第67話 領主ペルメドス
領主の館に入ると、すぐに使いの者がきた。
「領主にお会いしたい」
「かしこまりました。武器をおあずかりいたします」
おれは腰にさした剣を
「当レヴェノア産、お目が高い」
使いの者が嬉しそうに言う。アトが鉄の弓をわたしたときは、めずらしそうに見た。
「ペルメドス様はこちらでございます」
ペルメドスというのか。館の奥深くに案内されると思いきや、入口からすぐの部屋だった。
使いの者が扉をたたく。
「ご面会でございます」
「入ってくれ」
扉を見ると、やはり違和感がある。ふつうの木の扉だ。装飾もなにもない。領主の部屋ならもっと重苦しい扉でもよかった。
部屋は執務室のようだ。入口にむかって置かれた大きな机に男が座っている。
これが領主ペルメドスか。おれの父ガラハラオより、ひとまわりは年上の犬人だ。武人のような威圧感はない。そして高位の役人にいがちな切れ者の雰囲気もなかった。
「これは、異国のかたですかな。四種族が肩をそろえるとは、めずらしい」
領主はアトを見ていた。その視線上に割って入る。
「旅の一座です。おれはカジフって言います」
「カジフ様、レヴェノアへようこそ。人間族のかた、お名前は?」
アトが背筋をのばした。
「ええと、タルボと言います。旅の一座で雑用をこなしております」
入るまえに決めておいてよかった。グラヌスとアトは国を裏切った形になっている。ないとは思うが、手配書がきているかもしれない。
「タルボ殿ですか。では御用件をお聞かせ願いますか」
それほど、さぐりを入れてこない。やはり手配書は考えすぎか。そもそも戦争を止めたというのは、なんの罪にもならない。
「鉱山へ入りたいのです」
「旅の一座がなぜに?」
ここは特に、ごまかさない。ごまかしようがないからだ。
「ソロア村で人さらいが起きました。村長から頼まれ、われわれが調べています。どうやら盗賊が鉱山にひそんでいるようで」
グールがさらったとは言えない。あまりに
「鉱山。すこし、お待ちを」
そう言って領主は部屋からでていった。しばらくして帰ってくる。
「週に一度はラウリオンからの荷が入ります。今日のはずが、まだきていない模様。盗賊に邪魔されましたかな」
思わず仲間と見あった。そのていどであればいいが。
「兵士にラウリオンの村へ視察依頼をだします。待たれてはいかがか?」
そうか、そういう流れになるのか。兵士がくるとやっかいだ。
「申しわけないが、命がかかっている。勝手に入らしていただきたい」
領主はうなずくと机の引きだしから木札をだした。入山札だ。やはり勝手には入れなかったか。鉱山は通行証が必要かもしれない、そう言ったのはグラヌスだった。
入山札をもらい、領主の館をでる。
「いい人だった」
アトがほっとしたような顔で言う。いい人そうだが、よく読めない御仁だった。
「アト、急に話かけられて、まちがえそうになっただろ」
「だって、名前を嘘つくなんて初めてだ!」
そりゃそうか。おれなんかは、バラールで女に声をかけるときは、適当な名前にする。世間知らずのアトなのか、おれが世間にすれているのか。
「馬を買って、急いでソロア村だな」
「ラティオ殿、自分が言うのもなんだが、使えぬ兵士がくるまえに・・・・・・」
たしかに、もと兵士のグラヌスが言うと皮肉でしかないが、もっともだ。へたに兵士がきて入山禁止にでもされたらやっかいだ。
「替えの馬も買い、潰れたら乗り捨てる。できるかぎり急ごう」
三人がうなずく。潤沢な資金があってよかった。こりゃフーリアの森の民に感謝だ。
レヴェノアの街からソロア村は、それほど遠くない。
日をまたいだ次の日には村へ着いた。
村へ近づく馬蹄の砂煙でわかったのか、村人が外へでてあつまってくる。そのなかにイーリクやドーリクの姿もあった。
「なにとぞ、よろしくお願いします」
頭をさげたのはソロア村の村長だ。イーリクたちとすでに話はしているか。
「なるべくのことはする。だが期待しないでくれ」
必ず助けるとは約束しない。それをすれば、助けられないときは約束をやぶったことになる。
「イーリク、ドーリク、ボンじい、マルカ、すぐにいくぞ」
四人はうなずき、三人が村の
「なにとぞ、なにとぞ子供を」
村長の老犬人は、村をでる最後までついてきた。
「そうだな。必ず報告にはもどる。一週間たってもこなければ、レヴェノアの領主に言ってくれ」
老犬人が、はっとなった。そう、子供が心配なのはわかるが、おれたちも命がけなんだ。
老犬人はなにも言わず、ただただ深く頭をさげた。
人さらいが人であれば希望はあった。だが、さらったのはグールだ。おれの考えでは赤子は一人として生きていない。
それでも、いまは急ぐときだ。おれは馬の腹を蹴った。手綱もたたく。八人を乗せた六頭の馬が、土煙をあげて荒野へと走りだした。
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