第66話 レヴェノアの街
大きな街ではあるが、のどかな街だった。
街のまわりに防壁はなく、入口をしめすのか、大きな石柱が二本立っていた。そこから黒っぽい石を使った石畳がのびている。
建物は密集というほどではなく、二階建ての建物が多い。
街の入口から住民を観察した。この街はアッシリア南部の交易要所だとグラヌスが言っていた。そうなのだろう。くたびれた服に荷物が多いのは旅人だ。行商人の荷馬車も見かける。数は多くないが、猿人もわずかに見かけた。
「全員で入っても問題なさそうだな」
アトがうなずく。ペレイアの街では安易に入って注目をあびてしまった。
この仲間で旅をしていると、猿人だの犬人だのを忘れてしまう。なんせこっちには人間と鳥人がいる。さらには猫人まで増えた。
「これが、うわさのレヴェノアの石道か」
グラヌスが地面を見ていた。おれも下を見る。ただの石畳だ。
「おい、いちいち踏みしめる地面に感動するなよ」
この犬人はウブラ国に入ったさい、しみじみと地面の土を踏みしめていた。あいかわらず大げさだなと思ったら、グラヌスは剣をぬいた。
「ちがう。この石畳を見られよ。正確に四角い石が、きっちり交互に組みあわさっている。それが刃も通さぬ正確さで」
見るとほんとうだ。石と石のあいだに隙間がない。グラヌスが剣先を隙間に刺そうとしたが、まったく入らなかった。
「あの山脈、鉱石も有名だが、石の採掘場も多い。ここの石工はすぐれた技術があると有名なのだ」
なるほど。おれは街を見まわした。バラールのような高い建物はない。だが、それぞれ建物の土台には石積みがあった。その上に漆喰の壁。屋根は
土台の石の黒、白い壁、橙の屋根。おなじ三色になった二階建ての家々がならぶので、秀美な街なみを作っている。
「おい! 貴様、剣をふりまわし、なにしとるか!」
赤い布に金の刺繍が入った
また牢屋か、そう思ったが、領主に用事があると言うと、兵士の男は顔をしかめた。
「くそう、ならついて参れ」
「あら、捕まえないので?」
どうやら、領主のもとへ案内してくれるらしい。
「領主への面会は、われら兵士は止めぬと、約束してある」
ほう。ここの領主、やり手かもしれない。兵士はアッシリア王都から派遣のはず。街のあちこちに、おなじ赤の外套を着た男を見た。兵士の数は多そうだ。しかし好き勝手にはさせていない、ということか。
兵士のうしろを歩きながら家々を見た。温暖な気候だからか、どの家も窓を開け放っている。物を売る店のほかに、革細工や鍛冶屋の工房もあった。
バラールの都ほど人は多くない。石畳の通りを歩く人もまばらだ。でも街には活気がある。
さきを歩く兵士は街の中央へ伸びる黒い石畳からそれ、街のはずれにむかい歩いていく。
その街のはずれには、大きな
二階建ての二階には、小ぶりな窓がならんでいた。来客を泊めるための客室だろうか。
「ここだ。悪さはせぬように」
兵士は、おもしろくなさそうに告げ、歩き去った。
「ちょっと、聞いてくれ」
おれは仲間の三人へむいた。
「領主との会話、おれにまかしちゃくれねえか」
グラヌスが首をひねった。
「ラティオ殿、わざわざ断ることでもないと思うが」
「おれ以外は口をつぐんでて欲しいんだ」
グラヌスが首をひねる。おれは館を見あげた。
「この街、統治がいき届いているように見える。そのわりに、領主の館はふつうだ」
グラヌスも館を見あげた。
「おかしくねえか。領主ってのは高い城か、権威を誇示するために大きな建物を好むはずだ」
ペレイアで兵士がいた詰所は街一番の塔だった。バラールの役所は巨大な石の建造物。ゴオ族長ですら、自分だけいつも馬に乗っている。それにくらべ、ここの領主だ。
「できた
できた御仁であればいい。みょうに切れ者だとやっかいだ。
「街の防壁はなく、兵士は王都の兵に丸投げ」
言ったのはヒュー。鳥人族め、よく見ている。兵士の数は多かったが、民兵らしき姿は見なかった。領主の館も堅牢な石造りでもない。ここまで防御を考えていない領主ってのは、初めて見る。
「さぐられて困る黒い腹はないが、警戒はされたくない。なんせ、おれらの見た目は変わり種だ」
アトとグラヌスが見あった。意味がわからなかったようだ。
「
ヒューが言った。いいかもしれない。この四人は歳が若い。行商人というのも変か。
「そうだな。変わった集団には、変わった職業だ」
それから四人で口裏をあわせ、領主の館へと入った。
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