第65話 グールの追跡
追うグールは三匹。
山へ入ると
三匹というのが追いやすかった。草のしげみの倒れかたがわかりやすい。フンも見つけた。三匹いるのだ。フンをする回数も多い。
三匹は山へ登ってはいなかった。山すそを進んでいる。
行き先はグールの巣穴か、あらたな村をねらうのか。または
できれば巣穴であって欲しい。ラボス村が襲われてから今日まで、人はグールに
「待って」
アトが止まった。うしろをふり返る。
「風が変わった。これだと、ぼくらが風上になる。いまグールの方向はこう」
前方を指さした。
「一度、山へ登るように迂回し、さきでもう一度、痕跡を見つけよう」
風上か。ヒックイト族でも狩りの上手なイブラオあたりは、そこまで気をくばる。
「アトが習ったのは、父親か」
人間の少年はうなずいた。父とは話に聞く犬人族のセオドロス。
「狩りが上手だったんだな」
「父さんが村で一番だった」
村長をしていた父セオドロス、
「ではいこう」
「アト殿、待ってくれ。自分が先頭を行く」
グラヌスが先頭になり、山の斜面をななめに登る。
ふたりを背中を見ると、しみじみ思う。四種族がおなじ道を歩む、あり得ないことだ。そのあり得ない状況を作っているのがアトだ。
アトが人を寄せつけるのは、わかりやすいからだろう。若さなのか、できた親の教えなのか、アトの心はまっすぐだ。
おれは昔から人をうがって見るほうだった。そのためか、友と呼べるような者はいない。まさか、人生初の友が人間族になるのだろうか。
おもしろそうだから流れでここまで来た。危なくなったら逃げればいい。ヒューだけでなく、おれもそう考えていた。
うしろのヒューをふり返る
「ラティオ、どうかしたか?」
「いや、べつに」
しかしヒューよ、危なくなって去れるのか。ここまでまっすぐに信用されることなど、このさきの人生であるのか。
「ラティオ殿、歩く方向がまずければ、すぐ言ってくれ」
先頭のグラヌスがふり返った。うなずいておく。そうだった。類は友を呼ぶ。アトが連れてきた犬人もおかしなやつだ。
アトをヒックイト族に入れる。ラボス村がなくなってから、それをねらっていた。
アグン山は、特におもしろいこともない山奥。おまけに閉鎖的だ。場所がアグン山ではなく、フーリアの森のように豊かな場所であれば閉鎖的でもいい。だが、あんな山奥で人を拒絶して暮らしていても、豊かにはならない。
アトがヒックイト族に入れば、きっとおもしろくなる。そう思ったが、猿人以外の仲間がごろごろ増える。どうしたものか。
しばらく山を登るように進み、今度はななめにおりる。三匹の痕跡をさがすと足跡がすぐに見つかった。
まだ風はうしろから吹いている。もう一度、迂回するように山を登った。
「おかしいな」
さきを歩くアトがつぶやいた。おそらく、おれもおなじことを思っている。それは話さず、ひたすらに追跡をつづけた。
山すそに沿ってのびる三匹の歩く痕跡は、ふいに山をおりた。広がっていたのは平原だった。ところどころに草むらがある。
足跡や草むらの折れた痕跡から考えると、まっすぐだ。三匹のグールは平原を南へつっきり山脈へとむかっている。
「このままいくなら・・・・・・まさかな」
グラヌスがなにか言おうとして口をつぐんだ。
「なんだ、三匹のめざす場所がわかったのか」
「いや、ラティオ殿、気の迷いだ」
「言ってみてくれ。おそらく当たっている」
犬人の戦士が、おどろいたようにおれを見た。おれはうしろの少年へふり返る。
「アトもそう思うだろ?」
おれより狩りがうまい少年はうなずいた。
「そうなんだ。野生の動物は
やはりアトが感じた疑問はおなじ。通常の狩りで追跡すると、あちらこちらに歩く。それがまっすぐだった。
「では、自分が思ったことを述べてみる」
グラヌスは平原のさきにある山脈に指をむけた。
「あの山脈が、アッシリア国の最南端となる。そこにあるのは鉱山」
「鉱山?」
「ラウリオン
そういえば。腰にさしていた剣をぬいた。
「この剣をバラールで買うとき、アッシリア国の南部で作られていると聞いた」
グラヌスがうなずく。
「ラウリオン産だろう。鉱山だけでなく山すそには村があり、精錬場や工房などもある」
「おい、それって・・・・・・」
四人が見あった。その村は大丈夫なのか、と四人ともが思っただろう。
いそぎ南の山脈にむかい歩きだしたが、グラヌスだけ立ち止まっていた。
「どうした、グラヌス」
「鉱山を所有するのは、レヴェノアの領主だ」
「自治領か!」
おれは最北のアグン山に住んでいるので、南部のことは、ほとんど知らない。
「ああ、かといってバラールのような華やかさはない。南部は自治領が多いが、どれも辺境の田舎だ」
すこしがっかりした。バラールのような都が南部にもあるのかと思った。
「レヴェノアの街にいけば、なにかわかるだろう」
なるほど。おれたちは南の山脈にむかうのをやめ、レヴェノアへと歩きだした。
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