起きないかな」
そう昨日に
もう日が暮れて外は暗い。それでもまだ解決しておらず、村の人たちは
どこも今夜は
それは昼すぎのこと。
西の森へ、女の人たちがきのこ
そこで普段ならめったに見かけない
運よく女の人たちは逃げだせた。知らせを聞いた
小さいからといって油断はできない。グールであれば、おとなが二人がかりでも危険だからだ。
数年にいちど、このあたりにもグールが
「
と呼ばれるさらに強い獣も、遠い異国の地にいるらしい。
なにか起きないかな、などと昨晩に思った自分をしかりたい。
村長である父さんは、村の中央で
自身の部屋にある寝台でよこになり、目をつむる。
父さんや村の人たちが心配で寝つけなかった。
それでもうつらうつらと寝かかったとき、だれかの声で目がさめた。
「いたぞ、そっちだ!」
声は外からだ。寝床から飛びおき居間にいく。
居間には父さんがいた。テーブルの上に食事がある。夜食を食べにもどっていたみたいだ。
父さんは腰に剣をさして出かけようとしている。ぼくも壁にかけてある自分の弓をつかんだ。
「おまえは家にいなさい」
「そんな、
「家を守りなさい!」
ほんきで怒ったときの顔をした。これは、あきらめたほうがいい。
父さんを見送り、食卓の席へついた。
食卓に残された夜食に手をのばす。父さんが食べていたムサカの残り。
ムサカは、ジャガイモとひき肉のかため焼きだ。冷めていても母さんのムサカはおいしい。そう思っていたら、となりから女の子のさけび声が聞こえた!
弓をつかんで飛びだす。となりの家を見ると、窓の外に
すぐに弓をかまえ
ぎゃっと獣は鳴き声をあげ、落ちるやいなや、今度はこっちにむかって駆けてきた!
あわてて矢をつがえようとした。だが間に合わない! そのとき、うしろから冷たい水を浴びせられた感覚になった。
だれかが水の精霊呪文をかけた。そう思ったけど、そのまま気が遠くなっていった。
気がつくと、父さんがいた。
ぼくの頭を父さんが抱きかかえている。
「だいじょうぶそうだな、アト」
頭がぼうっとした。上半身を起こしてみる。目まいなどはなかった。たぶん、だいじょうぶだ。
「ゆるせ、アト。味方にも『
そう声をかけてきたのは、村で一、二をあらそう戦士であり、守兵副長のトーレスさんだ。
「気をつけろ、この子は人間だぞ」
村のだれかが注意した。
「いや、息子は
父さんがぼくをのぞきこんだ。
「アトボロス、起きれるな?」
「もちろん」
ぼくは立ちあがった。ふらついたけど足を踏んばる。ここラボス村の男は弱音を吐かないのが伝統だ。
「父さん、グールは?」
「いい腕してるぞ、アト」
声がしてふり返った。答えたのはホントスだった。ぼくよりすこし年上のホントスは、半年前から訓練兵をしていた。今夜も見まわりに参加していたらしい。
そのホントスが、矢の刺さったグールを手にぶらさげている。
ぼくが射たグールだ。かたちは小鹿というより
村の人が口々に漏らす声が聞こえる。
「見たことがない種だな」
「北の山か?」
「いや、こんな種は山にはおらん、西の谷じゃなかろうか」
これまでのグールとはちがうらしい。
グールがどこからくるのか、どうやって生まれるのかは謎だった。異種交配の呪いによって生まれると言い伝えられている。
「アト、母さんに湯をわかしてもらいなさい」
父さんは、そう言ってぼくの背中を押した。
家に入ろうととしたら、となりに住む女の子、ニーネに抱きしめられた。あの悲鳴はニーネだろう。無事でよかった。
お風呂につかりながら、今日の一日をかんがえる。
ぼくも精霊がつかえればいいのに。
ぼくは、まったく精霊がつかえない。うそだろう、犬人族の人ならそう言うと思う。犬人族なら
父さんがいろいろ調べてくれたけど、人間はどうやら
父さんはむかし、優秀な
血はつながってないけど、両親のどちらも優秀な
でも
自分の非力さがくやしい。まあ、ニーネが無事だったので、よしとするか。
氷結呪文を受けていたせいか、ニーネはとても温かかった。からだが細い彼女を守れるぐらいには強くなりたい。
なんだか、むしゃくしゃしてきた。
目をとじて、ざぶんと湯船のなかに頭までもぐる。今日の一日を忘れるまでもぐってみよう。そう思ったが苦しくなってすぐに立ちあがった。
「ぶはっ!」
「アト!」
湯小屋の戸があいていて、母さんがのぞいていた。
「
「はいっ!」
「明日は水くみしてね」
「……はい」
怒られてしまった。でも自分がつかったのでしょうがない。起きたら小川まで水くみにいこう。
村の高台にある家は、みはらしはいいけど、水くみ場まで遠いのが難点だった。
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